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シーズンオフはボールを打ってはいけない【落合博満の視点vol.8】

横尾弘一野球ジャーナリスト
落合博満は、シーズンオフにボールを打つ練習のデメリットを指摘する。

 プロ野球界では契約更改がほぼ終わり、年が明ければ春季キャンプに向けた自主トレが始まる。野球界ではよく「若い選手は、ひと冬越えて逞しくなる」と言われるが、着実な成長を目指している打者は、この時期にどんな練習に取り組めばいいのか。落合博満は、自身の経験を踏まえてこう言う。

「打者の視点から言えば、秋のキャンプや練習を終えた後は、毎日バットスイングをするのが効果的。それも、ボールを打つのではなく“素振り”をしたほうがいい」

 最近では、打力を高めていくにはボールを打ったほうがいいという指導者がいるが、落合は異を唱える。

「ある程度、自分のスイングが固まっているベテランならばいいが、正しいスイングを身につけている途上の若い選手には、ボールを打つことのデメリットも教えておきたい」

 落合は、若い選手にバットスイングの指導をする際、「ど真ん中を振ってごらん」と言う。それで選手が振ったコースを見ると、ど真ん中ではないケースが意外に多い。人間の体は、何かの動作をする時に少しでも負担がないように動こうとする本能がある。骨格や関節の硬さにより、頭ではど真ん中を振ろうとしても、体が楽に振れるコースを振ってしまうという。

打者にはタイミングを合わせようとする本能がある

 そうした理由で、数名の選手が集まり、ひとりが「ど真ん中いきます」と言って「イチ、ニ」とかけ声をかけて行なう素振りも、正しいスイングを身につけられない場合が多いと落合は説く。

「ど真ん中をしっかり振るというだけでも、正しく行なうのは簡単なことではない」

 では、なぜボールを打ってはいけないのか。打撃投手、ピッチング・マシンのいずれにしても、動くボールを打つためには、打者はボールを目でとらえ、その情報を脳に伝達して体を動かす。すると、ボールをとらえられるように体が合わせて動いてしまう。

「これでは、スイングする力はつけられるけれど、正しいスイングを体に覚えさせるのは難しい」

 また、差し込まれると、次はそうならないようにという意識が働き、体の開きが早くなるなど、どうしても体が細工をしてしまう。ティーバッティングにも同じような面があると指摘する落合は、「そうしたデメリットを解消するには、地味でも素振りをするしかない」と言い、こう続ける。

「確かに、素振りは面白くない。本当に打てるようになったのかという実感もできない。だからこそ、指導者は、本当に実になるのは面白くない練習なのだと理解させなければいけない」

 そして、素振りをする際に最も大切なのは、自分のイメージを作ることだという。相手投手が投げ、そのボールの軌道をイメージしながら振る。その地味な練習に黙々と取り組めるかどうかで、どんな打者に成長できるかが決まっていくのだ。

「野球界でも一般社会でも、最近の若者は、時代や感性が違うと上司や先輩のアドバイスを素直に採り入れない傾向がある。でも、どんな世界だって長く経験してきた人の話というのは、意外と参考になるものなんだよ」

 11月に上梓した『決断=実行』(ダイヤモンド社刊)の中でも、落合は指導者だけでなく、選手の姿勢についても持論を著している。

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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