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<ガンバ大阪・定期便117>着実に、前へ。鈴木徳真がたどる、成長曲線。

高村美砂フリーランス・スポーツライター
移籍1年目。厳しいポジション争いを制し主軸に名乗り出た。写真提供️/ガンバ大阪

■愚直に求めてきた変化と成長。「ゴールシーンに必ず自分がかかわれているのはポジティブ」。

 痺れる終盤戦も、鈴木徳真は抜群の存在感を示している。彼自身が思い描いていた成長曲線を辿りながら、だ。

 J1リーグも後半戦の戦いに突入したばかりの頃に話していた言葉を思い返してみる。チームとしては、前半戦の戦いを基盤に崩しの形を増やしながら点を取れるサッカーを目指すこと。個人としては攻撃に関わる回数、枚数を増やしたいと話していた。

「前半戦は、チームとしてしっかり後ろから繋いだり、うまくサイドハーフを使ってショートカウンターを仕掛けられるようになったり、その時々で攻撃、守備のバランスをどうするのか、を無意識に形づくれるようになってきた。それによって『ボールを持つことで攻撃的に攻めることもできるし、相手を疲れさせながら自分たちも休むことができる』という土台はある程度できたのかな、と。だからこそ、この先は『崩しの形も何パターンもあって点も取れる』というサッカーを上積みしていきたい。その2つを使い分けられるようになればチームとしても『この相手ならこっちの方が得策だ』みたいな経験則が増えるし、それは勝つ確率を上げることにも繋がるのかな、と。また、流れの中からの得点だけではなく、セットプレーでの得点ももう少し増やしたいと思っています。夏場を含めてこの先、キツい時間帯、展開の試合を強いられた時にセットプレー1本で試合をモノにすることができれば、気持ち的にもずいぶん、楽に試合を進められるから。そのキックのところは貴史くん(宇佐美)に頼りっぱなしではなく、自分が蹴ることもあるはずなので、精度はより高めていきたいし、さっき言った、攻撃パターンをたくさん作り出すためにもボランチからの攻撃参加も意識したい。それによって前線に厚みをもたらせられれば得点の確率も上げていけるはずだから」

 その決意のままに後半戦の戦いを進めてきた鈴木は、11月9日に戦ったJ1リーグ第36節・ジュビロ磐田戦では26分に左コーナーキックのキッカーに立ち、ニアサイドの半田陸に合わせて同点ゴールを演出。遡れば、10月27日に戦った天皇杯準決勝・横浜F・マリノス戦でも88分に左サイドからのクロスボールを送り込み、ピンポイントで中谷進之介の頭に合わせている。アシストにはならずとも、第35節・名古屋グランパス戦で福田湧矢が決めた決勝点も、起点になったのは鈴木がワンタッチで前線に送り込んだ縦パスだ。

天皇杯・準決勝で中谷に合わせたクロスボールは、4年ぶりの決勝進出を引き寄せる、大きな足掛かりになった。写真提供️/ガンバ大阪
天皇杯・準決勝で中谷に合わせたクロスボールは、4年ぶりの決勝進出を引き寄せる、大きな足掛かりになった。写真提供️/ガンバ大阪

「最近の試合を振り返っても、ゴールシーンに必ず自分がかかわれているのはポジティブなところ。特に足元のパスだけじゃなくて、空間を使ったボールを使えるようになってきたのも手応えを感じている部分です。というのも、マリノス戦でシンくん(中谷)に当てたボールも含め、あのエリアからパスを出せるようになることは、自分に必要だと感じていたプレーでもあったので。空間を使うボールというのは足元で作り出すパスコースとは違って、ボールを出した瞬間、相手のゴールキーパー、センターバックを含めて、誰のボールでもなくなって、誰も守れない瞬間になる。それを効果的に使えるようになれば…貴史くん(宇佐美)がすごく巧いんですけど…チームとしての攻撃の幅にもなるので。また最近はセットプレーでもキッカーを務めることも増えている中で、和道さん(高木コーチ)のアイデアのもと、デザインしたプレーも増やしていて、それが形になりかけていることも多いので、取りきれるところまで持っていきたいなと思っています」

 まだ試合が続くためここで多くは明かせないが、磐田戦でのセットプレーのシーンも、その20分ほど前、左コーナーキックをファーサイドのダワンに合わせたシーンも、試合前に準備していると話していた形の1つ。後者についてはVAR判定の結果オフサイドとなり、ゴールは取り消されたものの、いずれも鈴木のキックは申し分のない弾道を描いた。

■夏以降、遠藤保仁コーチに求められてきた課題。ジュビロ磐田戦でのパス数は、理想に近づく69回に。

 さらに、磐田戦で目を惹いたのは鈴木が9月頃から、より意識していると話していた、試合中の『パス数』だ。同じボランチ出身の遠藤保仁コーチに指摘されたことだという。

「ここ最近、ボールを止めた時、受けた瞬間にはほぼ出せる状態になるくらいのスピード感でパスを出せるようにはなってきたし、『ここに出したい』と思うところがしっかり見えている。ただ、そういうパスを得点に直結させられているのかと考えればまだまだ数は少ない。またヤットさん(遠藤コーチ)にも夏を過ぎた頃から『ボランチが最低でも60〜70回、ボールを触る試合を毎試合、続けろ』という課題を出されているので。そこの回数とクオリティが上がれば、間違いなく自分ももう一段階、成長できるはずだし、チームにとっても欠かせないピースになっていけるんじゃないかと思っています」

 遠藤コーチにその真意を尋ねてみる。

「世界を見渡せば、トップレベルのボランチは、だいたい1試合で90回近くボールを触っていて。それに対して徳真(鈴木)も、他のボランチの選手も、これまでの試合を振り返っても、試合の中で50回も触っていないことがほとんどだから。もちろん、サッカーのスタイルや戦い方にもよるけど、とりあえず、まずは世界との間の数字をとって最低でも60〜70回以上は触れ、と。単純にそこを意識するだけでプレーや動きが変わることもあるから(遠藤コーチ)」

 もっとも「ご自身は現役時代、1試合に何回くらいボールを触っていたのですか?」と尋ねたところ「全然、わからん!」と遠藤コーチ。だが、おそらくは彼の現役時代もそんなふうに『意識』がもたらすプレーの変化を感じ取ってきたのだろう。今シーズン、遠藤コーチが選手に向けてきた言葉の多くが、自身の成功体験に基づくものが多いと考えても、だ。

 話を戻そう。では、磐田戦での鈴木のパス数は何回だったのか。

 DAZNが試合後に明らかにしていたデータによれば、ピッチを退いた88分までの時間帯で、69回。これは今シーズンの彼の平均パス数、47.1回を大きく上回る数字だ。

 また、走行距離も前半はチームトップの5.7キロを数え、後半を含めてもフル出場した黒川圭介やダワンに次ぐ、10.024キロを走っている。この2つの数字からも、磐田戦はピッチのあちこちに顔を出しながらゲームを組み立てていたと言っていい。

「70回くらいを自分にとって当たり前の数字にしたり、なおかつ、その中身、パスの方向性という部分でも、横とか後ろをまぜながらも、より前に入れる本数を増やせるようになることは、今年だけじゃなくてこの先も継続的に求めていかなくちゃいけないところだと思っています。僕のところでボールを受ける回数や、前に出す回数が増えれば、自然とガンバとしても点を取れる機会が増えるとか、ビルドアップで崩しているシーンが多くなるはずですしね。それが当たり前にできるようになれば、もう1ランク上のボランチに近づける。もちろん、あくまでチームありきなので、自分がその成長を求めたいから守備が疎かになるみたいなことは絶対に起きちゃいけないし、あくまでチームでの役割を全うした上での話ですけど、個人的には継続して意識していきたいと思っています」

 思えば、シーズンが始まった時から成長を求めるためには「漠然と1年を過ごすのではなく、チームとしての課題と自身の課題を並行してクリアしながら進んでいきたい」と話していた鈴木。だが、だからと言って一足飛びには成長を求められないという自覚もあったからだろう。シーズン序盤戦、半ば、そしてこの終盤戦と、その都度、自身がやるべきことの優先度を明確にし、着実にクリアすることを意識しながら進んできた印象も強い。しかもコンスタントに先発のピッチを預かりながら、だ。その事実は彼に、どんな財産を植えつけたのか。

「試合に出場しながら、チームと自分の課題に向き合えたことで、試合の中でのチームビルディングとかマネージメントの部分での再現能力みたいなものは磨かれた気はしています。実は去年も同じように、段階を踏んで成長を意識していながらも、試合に絡めなくなったことでそれが頓挫してしまったというか。少し自分に停滞を感じたところもあったんですけど、今年はそうじゃない。夏場、8〜9月らへんにかけて勝てなかった時期は正直、苦しかったですけど、その期間も含めて続けてこれたから今のチームがあり、自分がいるとも思っています。そういう意味ではちゃんと成長できている、という感覚でシーズンを進んでこれたし、プラス、試合を戦いながら課題に対する答えを得られていることも自信になっている。だからこそこの先も、自分にあるたくさんの課題の中からやらなきゃいけない優先度をしっかり見極めてやり続けるだけだと思っています」

その都度、目の前の課題と向き合いながら成長を求めてきた今シーズン。その視線の先にはいつも「一生成長し続ける自分を描いている」と話す。写真提供️/ガンバ大阪
その都度、目の前の課題と向き合いながら成長を求めてきた今シーズン。その視線の先にはいつも「一生成長し続ける自分を描いている」と話す。写真提供️/ガンバ大阪

 一方、チームとしてはどうか。常日頃から『個人の成長がチームの成長を促す』と繰り返してきた彼は現時点でのチームの成長をどのように感じているのか。磐田戦前には、ここ最近の試合で劇的なゴール、勝利が多い理由もあわせて言及していた。

「今シーズン、チームとしていろんな積み重ねをしながら進んできたことで、自分たちのスタイルは何か、誰が何をすればゴールに近づけるのかがわかってきたし、1試合の中で圧倒的に攻められる時間帯が増えている分、あとはそのクオリティを上げればいいよね、みたいになっている。それもあって、最近の試合では最後に点を取って勝ち切れる試合が増えてきたというか。たとえば、天皇杯・マリノス戦のように、後半、厳しい時間帯に失点しちゃったとしても、いろんなパターンで得点チャンスを作れているからこそ『まだ、あるぞ』『いける、取れるぞ』みたいな空気が漂っているのを感じるし、それが最後に勝ちを手繰り寄せることにもつながっている。これは途中から出てくる選手の勢い、クオリティによるところも大きい。今のガンバには誰が出ても質を落とさず戦い、点を取れる雰囲気が備わっているから」

 そうして迎えた磐田戦。3-1と2点のリードを奪いながら試合を進めたガンバだったが、終盤、87分に磐田にゴールを許すと、11分間のアディショナルタイムに突入した直後の90+1分にも失点。土壇場で追いつかれてしまったものの、鈴木の言葉に照らし合わせれば、そこで気持ちを落とさないのが今のガンバということだろう。

 90+3分、福岡将太がヘディングで前線にボールを送り、途中出場の福田が競ったこぼれ球を黒川圭介が拾って、途中出場の美藤倫、イッサム・ジェバリと繋ぎ、最後は坂本がダイレクトで左足を振り抜き、ゴールネットを揺らす。「まだ、あるぞ」の空気を繋げてチーム全員で掴み取った、白星だった。

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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