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ゴーン氏が会見 トヨタを越える脅威の世界戦略とは?

井上久男経済ジャーナリスト
日産・ルノー・三菱「アライアンス会長」のカルロス・ゴーン氏(写真:ロイター/アフロ)

 日産自動車のカルロス・ゴーン会長は15日、パリで記者会見し、日産・ルノー・三菱自動車の3社連合の中期経営計画「アライアンス2022」を発表した。その中でグローバル販売台数を2022年までに1400万台に拡大することや、運転手のいない完全自動運転車を投入していく考えを表明した。記者会見は米国や日本ともつないで行われた。

 ゴーン氏は今春に日産社長兼CEOを退任し、日産と三菱の会長、ルノーの社長兼会長を兼任。大所高所から3社連合の長中期戦略を練る仕事に集中している。いわば「バーチャル持ち株会社」のトップとなり、「アライアンス(連合)会長」と呼ばれている。

世界販売1400万台へ

 3社連合の17年1~6月のグローバル販売台数は前年同期7%増加の約527万台で、独フォルクスワーゲン、トヨタ自動車の両グループを追い抜き、初の世界1位の座を獲得。年間を通じては1050万台を見込んでおり、今後5年間で現状から33%販売を伸ばすことになる。世界シェアは12~13%を狙っている。計画通りに1400万台を達成すれば、圧倒的な世界1位となるだろう。

 そしてゴーン氏が最も重点を置くのがシナジー効果だ。共同購買や設計の共通化などによって現在は3社で年間50億ユーロ(約6500億円)のシナジーを生んでいるが、それを年間100億ユーロ(約1兆3000億円)にまで拡大していく。

 日産とルノーは設計の共通化戦略である「CMF(コモンモジュールファミリー)」を進めており、それを三菱が活用する。1400万台のうち900万台を共通のアーキテクチャーで生産することで量産効果を生み出す。エンジンも31種類あるうち21種類を共通化する。こうした取り組みは、開発投資の重複を避けることに主眼がある。

 

生き残りには2000万台必要?

 実は自動車業界では今後生き残っていくためには、規模を拡大するか、特徴あるクルマを造るか、プレミアムブランドとなるかの3パターンしかないというのが筆者の見解だ。日産、ルノー、三菱のような大衆車を得意とするメーカーは規模拡大が求められるだろう。一方でスバルやマツダのように特徴あるクルマを造っていくことも重要な生き残り戦略と言える。

 規模拡大について、一部の自動車部品メーカーの中には、1000万台規模ではなく、2000万台規模のクルマに納入していかないと、開発投資は回収できないといった見方も浮上しているほどだ。

9月6日の新型「リーフ」発表会。左から2人目が日産の西川廣人社長(撮影:筆者)
9月6日の新型「リーフ」発表会。左から2人目が日産の西川廣人社長(撮影:筆者)

 

自動車革命が近づく!

 特に投資回収の視点からも規模は重要だ。今回の「アライアンス2022」の肝は、EV(電気自動車)や自動運転などの次世代技術の開発をさらに強化していくための資金を、シナジー効果によって捻出していくということにある。ゴーン氏はこうした戦略がなければ激しくなる競争に勝てないと判断した、と見られる。IT業界など異業種からの自動車ビジネスへの新規参入も相次ぐ。ゴーン氏は「自動車革命が近づきつつある」と語った。革命的な変化が業界で起こりつつある中で、競争優位を保つためには3社連合のメリットである「規模」を生かしていくということだろう。

 次世代技術については、これまでの流れに沿って引き続きEVや自動運転の開発に力を入れる。EVについては22年までに12車種を市場投入し、1回の充電で走る航続距離は欧州の試験モードであるNEDCモードで600キロ(新型リーフは日本のJC08試験モードで400キロ)を目指す。一方でバッテリーコストは16年比で30%削減する。

 

プラットフォーマーに

 自動運転に関連してのモビリティサービスを強化して新会社設立も検討する。無人運転車両の配車サービスにも参入するほか、カーシェア事業も強化する。クルマと外部のネットワークを接続する「車載コネクティビティシステム」も3社連合で共通化し、「コネクテッドクラウド」も強化する。クルマの走行情報などをクラウドに吸い上げ、無人運転車の配車や物流車両への情報提供などに役立てる計画だ。

 ゴーン氏が掲げる戦略は、3社連合が自動車ビジネスの「プラットフォーマー」になるということだ。これは、高品質のクルマを造る能力を保持しながら、大きく変化する周辺ビジネスの付加価値を3社連合内に取り込んでいくという意味でもある。

 

「スマホ敗戦」から学ぶこと

 この戦略は、筆者にはあたかも日本の電機メーカー、特に携帯電話メーカーの「敗戦」を意識しているかのようにも見えてしまう。日本の携帯電話メーカーは、「ガラ携」のころまでは力が強かったが、スマートフォンの時代になって世界での存在感を失った。スマホビジネスの世界では、いいハードを造ることに加えて、いかにコンテンツのサービスなどを増やして利用者の快適性や利便性を高めていくかの戦略が重要になるが、日本メーカーは後者が弱かった。

 自動車産業でもメーカーにとっては、単によいハードを造るだけではなく、外部環境の変化に合わせてユーザーが快適にクルマをどう使うかという視点が不可欠になっている、と筆者は感じる。ゴーン氏の発表を聞いてそれをさらに痛感した。

経済ジャーナリスト

1964年生まれ。88年九州大卒。朝日新聞社の名古屋、東京、大阪の経済部で主に自動車と電機を担当。2004年朝日新聞社を退社。05年大阪市立大学修士課程(ベンチャー論)修了。主な著書は『トヨタ・ショック』(講談社、共編著)、『メイドインジャパン驕りの代償』(NHK出版)、『会社に頼らないで一生働き続ける技術』(プレジデント社)、『自動車会社が消える日』(文春新書)『日産vs.ゴーン 支配と暗闘の20年』(同)。最新刊に経済安全保障について世界の具体的事例や内閣国家安全保障局経済班を新設した日本政府の対応などを示した『中国の「見えない侵略」!サイバースパイが日本を破壊する』(ビジネス社)

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