上沢直之のケースが明らかにしたポスティング制度に必要な新たなルール
12月18日、ボストン・レッドソックスからフリー・エージェント(FA)になっていた上沢直之が福岡ソフトバンクと契約。その規模は4年総額10億円とも伝えられ、石川柊太が国内FA権を行使して千葉ロッテへ移籍した福岡ソフトバンクとしては、来季に向けて大きな戦力補強となった。
だが、この契約を好意的に受け止められない空気がある。周知の通り、上沢は昨オフに北海道日本ハムからポスティング制度を利用してメジャー・リーグ(MLB)への移籍を目指し、1月11日にタンパベイ・レイズとマイナー契約。3月27日にレッドソックスへトレードされ、2試合に登板しただけで帰国していたからだ。
特に、新庄剛志監督の下で優勝を争えるチーム作りを目指し、大きな期待を持っていた北海道日本ハムのファンは、その中心にいた上沢を断腸の思いで送り出した。それが、僅か一年で帰国し、あろうことかライバルの福岡ソフトバンクへ入団してしまったのだ。感情的になるのも無理はない。
上沢は現行のルールには何ひとつ違反しておらず、誰も福岡ソフトバンクとの契約を責めることはできない。ただ、2020年オフに北海道日本ハムからポスティングでテキサス・レンジャーズと契約したものの、2年間にわたって思い通りの活躍ができないと帰国を決意し、福岡ソフトバンクと契約した有原航平と同じ道を辿ったことで、ファンも心中穏やかではいられない。
有原が2023年1月10日に福岡ソフトバンクと契約した際にも、「これではMLBを利用したFAではないか」と批判する声があった。この時も、有原はルール違反をしていないのだから、その姿勢や行動ではなく、ポスティング制度の穴を議論する機会を持たなければいけなかったのだが、日本野球機構は何ら対策を講じなかった。それが、今回の上沢のケースにつながったと言っていい。
ポスティング制度では“空気”が大切だからこそ
そもそも、ポスティング制度はフェアなルールではない。1998年に日米間で創設された移籍システムで、いくつかの点が修正されて現在に至っているが、あくまで選手が所属球団にMLBへの移籍を希望し、球団が承諾してポスティング申請すればスタートするもの。中日の落合博満監督は「不完全な制度」とポスティングを認めず、当時の選手はFAでしかMLBには挑戦できなかった。
このように、球団や監督の考え方や方針にも左右される制度だから、昨年の山本由伸が「アメリカでも頑張れ」とファンにも後押しされたのに対して、佐々木朗希には「もっと千葉ロッテに恩返ししてから」という声が聞かれる。以前より選手の希望が叶えられているとはいえ、選手を取り巻く空気がポイントになっている。
これまで、ポスティングでMLBに移籍した選手が短期間で帰国することがなかったから、渡米する時だけでなく、帰国する際も空気が大切だとは考えられなかった。また、筒香嘉智のように納得できる活躍ができなかった選手は、送り出してくれた球団で再出発するものだという日本人独特の思いもあるから、有原や上沢が批判されてしまう。だからこそ、ポスティングで渡米した選手が帰国する際の新たなルールが必要だ。
例えば、MLBで3年間プレーすれば、帰国する際にFAとして扱われるが、2年以下で帰国する場合は『送り出した球団に、移籍時の年俸を上限として復帰する』ことを前提にする。その選手を送り出した球団も、3年後には新戦力を得て違ったチーム編成をしているだろう。一方、2年以下なら復帰する選手が戦力になれる公算が高いと考えるからだ。
そして、ある期間、送り出した球団と選手が話し合い、別の球団で復帰を目指すことにするのなら、送り出した球団が獲得しないことを発表し、FAとして他の11球団と交渉する流れにしていくのはどうか。
今回の上沢のケースでも、水面下では北海道日本ハム側が上沢の獲得に積極的ではなかった可能性は否定できない。主力選手を失った球団は、その穴をすぐに埋めようと努力するし、選手にもよりよい条件を選ぶ権利がある。互いに少しでも気持ちよく次のステップに向かうためには、ポスティングで渡米する時点から帰国する場合のルールも定めておくべきだろう。