16両編成の「のぞみ」が4両編成になる日
緊急事態宣言が発令されて東京圏と大阪圏を中心とする移動が大きく制限される状況になってきました。
ほんのひと月前、3月初めの時点でこうなるとは誰も思ってもいませんでしたし、2か月前の時点ではクルーズ船の話題に終始していて、ここまで大きくなるとは想像もつきませんでしたから、わずか数か月で世の中が大きく変わってしまったことは明らかです。
東京圏と大阪圏を中心とする人々の移動が自粛を呼び掛けられるということは、国内最大の移動旅客数を誇る東京―大阪間は一体どうなってしまうのでしょうか。
政府は鉄道には減便させないというようなことを言っていますが、今後のことを考えると誰もが不安だと思います。
タイトルの「16両編成の『のぞみ』が4両編成になる日」を見て、
「そんなことできるわけないじゃないか。」
とちょっと鉄道の知識がある方ならばそう言われると思います。
確かに東海道新幹線の電車は16両の固定編成で、お客様の需要に応じて編成を短くすることはできません。
でも、例えば新大阪から先の区間を走っているJR西日本の「レールスター」という電車は8両編成ですし、博多から先の九州新幹線の電車は8両編成と6両編成が混在しています。
東北新幹線の「はやぶさ」は秋田新幹線の「こまち」を併結して走りますが、「はやぶさ」は10両編成、「こまち」は7両編成。2つの編成を連結して最大17両編成です。
山形新幹線の「つばさ」も同様で、それぞれの編成は固定ですが、繋いだり切ったりすることである程度の需要対応はできそうです。
上越新幹線の「とき」に使われる2階建て車両のMAXは8両編成ですが、多客時には2編成をつないで16両編成として運用されています。
そう考えると東海道新幹線だけは16両編成を崩すことができず、お客様が多くても少なくても16両を繋いで走るしかありません。
どうしてこういうことになっているかというと、固定編成には当然メリットというのもあって、「のぞみ」だけでなく「ひかり」も「こだま」も同じ性能の形式で、同じ編成であれば、例えば東京駅に到着した「のぞみ」が折り返しの「こだま」になることも可能な共通運用ができますし、乗務員も形式ごとに分ける必要もなく、座席配置も同じですから指定席のコントロールも楽で、万一車両に不具合が発生して代替編成を充てるとしても全く問題が発生しません。
これに対して、列車ごとに車両の編成や座席配置、性能が異なったりすると車両の運用範囲が狭められますから、「とき」で新潟から東京駅に到着した2階建てMAXを、折り返しの新函館北斗行「はやぶさ」に使用することなどは不可能になります。
つまり、東海道新幹線は東京圏―大阪圏を結ぶその路線の性質上常に高い乗車率が見込まれますから、列車に合わせて車両の編成を変えるよりも、常に同一の編成を固定して走らせる方が効率が良いと考えられて来たのです。
「来たのです」と過去形で申し上げるのは、今の新型コロナウイルスの蔓延が引き起こした世界的な有事状態は、過去の経験則が将来予測に役立たなくなる可能性を示しているからで、東京圏と大阪圏を結ぶ東海道新幹線が、今後も未来永劫16両編成の電車を固定編成で走らせていくことを求められているかという点で、もしかしたら考え方を変えなければならない時期が突然、だれも予測しないままやってきているかもしれないからです。
では、目を転じて同じように東京圏と大阪圏を結んでいる航空路線を見てみましょう。
これは日本航空国内線時刻表(2020年3月29日~5月31日)の東京(羽田)―大阪(伊丹)です。1日片道15便、往復で30便設定されています。
多少のばらつきはありますが、ほぼ1時間に1本のペースです。
この時刻表に対して現在の実際の運航はどうなっているかというと、こちらは日本航空ホームページに掲載されている明日4月9日の羽田発伊丹行の運航状況です。
時刻表上では1日15便設定されている羽田発伊丹行ですが、半数以上にあたる8便が欠航となっています。
航空会社はこうやって、たとえ時刻表に掲載されていても、需要に応じて便数を調節しています。
これに対して、鉄道会社は不利な立場のようです。
「電車の減便は行いません。」と総理大臣が発表しているのですから、どんなにお客様が少なくても運転しないわけにはいかないからです。
ただし、これだけではありません。さらに驚くのはそのうちの1便、12時30分発の117便です。
予約のページに進むと117便のところにE90と書かれています。
これは使用する機材です。
次の125便をはじめ、その他の便は全便788と書かれていますが、こちらはB787-800型(291人乗り)。
これに対してE90型はエンブラエル190型という95人乗りの小型機です。
印刷された時刻表をご覧いただければお分かりいただけると思いますが、東京―大阪線には大型機のB777-200型機(375人乗り)が入っていました。
それが291人乗りのB787に置き換えられて、さらに恐らく一番需要がないと思われるお昼の便はE190という95人乗りの便に変更されている。375人乗りのB777-200から見たらまさに4分の1の座席数しかない飛行機に置き換えられているのです。
航空会社というのは、このように素早く需要に対応することができるのですが、鉄道会社はそれができないということがご理解いただけると思います。
東海道新幹線は固定編成という概念でずっとやってきて順調に走り続けてきました。
でも、今まではそれで良かったかもしれませんが、こういう事態になると全く対応できない。
航空会社が座席数が4分の1の機材にサッと置き換えるということは、16両編成の「のぞみ」が次の日から4両編成になるということに匹敵するわけですが、そういうことを航空会社は誰も気づかないうちに対応しているんですね。
そして、筆者が何よりも驚くのは、その95席の便ですら、まだ空席がある状態だということです。
1日の半数以上の便が欠航になり、前後の便も飛んでいないにもかかわらず、東京発大阪行きの便が95席の機材を使用しても満席にならない。「特便割引」が表示されているということは、空席が多数あるということを示していますから、緊急事態宣言が出された今、需要の落ち込みは計り知れないということになります。
16両という固定編成の電車が1時間に10本以上朝から晩まで走り続ける東海道新幹線は、果たして需要の急激な変化にどこまで対応できるのか。
新幹線会社の幹部の皆様方はただ手をこまねいて見ているだけとは思えませんから、この環境変化にどうやって対応するのか、そろそろ手の内を見せてくれることでしょう。さもなければ急激な地球環境の変化に対応できずに滅んでしまった恐竜たちの二の舞になりかねません。
図体が大きいということは、それだけでリスクがある時代があっという間にやってきたと言えるかもしれないからです。
コロナ禍が一日も早く終息し、16両編成の「のぞみ」が4両編成になる日が来ないことを祈るばかりです。
航空会社や鉄道会社ですらこれだけの落ち込みを受けているのですから、民間の小さな会社や個人経営の飲食店などのお店のダメージは計り知れないものがあることは推して知るべしです。
政府の皆さんは本当に国民救済の観点に立った現実的な給付策を早急に実施していただけるよう、切に願っています。
※本文中の写真はすべて筆者撮影。表、図は日本航空のホームページから抜粋したものです。