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和服ではなくスーツの藤井聡太七段(17)メイチの短髪・渡辺明棋聖(36)歴史的な棋聖戦五番勝負開幕

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 6月8日9時。東京・将棋会館において第91期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第1局▲藤井聡太七段(17歳)-△渡辺明棋聖(36歳)戦が始まりました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 ここまで大きく報道されている通り、藤井七段は史上最年少の挑戦者です。

 次代の将棋界を担うスーパールーキーを、棋王・王将をあわせ持つ三冠、渡辺棋聖が迎え撃つ。この組み合わせだけで、既に将棋史に残る五番勝負となることは確定しています。

 対局がおこなわれるのは東京・将棋会館4階、特別対局室。タイトル戦は各地を転戦するのが通例ですが、コロナ禍の現在は諸事情により、将棋会館での対局が多く組まれています。

 ちなみにあさってから開幕する名人戦七番勝負は三重県鳥羽市でおこなわれます。豊島将之名人(30歳)に挑戦する渡辺棋聖は、明日はもう移動日となります。

スーツ姿の挑戦者

 最初に入室した対局者は、挑戦者の藤井七段でした。和服か、それともスーツか。注目された藤井七段の服装はスーツでした。

 藤井七段は昨年、JT杯の公式戦で和服を着た経験もありました。JT杯では対局者は着物が義務づけられています。一方で棋聖戦五番勝負はそうではありません。藤井七段は着慣れたスーツで臨んだというわけです。

 これまでタイトル初挑戦の棋士は、スーツと和服、どちらの例もありました。1989年、竜王戦七番勝負でタイトル戦に初登場した当時19歳の羽生善治六段は第1局、そして3勝3敗1持将棋で迎えた最終第8局は洋服。あとは和服で臨んでいます。

 この七番勝負が始まる前に初戦は洋服、それ以降は和服と決めていた。というのは、初戦は緊張するし、公開対局もあるから、普段、着慣れている洋服の方が良いと判断したからだ。

 二局目からは雰囲気にも慣れるし、こんな時でないと和服を着る機会はないので、和服で行くことにした。

 ただ、自分では着られないし、トイレに行くにしてもかなり不自由なので、慣れるまでは大変という気がした。

 それに、タイトル戦と言えば和服というように、一種の伝統になっている意味もある。

 もしかすると滅びゆく伝統なのかもしれないが、一回位、着てみるのも悪くはないと思ったからである。

 第八局は洋服にしたが、これはシティホテルに和服は似合わないかな、と思ったからだ。

出典:『竜王、羽生善治。』自戦記

 最終第8局の写真を見ると、島朗竜王、羽生挑戦者はともにスーツ姿です。

 その後、羽生現九段はタイトル戦において、毎回自分で着て和服で臨んでいます。後進の渡辺棋聖もその伝統を踏襲して、タイトル戦ではやはり和服姿が常です。藤井七段は今後、どうするでしょうか。

メイチの棋聖

 藤井七段に続いて、渡辺棋聖が登場します。夏らしい、白い和服でした。目を引くのは短く刈った頭髪です。

 渡辺棋聖は昨年2019年10月、やはり短い頭髪で将棋ファンを驚かせました。何か思うところがあったというわけではなく、自分でバリカンを使って髪を刈る際に設定を間違え、部分的に1mmで刈ってしまい、それに合わせるしかなくなってしまったのだそうです。

 叡王戦準々決勝の後には、次のようにコメントしていました。

渡辺「最近は5mmぐらいなんですよ。タイトル戦始まるから、ちょっと気合入れようかなと思って、5mmにしました。まだ3mmとかあるんで、5mmはまだそんな。メイチ(競馬用語で目一杯、最高の仕上げ)の勝負駆けの時に3mmとか1mmがあるんで。とりあえずちょっと短くして。タイトル戦始まるからっていう、いまそういう長さ(5mm)なんですよ」

 正確な長さまではわかりませんが、一目この短さは棋聖が「メイチ」で来たと解釈してよさそうです。

歴史的な対局開始

 振り駒の結果、「と」が3枚出て藤井七段の先手と決まりました。これは藤井ファンにとって、まずは嬉しいところでしょう。

 午前9時。

「定刻になりました。挑戦者、藤井七段先手番で始めてください」

 立会人の深浦康市九段がそう告げて、両者一礼。歴史的な対局が始まりました。

 スーツ姿の藤井七段は初手を指す前、やはりいつものように、グラスにそそがれた冷たいお茶を飲みました。

 藤井七段の初手は角道を開ける手でした。

 一息置いた後、渡辺棋聖は飛車先の歩を伸ばします。

 藤井七段が用意してきた作戦は矢倉でした。10時の段階では36手目まで進み、先後同型。「脇システム」の進行となっています。

 持ち時間は各4時間。昼食休憩をはさんで、通例では夜に終局となります。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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