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メッシ不在のバルサが良くなった理由とは?/Con Pelota “エル・クラシコ”プレビュー(後編)

小澤一郎サッカージャーナリスト
エル・クラシコの欠場が決まっているFCバルセロナのFWリオネル・メッシ(写真:ロイター/アフロ)

 10月28日(日)24時15分にキックオフとなる、ラ・リーガ第10節のバルセロナ対レアル・マドリーの”エル・クラシコ”。

 両チームはどのような状況でこの一戦に臨むのか。

 倉敷保雄、中山淳、小澤一郎によるユニット「Con Pelota(コン・ペロータ)」による直前プレビューの後編は、メッシ不在でもCLインテル戦で見事勝利とサッカーを両立させ、上昇機運に乗るFCバルセロナの現状を詳しくお届けする。

 窮地のレアル・マドリーを救うのは誰か?/Con Pelota “エル・クラシコ”プレビュー(前編)

 

■メッシ不在のCLインテル戦が良かった理由

 

倉敷  では、バルセロナに話題を移します。メッシ不在のCLインテル戦でのバルベルデはラフィーニャを使いました。小澤さんはこのゲームをどう分析しましたか。

小澤  内容としても良かったですね。メッシがいるとどうしても彼を見ながらのサッカー、ボール回しになりますが、いないとそうはならないので。チームとして複数のパスの選択肢をフラットに持ちながら、空いた選手にテンポよくパスが入っていました。

特に、アルトゥールが中盤で核となった点が大きい。CLトッテナム戦以降レギュラーとして君臨して、今や現地では「チャビとイニエスタを足して2で割れる選手」という高評価を得るプレーをしています。確かに中盤でためることのできるインテリオールで、ジョルディ・アルバの攻撃参加の時間を作れるというところは大きい。

メッシがいないからこそ、チームとして全体でラインを上げながら、ボールを前進させながら、最終的にアルバであったり、スアレスを使ってのフィニッシュというイメージがうまく共有できているインテル戦には見えました。非常にいい試合だったと思います。

倉敷  CLでは左エストレーモ(ウイング)のポジションにラフィーニャが入りましたが、選択肢は他にも考えられそうです。クラシコではどうなると予想しますか。

小澤  確かにインテル戦では、どの新聞を見ても予想はデンベレでした。マウコムの予想もありましたが、蓋を開ければ誰も予想してなかったラフィーニャでしたので、正直ここでデンベレにチャンスを与えるとは思えません。インテル戦で良かった流れをくんで、点も取りましたしラフィーニャのまま行く可能性は高いと思います。

倉敷  メッシがいないとバルセロナはスイッチが入らない、というのがリーグ戦で度々見られた現象なのですが、中山さんはインテル戦をどう評価していますか。

中山  メッシがいない時のほうが意外と全体のバランスが保たれていて、良い状態で戦えていたと感じました。ラフィーニャはメッシほど中央に動くケースが少なく、基本的には右サイドに張ってプレーしていたことがその原因だと思います。

もちろん、拮抗した試合展開の中でそれを打開するという点ではメッシがいた方が良いことは間違いないのですが、あれだけ実力のある選手が揃っていればそれなりに強いチームになるという部分が垣間見られたと思います。

しかも、現在のインテルはとても可能性を持った強いチームなので、その相手にあれだけの内容で勝てたという事実は、バルセロナに底力があるということの証明だと思います。

倉敷  メッシ不在をエクスキューズと考えれば、バルベルデには今までできなかったプランを実行する機会でもあるわけですが、インテル戦で何かテストしたと感じられる部分はありましたか?

小澤  この1試合だけではなかなか大きくプランとか戦術、コンセプトは変えられないと思います。ただ、確かにメッシがいないので結果が出なかったとしても言い訳はできますから、逆に開き直ってチームで思い切ってバルサらしいサッカーをやろう、みたいな部分はちょっと見えたと思います。そこはクラシコでも試していくとは思います。

 

■「僅差の試合を予想。バルサ有利と見ている人が多いが…」(中山)

 

倉敷  では、まとめにはいりましょう。今回はどんなクラシコを予想しますか。

中山  僕は拮抗した試合になると思います。バルサ有利と見ている人が多いと思いますが、さっき小澤さんがおっしゃっていたように、調子が悪い中でもこの試合にかける意気込みというのはマドリーのほうが上回っていると思います。また、今回は大差がつくようなことはなく、僅差の試合になると予想していて、その中で勝敗を決定づけるのは、やはり個の力になるのではないでしょうか。そういう点で言うと、バルサはスアレス、マドリーはベイルのように、何か突き抜けたものを持っている人が最終的に試合を決めるのではないかという予感がします。

倉敷  小澤さんはどう予想しますか。

小澤  冒頭に話しましたが、今回は逆説的にマドリー有利と見ています。彼らの反骨心というか、チーム状況とは別にモチベーション、やってやろうという、気持ちはマドリーの方が高いと思います。

  

■VARはエル・クラシコにどう影響する?

 

倉敷  もうひとつだけ伺います。VARの存在です。レアル・マドリーはVARがなければ直前のリーグ戦、レバンテとのゲームにはおそらく勝っていたと思います。あのゲームではPKを取られ、さらに自分たちのゴールは取り消されてしまった。VARが導入されればこれまでのクラシコのように審判が主役になることもなくなり、うやむやを楽しむ疑惑のクラシコはなくなるかも知れません。

中山  試合後は、VARが使われた初めてのクラシコという視点で、かなり大きな話題になると思いますね。これまでのような判定にまつわる論争、たとえば「あれはゴールだったんじゃないか」、「PKだったんじゃないか」という話が、VARの採用によってなくなってしまう可能性は極めて高いと思います。

しかもVARの運用の現状を見ていると、実はレフェリーよりもVAR担当が鍵を握っています。今、VAR判定のときに主審がモニターを確認しないケースが増えているので、そうなると判定に対する批判の矛先も、レフェリーからVAR担当に変わってしまう可能性さえあるのではないでしょうか。見る側は、主審だけでなく、VAR担当が誰なのかという視点を持つ必要があると思います。

小澤  クラシコの後の楽しみは減りますよね。「あれはどうだった」とか、「あれはオフサイドだろ」みたいな論争で、次の日はもちろん、ある意味でワンシーズンそれを議論できる。完全に正当なジャッジが下される分、議論の余地がないので余白はなくなりますし、サッカーのピッチ外での楽しみは減ってしまうでしょう。ただ、この時代なのでテクノロジーを入れる、VARによって誤審を減らす流れ自体は受け入れるしかないと思います。

倉敷  でも「合格おめでとう」とクラッカーを鳴らされ祝福された後で、「あ、ごめん、間違いでした」なんて言われたらがっかりします。観客もゴールだと騒いでよいものか、迷ってしまったら心から楽しめない、ここはなんとかなりませんかね。

中山  そうですね。ゴール後のセレブレーションが盛り上がりに欠けるという懸念はありますね。当然ですけど、サッカーというスポーツにおいてゴールは決して多くないですから、その大事なゴールの瞬間がVAR判定によってそがれてしまい、試合を見ている人の情熱が爆発する機会が失われてしまうのは残念です。

 

■倉敷が「勘弁して欲しい」と語る、翌日の新聞の見出しとは!?

 

小澤  倉敷さんは、どういうところに注目していますか?

倉敷  クライシスにある状況のチームが勝つというのは過去の歴史に何度もありますから僕もキニエラを買うならそっちに乗っかるだろうな、と思います。ただ、買わないので今回は勝手にストーリーをでっち上げるロマン派を気取ろうかなと思うんです。

メッシのいないバルサがどう勝つか、という方がお話として面白そうです。

たとえば、インテル戦は“メッシフレンズ”が活躍したゲームでしたね。アルバであったり、ルイス・スアレスという非常にメッシに近しい人たちが頑張って勝った。すべては「メッシのために」といった具合に友情パワーで勝つのも悪くない。

コパアメリカでメッシのアルゼンチンを破って失望させたビダルがここで活躍するもよし。イニエスタがいなくなって寂しかったけれど、アルトゥールはそれを忘れさせてくれるかも知れない。アルトゥールのためのクラシコになる可能性もあるんじゃないでしょうか。

テア・シュテーゲンも(ドイツ)代表のファーストGKとして起用される可能性が高まってきたこともあってか、急激に集中力とモチベーションを取り戻しています。ゴールキーパーが当たっているチームはやっぱり強いです。

新聞の見出しになれそうな選手は何人もいますが、僕の中で勝敗を分けるポイントはルイス・スアレスです。

スアレスが前線で戦って戦って動きまくらなかったら、おそらくバルサの勝利はない気がします。ただスアレスはインテル戦もそうでしたが、途中ですごく苦しそうにしている時間が気になる。年齢的なものもあるでしょう、彼が負うタスクも重い。

そうすると、マドリーはどうやって彼をゲームから消していくのか、そしてバルベルデはスアレスをいかに休ませながら、勝利を確信する時間まで持たせるのかということに興味があります。

マドリーはなかなか調子が上がらないけど、今回、バルサ寄りで妄想したようにマドリーの選手が新聞の一面を飾るケースも容易に想像できます。ただ、ゴールレスで終わると見出しを決めるのは簡単になりますね。

「メッシがいない、ロナウドがいない、ゴールもない」

それは勘弁して欲しい。クラックが不在でも、VARが発動しても、やっぱり翌日の新聞の見出しだけで何時間も話しこめるようなクラシコを期待したいなと思っています。

 

<了>

 

Con Pelota(左から中山淳、倉敷保雄、小澤一郎) photo by Raita Yamamoto
Con Pelota(左から中山淳、倉敷保雄、小澤一郎) photo by Raita Yamamoto
サッカージャーナリスト

1977年、京都府生まれ。早稲田大学教育学部卒。スペイン在住5年を経て2010年に帰国。日本とスペインで育成年代の指導経験を持ち、指導者目線の戦術・育成論を得意とする。媒体での執筆以外では、スペインのラ・リーガ(LaLiga)など欧州サッカーの試合解説や関連番組への出演が多い。これまでに著書7冊、構成書5冊、訳書5冊を世に送り出している。(株)アレナトーレ所属。YouTubeのチャンネルは「Periodista」。

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