北朝鮮が液体酸素+ケロシンの新型衛星運搬ロケットを発射失敗、弾道ミサイル転用は不向きな構成
2024年5月27日夜間、北朝鮮は西海衛星発射場(平安北道鉄山郡東倉里)から衛星打ち上げロケットを発射して失敗しました。発射から約2~3分後に爆発して多数の破片が黄海に落下していき、中朝国境の中国側から撮影していたNHKなど日本のテレビ局各社がその様子を報じています。
- 5月27日22時43分発射 ※米軍の早期警戒衛星の赤外線探知
- 5月27日22時44分捕捉 ※日米韓のイージス艦のレーダー捕捉
- 5月27日22時45分爆発 ※NHKなど日本のテレビ局各社が撮影
北朝鮮は直ぐに朝鮮中央通信が「新型衛星運搬ロケットは第1段の飛行中、空中爆発して打ち上げが失敗した」と発射失敗を認め、「新しく開発した液体酸素+石油エンジンの作動の信頼性に事故の原因があると初歩的な結論を下した」と説明しています。石油とは灯油系のケロシンのことだと推定されます。
驚くべきことに北朝鮮は「液体酸素+ケロシン」を燃料とする新型ロケットエンジンを開発していたのです。この構成は低温の液体酸素が必要なのでロケットのタンクに充填後に長期間の維持が出来ず、発射時の即応性が低いので軍事用には不向きです。つまり北朝鮮は弾道ミサイルへの転用を考えていない、純粋な宇宙ロケットを開発していることになります。
ただし国連安保理が制裁で北朝鮮に禁止しているのは「弾道ミサイル技術を用いた発射」であり、液体酸素は軍事用には不向きであっても一応は可能なので、今回の発射も違反行為になります。たとえば世界初の弾道ミサイルであるナチスドイツの「V2」ロケットは「液体酸素+エタノール」という燃料の構成でした。
なお今回の北朝鮮の新型ロケットエンジンの技術の出所はロシアである可能性があります。参考までにロシアはRD-180(РД-180)という液体酸素+ケロシンを燃料とするロケットエンジンを持っています。(TOP画像の模型写真はCC0 1.0、ロシア語版Wikipediaに投稿されたパブリックドメイン扱いのもの)
北朝鮮の新型衛星運搬ロケット「千里馬-1(천리마-1)」
- 2023年05月31日06時30分発射 ※失敗、第2段に異常
- 2023年08月24日03時50分発射 ※失敗、第3段に異常
- 2023年11月21日23時43分発射 ※成功
- 2024年05月27日22時43分発射 ※失敗、第1段に異常 ※新型の可能性
※北朝鮮は今回の5月27日に発射したロケットについて具体的な名称をまだ述べておらず、千里馬-1ではない新しい名称が付いている可能性があります。あるいは改良型扱いかもしれませんが、新型ロケットエンジンなので別物とみた方がよいでしょう。