「意味のない展覧会」をしませんか?驚きの提案に横尾忠則が示した反応は…【神戸市】
オープンして10周年目、横尾忠則現代美術館が今まで試行錯誤し考え続けてきた毎度の展覧会テーマ。常にインパクトが強かっただけに、今回の「横尾さんのパレット」というシンプルなタイトルに正直驚きました。
「意味のない展覧会をやりませんか?」…今回、学芸員が横尾さんに提案したのは「テーマや様式にとらわれないで、敢えて無作為の展覧会をする」という内容でした。
「意味と無意味が混在するこの構図こそ、横尾さんの世界なのでは」…学芸員からの提案に、怒るどころかむしろ面白がった横尾さん。「そんなこどものような自由さと遊び心が大事なんだ」と、全面的に受け入れて「横尾さんのパレット」の開催となりました。
まずは赤、黄、緑、青の壁が展開されている2階のフロアから。このカラフルなフロアに立つと、まるで横尾さんの頭の中に迷い込んでしまったかのような不思議な感覚になります。自分がとても小さくなって、横尾さんの頭の中で浮遊しているかのような。
展覧会にはいつも決まったテーマがあり、それに沿った作品展示がされているのですが、今改めて考えると、私はいつも横尾さんのカオス的世界観に圧倒されてしまっていたようです。
あまりに凄すぎて情報を全て捉え切ることができていなかったというか。だけどそれも当たり前、なんせ横尾さんの絵はまるで短い物語を読むかのように内容が濃いのですから。
ですが今回の、壁の色に沿った展示で感じたのは「圧倒感」ではなく「穏やかさ」でした。これだけ原色でカラフル極まりない空間で感じるのが「穏やかさ」という不思議…それは横尾さんの絵だからこそではないでしょうか。
これだけの原色に食われないほど、むしろそれをクッションにしてしまう程のインパクトを持っている横尾忠則の絵画だからこその、今回の生きた企画なのだと感じました。
この展覧会の壁の色には、横尾さんがよく使う赤、黄、緑、青と、黒と白が選ばれています。壁面全体に色をつけて、絵を色分けして展示するという試みは開館10年目にして初めてなのだそう。
そして、横尾さんの使用済みパレットも同時に展示されていました。普段は紙の丸皿をパレットにすることが多いそうなのですが、絵だけでなくそのパレット自体にも、その時々のいろんな心情が詰め込まれているかのように感じ取れます。
前回の展覧会「Forward to the Past 横尾忠則 寒山拾得への道」で所々に使われていた黄色や金色は、これまであまり使われてこなかった色なのだそう。
金という色は他の色と少し違った存在のような気がするのですが、それをあえて最近、使うようになってきた横尾さん。そこにはどのような心の変化があったのかという事も興味深いところ。
色を感じながら絵を見るという行為は、シンプルでありながら同調しやすいが上に、知らない間に絵の奥深くまで引きずり込まれている可能性も高く、どこか「沼」のような気配も漂っています。
黒と白のフロアの3階。黒の世界では壁に街の風景が溶け込んでいて、そこではあたかも真っ暗闇の中で意識を集中させながら知らない道を歩いているかのような感覚に。
そして、その闇から見た白い世界…そこは間違いなく「この世」でした。どこか「誕生」に近いような、闇から生まれ出た先の世界を感じます。黒から白へ、色のない世界に入り込んでしまったが故に色という存在をより意味深く感じるような体験。
ここで私はようやく、いつもの「横尾忠則」と対面しました。「あ、お久しぶりです」と心の中でつぶやきます。白の世界の真正面には、屏風の形で展示された大きな立体的絵画があり、4方向への道が描かれていました。
意図せずとも意図が常にあるのは横尾ワールドならではですね。誕生したばかりのこの世、その正面に現れた4つの道。私たちは果たしてどの道を選び、どこへ向かって歩いて行くのか…そんな勝手な妄想へと誘われてしまうのも毎度のことながら面白い。
横尾さんの世界に入り込んで遊ぶのは、一種の心の旅のようなものでもあり、自分の知らない意識と出会うちょっとしたスリルでもあります。異世界の隙間に吸い込まれて帰ってこれなくなったらどうしようと思ったりもしますが、気がつくと身を委ねてしまっている自分がいます。
「横尾さんのパレット」。そのシンプルなタイトルに安心してしまいそうですが、入りやすい入り口だと思って覗き込んだその世界にハマり込み過ぎないように、どうぞくれぐれもお気をつけください。
何故なら、私のように横尾ワールドから抜け出せなくなって、気がつけば繰り返しここに来るようになってしまいますから。
<関連リンク>トイレットペーパーに便器?自由奔放な歴史的人物を独自の世界観で描く!【神戸市・横尾忠則現代美術館】(外部リンク)
<関連リンク>【神戸】今度はお化け屋敷!?「横尾忠則」の描く世界が、あなたを恐怖の根元へと引きずり込んでいく… (外部リンク)
横尾忠則現代美術館
横尾忠則現代美術館ホームページ (外部リンク)
場所:神戸市灘区原田通3-8-30
電話:078-855-5607(総合案内)
開館時間:10:00-18:00(入場は17:30まで)
Google マップ (外部リンク)