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<ガンバ大阪・試合リポート>横浜F・マリノス戦。苦しい戦いの中で差した、いくつかの光。届いた『声』。

高村美砂フリーランス・スポーツライター
横浜F・マリノス戦はスタメン4人を変更。それぞれに躍動を魅せた。写真提供/近藤駿

 おそらく、ガンバ大阪に関わる誰もが今、折れそうな心をギリギリのところで持ち堪えているような状態なのではないだろうか。

 監督も、チームスタッフも、選手も。クラブスタッフも、サポーターも。ガンバを取り巻くすべての人たちが勝てない事実に苦しみ、もがき、だけど、今日こそはと、目の前の敵に立ち向かう。

 勝つために。苦しい流れに終止符を打つために。

 J1リーグ14節・横浜F・マリノス戦も、そんな想いが伝わってくる立ち上がりになった。球際、走力、インテンシティ。個々が改めて基本に立ち返り、マリノスを上回ったそれはピッチでの迫力に変わり、再三にわたってマリノスゴールに襲い掛かった。ここ数試合は、ボールを持った選手へのサポートも明らかに悪かったが、この日は倉田秋、石毛秀樹、ファン・アラーノらの機動力にも助けられ、守備から攻撃に切り替わった際の迫力も感じられた。

 中でも目を惹いたのは半田陸だ。味方がボールを持った瞬間、圧倒的な走力を生かして、右サイドを攻め上がり、ファン・アラーノとの連携の中で味方の攻撃を援護。局面で吹っ飛ばされても、こぼれ球に食らいついてタッチライン際、ぎりぎりでボールを残し味方に繋げるなど迫力のあるプレーが続いた。

「どんな状況であれ、勝っていても負けていても、どの順位にいようと自分のやるべきことは変わらない。自分のパフォーマンスに集中するだけだと思っていました。ただ、こういう状況なので、他の選手や応援してくれている人たちに伝わるようなプレーを魅せることも大事だと考えていたし、それは今日に限らずですが、心掛けてピッチに立ちました。立ち上がりはある程度はやりたいことをできたと思います。前節の反省をもとに縦に、裏に速いボールを、というのはチームとして狙いとしていたところでしたが、欲を言えば、もう少し奪った後に逆サイドのスペースに持っていき、カウンターで完結できるシーンを増やせればと思っていたし、マリノスのサッカースタイル的にスペースは必然的に生まれてくると思っていたのでそこをもう少しうまく使いたかったです(半田)」

今シーズン、日本代表に初選出された半田陸。毎試合、気迫の感じられるプレーが続く。写真提供/近藤駿
今シーズン、日本代表に初選出された半田陸。毎試合、気迫の感じられるプレーが続く。写真提供/近藤駿

 悔やまれるのは、前がかりに進めながらもフィニッシュに繋げたシーンが少なかったこと。前後半含め、ゴール前までにじり寄ってはオフサイドラインに引っかかり、最後のところでマリノスの守備に跳ね返された。また息切れした時間帯は今シーズン、続けてきたボールを支配する中での崩しを試みたが流れを引き戻し切るところまではいかなかった。

 一方のマリノスは、試合の流れに応じてポジショニングに修正をかけてリズムを取り返し、その時間帯にセットプレーで先制点を奪うと、後半、10人になってからも効果的に交代選手を投入しながら一人一人が強度を強めて落ち着いて試合を展開。79分にはFKのチャンスをスーパーゴラッソで追加点に繋げるなど『流れ』を着実にゴールに繋げた。

 結果、0-2。試合内容的には試合後、ポヤトス監督が「悲しみと悔しさでいっぱいだ」と振り返ったのには頷ける。

「今日のゲームは負ける価値はなかったと思っています。前半、1つのコーナーキックでやられたところ以外は試合もコントロールできたし、決定機も作れた。後半も選手は素晴らしい入り、姿勢を示してくれました。相手のゴラッソで2点目を失いましたが、最後の最後まで選手は出し切ってくれましたし、マリノスという偉大なチームに対してしっかりとガンバ大阪のプレーを表現してくれたと思っています(ポヤトス監督)」

 だが、試合の進め方、戦術浸透、ここぞというときの圧力という部分でディフェンディングチャンピオンとの差があったのも事実だろう。

 この敗戦により、リーグ戦での連敗は5に。順位も最下位に沈んだままだが、前節から4人の先発メンバーを入れ替えたマリノス戦で選手個々が示した強度。今シーズンは長期離脱中の塚元大を除いてフィールド選手で唯一公式戦出場がなかった佐藤瑶大と福岡将太のセンターバックコンビが魅せた泥臭くしぶとい守備。今シーズンのリーグ戦初先発となった倉田秋が示したリーダーシップ。怪我で離脱していた山本悠樹や福田湧矢が戦列に戻ってきたことを含め、収穫の多い試合だったといえる。試合終盤、東口順昭が立て続けに『らしい』セービングを示したのも復調の兆しを感じるものだった。

「ゴールに向かう姿勢だとか、当たり前のことですけど、そこが今日はプレーで出せていた。あとはこれを継続して結果に結びつけていくしかない。今日、みたいなサッカーをしていれば結果もついてくると思うので、あとはもうやるだけかなと思います(東口)」

「今日は秋くん(倉田)も久々の先発だったと思うんですけど、ウォーミングアップの時から声を掛けてくれていたし、そうやって年齢が上の選手が鼓舞してくれたり、瑶大(佐藤)ら新しくスタメンで出る選手もいた中で、みんなが互いをサポートしようと考えながら試合を進められたことで、こういう試合になったんじゃないかと思います。僕と瑶大の良さはコミュニケーション能力と何があっても下を向かないところ。ここ数試合は、失点すると試合が終わったわけではないのにガクッと士気が下がるのを感じていたので、今日は絶対にそうさせたくないと思っていたし、そういうアプローチを心掛けていました。瑶大はもともとあんな感じなので、自然に出たとは思いますけど、それもチームの士気を落とさず戦えた要因の1つだったし、僕らだけじゃなくて、今日は本当にみんながチームとしてやろうとしていたことを表現しようとしていた。それだけに、結果が出なかったのは悔しいですけど気持ちのこもった戦いはできたんじゃないかと思います(福岡)」

「監督からシンプルに、繋ぐところは繋ぎ、無理をしなくていいところはよりシンプルに、と伝えられていました。今シーズン初めて出場するチャンスをもらえた中で、とにかく結果を変えたいと思っていました。また、センターバックは守備が1番の仕事だけに(ゴール前を)しっかり守ることを意識してピッチに立ちました。あと、失点した後の振る舞いというか、そこで元気をなくしてしまうのは課題の1つに感じていたので。もちろん無失点が一番ですが、仮に失点したとしても、ミスに自分が絡んだとしても、それは試合では起きることだと割り切って、失点した時、苦しい時こそ自分が一番盛り上げようと思っていました。(相手のエース、アンデルソン ロペスへの対応については)自分が一番強いんだと自分に言い聞かせていました。僕はパワータイプのDFで、ああいうパワーのある選手に負けていたらアピールにはならないので、そこには絶対に負けるわけにはいかないというメンタルで臨みました。彼の特徴的にそこまで背後をとってくる選手ではないと分析した上で、自分の間合いに持ち込むことを意識していました。ただ今日は自分のプレーがどうこうよりチームの結果が欲しかったので負けてしまったことが悔しいです。昨年、出場機会を求めてベガルタ仙台に期限付き移籍をして、仙台で得たものを活かしたいという思いで帰ってきた中で、ここまでは自分の実力もあってなかなかチャンスをもらえていなかったんですけど…今日は試合勘もなかったし、チームも負けてしまったけど、こうしてチャンスをもらって自分のパフォーマンスを出せたのは仙台での経験があったからだと思っています(佐藤)」

期限付き移籍での成長をプレーで表現した佐藤瑶大。ヘディングの強さも光らせた。写真提供/近藤駿
期限付き移籍での成長をプレーで表現した佐藤瑶大。ヘディングの強さも光らせた。写真提供/近藤駿

 あとは個々が感じた手応えと課題をいかに結果に結びつけていくのか。この日は途中出場となったキャプテン・宇佐美貴史も試合後「悔しいと言うほかない」と切り出し、前を向いた。繰り返すが、勝つために。苦しい流れに自分たちで終止符を打つために。

「いい流れでプレーできている時間帯、いいサッカーができているなという試合はもちろんありますし、今日も前半は特にいい形で戦えていたけど、セットプレーで失点をしてしまった。その中で何を変えれば、これをすれば、という原因がはっきりわかればそこを追求していけばいいんですけど、それがなかなか見えてこない現状もあり…本当に難しい状況だと痛感しています。ただ、そんなふうに結果が出ない中でもみんなが、全員がなんとか頑張って切り替えて、毎日、しっかり練習をして、試合をして、ということを続けていることに嘘はないということは、僕もチームの一員として強く感じていますし、やっている内容への手応えと結果が伴ってくれば、とも思っています。今は全員が、それぞれのキャリアの中でも一番苦しい時期を過ごしているとは思いますが、応援してくれる人たちのためにも、諦めることなくやり続けるだけだと思っています(宇佐美)」

 マリノス戦を迎えるにあたり、SNSを使って一部ガンバサポーターが応援ボイコットを表明したことで、この日のホームゴール裏はいつもとは違う様相を呈していた。それについて何かを言うつもりはない。どのチームを応援するのか、どんなふうに試合を楽しむのか。すべて個人の責任のもとに与えられる自由で、声を出すのも、静かに戦況を見守るのも、手拍子を送り続けるのも、そこにガンバへの愛が込められているのなら全てが同じ『応援』だと受け止めているからだ。

 ただ、スタジアムに轟く『声』が、これまでパナソニックスタジアム吹田の威圧感を作り出し、選手の背中を押してきてくれたことも紛れもない事実だ。この日、自らの意思で必死に声を張り上げてくれた多くのサポーターの声が選手たちの力に変わったように。

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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