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パラグアイに7-0。海外組が合流したなでしこジャパンの現在地、攻守は強豪国に通用するか

松原渓スポーツジャーナリスト
1年1カ月ぶりの国際親善試合となった(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

【多彩な崩しから7得点】

 4月8日、仙台のユアテックスタジアムで行われたパラグアイとの国際親善試合で、なでしこジャパンが7-0で大勝した。

 7月の東京五輪に向けた強化試合だが、FIFAランキングは日本の10位に対してパラグアイは47位で、W杯や五輪への出場経験はない。本番を見据えれば、ランキング上位国との対戦が望ましい。実際、代表戦が世界中で行われる今回の国際Aマッチデーで、オーストラリア(FIFAランキング7位)はドイツ(2位)・オランダ(4位)と対戦し、アメリカ(1位)はスウェーデン(5位)やフランス(3位/五輪は不参加)との親善試合を組んでいる。五輪に出場するライバルたちも、コロナ禍で着々と準備を進めているのだ。

 高倉麻子監督は11日のパナマ(59位)戦と合わせた今回の2連戦について、「来ていただける中で最善のチームを呼んだと思っています」と明かした。各国の水際対策やコロナ禍の状況もマッチメイクに影響を与えているのかもしれない。そうした中で、遠路はるばる、南米と中米から来日してくれたことに感謝したい。

 今回の2連戦の期間中は、空港から厳しい防疫体制が敷かれ、出場国は日本も含めてホテルからは出られない。なでしこジャパンも国内組と海外組は食事会場やフロアが分けられ、ピッチ以外では接触できないなど、外部との接触を遮断する「バブル」システム下で試合が行われた。

パラグアイ女子代表
パラグアイ女子代表

 パラグアイには、スペインやイスラエルでプレーする海外組もいるが、大半の選手は国内リーグの所属だ。しかし、パラグアイの女子リーグはパンデミックの影響を受け、昨季は国内リーグ戦が中止になったという。

 A代表同士の対戦は今回が初めてだが、年代別代表では2014年のU-17W杯と2018年U-20W杯で対戦し、いずれも日本が勝っている。後者で指揮を執ったのが、今回A代表を率いるエピファニア・ベニテス監督だ。試合の前日会見では、日本のスピードや技術を警戒しつつ、「パラグアイは、南米ではヘディング空中戦に強いことで知られているチームです。フィジカル面でも屈強な選手たちがいるので、そうした特徴を生かして戦いたいと思います」と、カウンターに勝機を見出す発言があった。

 しかし、試合は前半で3-0と差が開いた。日本のパスワークに翻弄され、点差が開いていく中でモチベーションを保つのは難しかったと思う。だが、途中で諦めるようなプレーはなく、最後まで体を張って守ろうとする姿勢が見られた。

 個人の力量差もあったが、それ以上に、組織力の差がスコアの開きにつながった印象だ。

 パラグアイは自陣でブロックを作ったが、前半6分、セットプレーの流れから、FW岩渕真奈が競り合ったボールのこぼれ球を、DF南萌華が豪快に蹴り込み、代表初ゴールで先制。パラグアイは1対1の競り合いで強さを見せたが、セカンドボールや2人目、3人目の動きに対してボールウォッチャーになる傾向があった。日本にとって、同じようにゴール前を固められた19年W杯のアルゼンチン戦(0-0)のような苦しい試合にはならなかったのは、早い時間帯に先制点を奪えたことも大きい。

代表デビュー戦となった北村菜々美(右)
代表デビュー戦となった北村菜々美(右)写真:長田洋平/アフロスポーツ

 その後も、前線からの連動した守備でパラグアイに反撃の隙を与えず、ボランチのMF中島依美とMF三浦成美、左サイドのMF杉田妃和と右サイドのMF北村菜々美が流動的に動いて相手のマークを幻惑。2トップのFW菅澤優衣香と岩渕は対になる動きで、菅澤がポストプレーでためを作り、岩渕は中盤も含めた幅広いエリアで、持ち前のドリブルやターンで攻撃にアクセントを与えた。両サイドバックのDF鮫島彩とDF清水梨紗は、スピードを生かしたオーバーラップで攻撃に厚みを加えた。最終ラインはセンターバックの南とDF宝田沙織、GK池田咲紀子が高いラインをキープしつつ守備をコンパクトに保ち、パラグアイが犯したオフサイドは前後半合わせて8回に上った。日本は先発の11人中10人が2019年のW杯メンバーで、攻守の連係に成熟度の高さが感じられたが、この試合が代表デビュー戦となった北村も違和感なくプレーしていた。

 意図的にテンポを上げようとしてコントロールを失い、ミスが目立つ時間帯もあったが、奪われた後の守備の対応は早かった。26分には、中盤でつなぎ、三浦のパスから最後は岩渕が決めて2-0。36分には中島の直接フリーキックに岩渕が頭で合わせて相手DFのオウンゴールを誘い、リードを3点に広げて前半を折り返す。52分には、宝田のパスを起点に岩渕、三浦と繋いで、最後は菅澤が決めた。

 ショートパスだけでなく、中・長距離のパスを効果的に織り交ぜたことも、パラグアイの守備を混乱させた要因だろう。63分の5点目は、それが結果につながった。岩渕の動き出しに、宝田のロングパスがシンクロし、相手GKの予測ミスを誘って最後は岩渕が押し込んだ。「ハーフタイムに、対角線の相手の裏を意識しよう、という話が出ていました」(岩渕)という、狙い通りの形。

(左から)菅澤優衣香、宝田沙織、南萌華
(左から)菅澤優衣香、宝田沙織、南萌華写真:長田洋平/アフロスポーツ

 アシストを決めた宝田は、U-20パラグアイと対戦した18年のU-20W杯(日本が6-0で勝利)ではFWで出場し、ハットトリックを決めている。代表デビューを果たした19年のW杯もFWで登録されていたが、すべてのポジションでのプレー経験があり、昨季まで所属していたセレッソ大阪堺レディースではセンターバックでプレーすることもあった。昨年10月以降は、A代表でもそのスピードやビルドアップ能力の高さを買われて最終ラインが主戦場になり、今季加入したワシントン・スピリッツ(NWSL/アメリカ)でも、五輪を見据えて自らセンターバックでプレーしたい意思を伝えたという。

 ゴールを決めた岩渕は、この5点目について、「(宝田)沙織は飛距離があるボールを蹴れる選手で、自分の動き出しを見てくれていました。(自分が触らずに)沙織の(代表初)ゴールにしようか、触ろうか迷って(相手との間に)体を入れていたのですが…相手に押されて触ってしまいました」と、後輩への思いやりものぞかせた。

 66分には、FW浜田遥が代表デビューを果たす。さらに、海外組のFW田中美南(バイヤー・レバークーゼン)、FW籾木結花(OLレインFC)の2人も66分から出場し、80分にはMF林穂之香(AIKフットボール)と、海外組が立て続けにピッチに立つ。85分には18歳のMF木下桃香が代表デビュー。新戦力が多くなり、終盤はテスト色も強まった。選手同士の動きが重なる場面もあったが、終了間際には、籾木のシュートと、その籾木のクロスに合わせた田中のダイナミックなヘディングが立て続けに決まり、7-0でゴールラッシュを締めくくった。

今回の2連戦はチームの骨子を固めつつ五輪に向けた選手選考の場にもなる
今回の2連戦はチームの骨子を固めつつ五輪に向けた選手選考の場にもなる写真:長田洋平/アフロスポーツ

【強豪国と対戦した数々の経験を糧に】

  今回の強化試合は、五輪に向けたメンバー絞り込みの一つのプロセスでもある。ケガで一時的に外れている選手もいるが、チームの軸はほぼ固まっており、パラグアイ戦のスタメンは現時点でのベストメンバーに近い。三菱重工浦和レッズレディース、INAC神戸レオネッサ、日テレ・東京ヴェルディベレーザの選手たちを中心に代表常連組のコンビネーションは良く、パススピードが上がり、効果的な縦パスも見られた。岩渕(アストン・ヴィラ/イングランド)、田中(ドイツ)、 籾木(アメリカ)、林(スウェーデン)、宝田(アメリカ)ら、海外組は準備期間が少なく、コンディション面も不安視されたが、移動や時差なども含めて体の重さは感じさせず、この試合でも岩渕の決定力が際立った。

攻撃を牽引した岩渕真奈
攻撃を牽引した岩渕真奈写真:長田洋平/アフロスポーツ

 とはいえ、試合後は勝利の笑顔とは裏腹に、内容面では誰もが慎重に言葉を選んだ。昨年3月のシービリーブスカップでは、アメリカやイングランドの厳しいプレッシャーに圧され、一つのミスが失点に直結する厳しい現実に直面した。それだけではなく、この5年間で、日本はすべてのFIFAランキング上位国と対戦してきた。圧倒された試合もあったが、その経験から、強豪国との対戦に必要な「心・技・体・知」を逆算し、継続的に取り組んできている。五輪本番ではアメリカやイングランドに加え、W杯で敗れたオランダや、2017年に0-3で完敗したスウェーデンなど、かつて日本を破ってきた国々と対戦する可能性がある。

 だからこそ、今回のテストマッチの内容も、「強豪国に対してこれが通用するかどうか」という目で冷静に分析しなければならないと、誰もがわかっている。

 高倉監督は、攻守のコンビネーションについて一定の手応えを口にしつつ、「パスのずれや動きのタイミングが合っていなかったり、もっと変化を生み出せるのではないかな、という場面がたくさんあるので、そこを磨きながら決定率を上げていきたいです」と話し、特に決定力については日頃の練習から個々の更なる取り組みを求めた。

 強豪国の代表クラスが揃う海外リーグでプレーした選手が、国内リーグとの違いとして挙げる一つが、「シュートを決め切る勝負強さ」だ。ドイツリーグでプレーしている田中もその一人で、「うまさとか賢さは日本の方が上だと感じますが、それを補うぐらいのパワーや迫力がドイツにはあります。試合に臨む姿勢とか、一本一本のパスとかシュートが『戦い』だな、と。球際で『絶対にマイボールにする』という強さは、日本と違うと感じます」と語っていた。日本は「全員攻撃・全員守備」の意識が強く、選手間の距離を近くして組織力の優位性を生かし、欧米に比べて足りないパワーやスピードをカバーする。そうしたサッカースタイルの違いがある中で、FWが欧米のような個の力強さを磨くのは容易ではないだろう。その中でも、海外でのプレー経験が豊富で、国際試合で得点力の高さを見せてきた岩渕のシュートのタイミングや足の振り方の力強さは、最高のお手本になるのではないだろうか。

 パラグアイ戦で5ゴールに絡み、攻撃陣を牽引した岩渕は、「もっとプレッシャーが強い相手に対しても100パーセント(通用するプレーが)できるようにしないといけないと思っています」と、気を引き締めるような表情で語った。同じくレギュラーの中島と清水は、守備面の課題をこう述べている。

「攻撃から守備に変わった時に、近い選手にボールに行かせながら、全体的にもっと寄って奪い切るところ(の強度)がまだ甘いので、もう一回見直していきたいと思います」(中島)

「ディフェンスラインとボランチが下がった時に、(パラグアイに)2列目と1列目の間を使われることがありました。強いチームと戦ってくる中で、そのスペースが空くと押し込まれる時間が多くなるので、試合後に話し合いました」(清水)

不在の熊谷紗希に代わって中島依美がキャプテンマークを巻いた
不在の熊谷紗希に代わって中島依美がキャプテンマークを巻いた写真:長田洋平/アフロスポーツ

 個々のユーティリティ性は、連係の成熟との相乗効果で、チームの攻撃に幅をもたらしている。

 北村が起用されたのは本職の左サイドバックではなく、右サイドハーフだったが、高倉監督が本職ではないポジションで選手を起用するのは、珍しいことではない。イレギュラーな状況で、海外勢相手にも自分の特徴を発揮できる力を求めているからだ。北村は、ゴールに絡むことはできなかったが、流動的な動きの中で攻守の潤滑油になった。また、宝田はセンターバックとして、守備での見せ場こそなかったものの、攻撃では2ゴールに絡む活躍で目に見える結果を残した。

 浜田は、相手2人に囲まれながらターンして左足を振り抜いた82分のシーンで見せ場を作った。だが、自身にとってのホームスタジアムでゴールを決めたい思いは誰よりも強かっただろう。最年少の木下は、アディショナルタイムも含めてラスト8分と短い時間の中で、6点目の籾木のゴールに絡んだ。

 なでしこジャパンは中2日で、4月11日のパナマ戦に臨む。パナマはFIFAランキング59位で、パラグアイと同じく五輪経験、W杯出場経験はない。日本がボールを支配する展開になるだろう。その中で、自分たちの戦い方を100パーセントに近い形で表現できるかがポイントになる。

 会場は国立競技場。今回の2連戦には25名の選手が選ばれており、まだ出場していない選手もいる。東京五輪の決勝戦が行われるピッチで、観客を魅了する選手は現れるだろうか。勝利と共に、成長の手応えと、7月の本番へのたしかな希望が掴み取れるような試合を見せてほしい。

浜田遥(左)も初ゴールを目指す
浜田遥(左)も初ゴールを目指す写真:長田洋平/アフロスポーツ

※表記のない写真はすべて筆者撮影

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のWEリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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