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羽生善治挑戦者(52)完璧に近い内容で藤井聡太王将(20)に勝ち1勝1敗に 王将戦七番勝負第2局

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 1月21日・22日。大阪府高槻市「摂津峡花の里温泉 山水館」において第72期ALSOK杯王将戦七番勝負第2局▲羽生善治挑戦者(52歳)-△藤井聡太王将(20歳)戦がおこなわれました。

 21日9時に始まった対局は22日17時56分に終局。結果は101手で羽生挑戦者の勝ちとなりました。

 七番勝負の成績はこれで、両者ともに1勝1敗。第3局は1月28日・29日、石川県金沢市・金沢東急ホテルでおこなわれます。

羽生「いい将棋が指せるように、自分なりにしっかり調整して臨みたいと思います」

藤井「またすぐ来週にあるので、しっかりよい状態で望めるようにしたいと思います」

 羽生挑戦者はタイトル通算100期に向けて、大きな1勝をあげました。

 両者の対戦成績は藤井8勝、羽生2勝となりました。

 羽生挑戦者の今年度成績は27勝15敗となりました。

羽生挑戦者の名局

 羽生挑戦者の先手で、戦型は現代最新の相掛かりとなりました。

羽生「途中までは前例がある形で進んでいたんですけど」「こちらがどういうふうに手を作っていくっていうところかなあと思っていました」

藤井「(相掛かりは)予想していたというわけではないんですけど。まあ、一応、序盤は自分自身途中まで経験のある形だったので。それに沿って指していたというところです」

 43手目。羽生九段は1筋に歩を打って攻めを継続します。

藤井「▲1三歩と垂らされたときに、角をどこに打つかちょっと迷ったんですけど」

 本譜は3三。代わりに5一からだと、香頭に角を打ち込む強襲を藤井王将は警戒していたようです。

 水面下で細かい駆け引きがあったあと、羽生挑戦者は飛車交換から藤井陣に飛車を打ち込み、攻めを続けていきます。

 59手目。羽生挑戦者は藤井玉から遠く離れたところに金を打ちました。本局1日目のハイライトシーンです。

羽生「ゆっくりしてると攻めが切れちゃうんで。筋のわるい手なんですけど、しょうがないかなあと思って指してました。一応(51手目)▲2一飛車打ったときに▲8二金ぐらいまでは進むかなあ、とは思ってました」

藤井「本譜は▲8二金まで進んでみると、思った以上にいやな形なのかな、という印象は持っていました」

 藤井王将が長考の末、玉を上がって受けたところで1日目が終わり、指しかけとなりました。

 明けて2日目。61手目、羽生挑戦者の封じ手は大方の予想通り、再度の飛車の打ち込みでした。羽生挑戦者がわずかにペースを握ったかのようにも見えましたが、それほど自信はなかったようです。

羽生「いやちょっと攻めが細い形なので。あんまり自信はなかったんですけど。ちょっとほかの手も見当たらなかったんで、本譜を選んだというところですかね」

藤井「(2日目は)考えていても、なかなか思わしい変化が見つからなかったかな、というところはあります」

 73手目。羽生挑戦者が藤井陣の隅に龍を入ったところで2日目昼食休憩に。コンピュータ将棋ソフトが示す評価値の上では、ほぼ互角でした。

 74手目。藤井王将は昼食休憩をはさんで長考に沈みます。考えること1時間25分。自陣に飛車を打って粘る順もあるかと思われたところで、相手陣に銀を打ち込んで攻めに出ました。

羽生「なんかちょっと受け間違うとすぐ負けそうな局面なんで。かなり慎重に考えて指していたんですけど。どの変化もギリギリだと思ってやってましたね」

 羽生挑戦者は慎重に1時間12分考えて、銀を取ります。

羽生「ちょっとそのあとどうなるかが、あんまりよくわかんなかったんですけど。まあでも取るのはしょうがないかなと思いました」

 77手目。羽生九段は玉頭に銀を打って受けます。これが正確な受けでした。

藤井「本譜、▲5七銀打と受けられてからは、はっきりしてしまったかなと思うんで。ちょっとその前になにかあったかどうか、というところだと思います」

 正確に受け続ければ、羽生挑戦者よし。しかし藤井王将はきわどく迫り続けます。

 78手目。大駒の飛車は離して打つのがセオリーなところ、藤井王将はあえて玉の近くから打ちました。

藤井「本譜みたいに王手をしていったときに、5筋から6筋に逃げ込まれる手を防いではいるんですけど。ただ、結局なんていうか、2筋の方に逃げ込まれてしまって詰まないので。あの局面自体はちょっと、すでにダメかなと思っていたので」

 79手目。羽生挑戦者は41分を使い、歩を突いて受けます。「大駒は近づけて受けよ」のセオリー通りとはいえ、羽生玉は危険きわまりない形。それでもこのきわどい受け方が、最善手だったようです。

羽生「銀とか使えば長い将棋になるかもしれないんですけど。まあ、ちょっと分がわるそうなんで。もう(歩を)突いて勝負したって感じですね」

 最後、羽生玉は詰むや詰まざるやの形。羽生挑戦者は藤井王将の追及をかわし、きわどく玉を逃げ続けていきます。

 101手目。羽生挑戦者は合駒で香を打ちます。ここで藤井王将が投了し、熱戦に幕が降ろされました。

羽生「ひとつ結果が出てよかったな、というところですかね。まあ、内容的なものもずっとともなっていなかったので。ちょっとほっとしてます」

 振り返ってみれば、本局は羽生挑戦者の名局といってよさそうです。

 藤井王将の今年度成績は40勝8敗(勝率0.833)となりました。

 藤井王将の公式戦連勝は10で止まり、また史上最高勝率からは少し遠ざかりました。

 また藤井王将にとっては、王将戦七番勝負における初黒星を喫しました。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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