アメリカ本土防衛用迎撃ミサイル増強と欧州MD第4段階の中止
15日のアメリカのヘーゲル国防長官の発表で弾道ミサイル防衛システムについて、アメリカ本土防衛用の地上配備迎撃ミサイル「GBI」を14基追加配備する事と、欧州ミサイル防衛の第4段階である迎撃ミサイル「SM-3ブロック2B」が開発凍結される事が分かりました。
As Delivered by Secretary of Defense Chuck Hagel, The Pentagon, Friday, March 15, 2013
- GBIを14発追加配備(アラスカ州フォート・グリーリー基地)
- 日本に前方展開用Xバンドレーダー「AN/TPY-2」を追加配備
- 新たなGBI配備基地の環境影響調査(アメリカ東海岸を検討)
- SM-3ブロック2B計画を再構成(欧州ミサイル防衛第4段階)
地上配備迎撃ミサイル「GBI」とは
「GBI」とはグランド・ベースド・インターセプターの略で、地上配備迎撃ミサイルとはその直訳です。よく地上に配備される迎撃ミサイル全般の事だと誤解されますが、実際にはGBIというミサイルの固有名です。GBIは大陸間弾道ミサイルを大気圏外で撃墜する為の3段式大型迎撃ミサイルで、全長約17m、重量約13トンという大きなもので、固定サイロ発射式です。
現在アラスカ州のフォート・グリーリー基地およびカリフォルニア州のヴァンデンバーグ基地に30基配備されていて、今回の決定で14基追加配備され合計44基になります。追加配備には総額10億ドル(約950億円)を掛ける事が予定されています。GBIの弾頭部分である大気圏外迎撃体(EKV)は新設計の「CE2 EKV」が搭載されます。
GBIの増強は、アメリカ国防省が北朝鮮の新型長距離ミサイル「KN-08」を道路移動式の実戦的な大陸間弾道ミサイル(ICBM)と認識し、実用化される前に先手を打って脅威に対抗する為のものであると説明されています。
欧州ミサイル防衛第4段階「SM-3ブロック2B」とは
対イラン用の欧州ミサイル防衛はブッシュ政権時代の計画では迎撃ミサイルにGBI小型版(2段式)を使う計画でしたが、オバマ政権は4年前の1期目就任直後に迎撃ミサイルをSM-3に変更していました。オバマ政権の欧州ミサイル防衛構想はPAA(Phased Adaptive Approach; 段階的適応アプローチ)という4つの段階に分けられ、現在はその第1段階にあります。
- SM-3ブロック1A(配備中)地中海にイージス艦
- SM-3ブロック1B(2015年)ルーマニアに地上型イージス
- SM-3ブロック2A(2018年)ルーマニア、ポーランドに地上型イージス
- SM-3ブロック2B(2022年)ルーマニア、ポーランドに地上型イージス
イージス艦や地上型イージスの他に、トルコへ前方展開用Xバンドレーダー「AN/TPY-2」を配備しています。
SM-3は日米共同開発のブロック2Aで直径が53cmに拡大され(ブロック1Aと1Bは直径35cm)、性能が大幅に上がります。そしてブロック2Bは直径を69cmに拡大、液体燃料を採用し、更なる性能アップを図る予定でした。SM-3ブロック2Bはイランからアメリカ本土へ向かうICBMを欧州の付近で撃墜する目的で計画され、当初は2020年に配備予定でしたが、現在は2022年予定と計画は遅れ気味でした。そもそもまだ本格的な開発には入れていませんでした。
SM-3ブロック2Bは日本に配備する予定は無く、配備予定の欧州にとっても欧州防衛には関係が無く(欧州防衛にはSM-3ブロック2Aで十分)、SM-3ブロック2Bはアメリカ防衛用の迎撃ミサイルです。開発が凍結されても日本と欧州には影響は出ません。配備の話は出ていませんでしたが、ICBM迎撃を目指すオーストラリアにとっては影響があるかもしれません。
オバマ政権は1期目の発足時に示したミサイル防衛の方針(GBIの増強を中止し、SM-3に注力する)を、2期目の今となって一部修正することになりました。GBIの増強を再開し、SM-3の一部開発を凍結してリソースをGBIに振り向ける事にしました。それはイランが核弾頭を搭載したICBMを実用化するよりも、北朝鮮が先に核弾頭付きICBMを実用化する方が早いと判断した為です。SM-3ブロック2Bは開発が順調だったとしても配備は2022年以降になりますが、GBIの追加配備は2017年までに完了する予定です。アメリカ国防総省は、北朝鮮の核兵器の小型化と長距離弾道ミサイルの開発が現実の脅威になり得ると認識しています。