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カナダ「最後」の棚氷が分裂、背景に史上最高気温

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
エルズミーア島の資料写真。雪上にホッキョクギツネの足跡が見える。(写真:アフロ)

カナダ北部に、世界最北の有人島「エルズミーア島」があります。

とんでもなく寒いこの島には氷河が点在し、一部は海にせりだして「棚氷(たなごおり)」を形成しています。

このエルズミーア棚氷は、4000年の歴史があるとされていますが、近年の気温上昇の影響を大きく受けています。2000年までに6つの大きな棚氷に分裂し、そのうち5つはさらに分裂したと報告されてきました。

残念なことに、残る最後の棚氷も崩壊が起きてしまったようです。

崩壊する最後の棚氷

カナダ気象庁海氷情報局は先週、「ミルン棚氷」が大規模な崩壊を起こしたと伝えています。

ミルン棚氷の面積は187平方キロから106平方キロと、43%も減少したということです。消失した80平方キロという面積は、東京ドーム1,700個分に匹敵します。これほどの広さにもかかわらず、7月30日と31日のたった2日のうちに分裂が起きたのだそうです。

ミルン棚氷は、地理的な要因や、80メートルもの分厚い氷のおかげで、他の棚氷よりも氷が融解しにくいと言われてきました。しかしながら、今夏の気温と海水の記録的な昇温により、ついに限界が来てしまったようです。

温度上昇の実態

実際どれほど暖かかったのでしょうか。

オタワ大学のコップランド教授によると、今年5月から7月にかけての気温は、平年よりも5℃高い状態だったといいます。

具体的な数字を紹介するために、エルズミーア島より少し南に位置するユリーカの気温推移を見てみましょう。6月から7月の日最高気温の平均は6℃から9℃ほどですが、15℃以上の日が多かったことが分かります。特に7月25日には21.9℃まで上昇して、ユリーカの観測史上最高気温を塗り替えたほどでした。

ユリーカの日最高気温の推移 (筆者作成)
ユリーカの日最高気温の推移 (筆者作成)

一方で海水温はどうだったのでしょうか。

下図は8月上旬の海水温の平年差を表しています。エルズミーア島付近の海域は真っ黒に染まり、5℃以上も高かった場所があったようです。

NOAA出典の8月の海水温偏差に筆者加筆
NOAA出典の8月の海水温偏差に筆者加筆

氷帽も解ける

エルズミーア島では先日、2つの「氷帽」が完全に解けたことが明らかになっています。氷帽とは、陸地を覆う5万平方キロ未満の氷河を指します。逆に5万平方キロ以上だと、氷床と呼ばれます。

下の衛星画像が、解けてしまったセントパトリックベイ氷帽です。この氷帽は5000年前から存在していたとされていますが、近年融解が加速し、2022年には消滅するといわれてきました。

解けた2つの氷帽 (出典: NASA)
解けた2つの氷帽 (出典: NASA)

北極だけなぜ暖まるのか?

北極地方の気温はその他の地域に比べ、2倍の速度で上昇していることが知られています。でもなぜ高緯度ほど暖まりやすいのでしょうか。

それは海氷が解けて白い部分が減ることで、太陽光の反射が減る上に、温まった海水がその上の大気も加熱するためです。さらに陸上の氷河が解けることで、陸がむき出しになって、地表が太陽光を吸収しやすくなります。

今を予想したノーベル賞受賞者

今から約120年ほど前に、北極が早く暖まっていくことを予測した科学者がいました。スウェーデン人のスヴァンテ・アレニウスです。

彼はまた、人為的な二酸化炭素の排出が地球温暖化を招く、と提唱した世界で最初の人物ともいわれています。

今の気候変化を見事に予想したアレニウスですが、意外なことに彼は気象学者ではなく、物理と化学の研究者でした。1903年にはノーベル化学賞も受賞しています。

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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