あなたの湯船の浸かり方は? 溺水予防の観点から望ましい姿勢はどれか
お風呂でゆっくりと体を温めたい季節になりました。今夜も、いつもの格好でのんびりと湯船に浸かりたいですね。あなたにとって、そのいつもの格好とは、どのような姿勢でしょうか。そして、他人はどうしているのでしょうか。
寒い脱衣所・浴室、ここから急に湯船に浸かると発生しがちなヒートショック。ヒートショックを含めた様々な要因で意識を失い、湯船の湯に顔が浸かり、溺れたために命を落とす人が、家庭内で起こる事故に限っても一年で5,398人(2018年、浴槽内への転落を含む)、この20年でほぼ倍増(1998年、2823人との比較)しています。
浴槽内で発生する急病の予防法については、他の専門家に解説を委ねます。ここからは、呼吸と脈拍はあるものの、意識を失うことによって発生する溺水の防止策に焦点を絞り、とくに湯船に浸かる時の望ましい姿勢について、お話します。
湯船の浸かり方
図1をご覧ください。水難学会会員にアンケートをとり204人から得た回答をまとめました。(a)は回答数122で最も多く、足の伸ばせるタイプの湯船にて、顔をどちらかというと上に向けて湯に浸かる方法です。(b)は回答数43で次に多く、足の伸ばせないタイプの湯船にて、顔をどちらかというと上に向けて湯に浸かる方法です。(c)は回答数24で少なく、足の伸ばせるタイプの湯船にて、体育座りに近く顔をどちらかというと下に向けて湯に浸かる方法です。(d)は回答数15で最も少なく、足の伸ばせないタイプの湯船にて、顔をどちらかというと下に向けて湯に浸かる方法です。
男性では(a)や(b)の、どちらかというと上を向いて浸かる姿勢だと答える人が圧倒的に多数です。一方、女性では(c)や(d)など下を向いた姿勢だと答える人が多くなります。介護施設に勤める複数の方は、「高齢者で背中が曲がってくると、男性でも顔を下にするようにして座る人が増える」と回答しました。
溺れにくい姿勢
急病や寝落ちなどで湯船の中で姿勢が崩れるケースは、大きく2つに分かれます。
どちらかというと顔が上を向いている時は、姿勢を崩しても溺れにくいと言えます。広い湯船を想定した図2をご覧ください。脱力して沈むなら後頭部から湯に浸かっていきます。最後は図2の上に示すように顔面が水面下に沈むように思えますが、実際には重い脚が沈み、肺のある軽い上半身が浮きますから、呼吸をしていれば図2の下に示す体位になり、上を向く顔が沈むことはそうそうありません(注1)。さらにここに至るまでに耳が湯に浸かるとかなりの違和感を覚えますし、顔面の水没が最後にまわるので、目覚めて気が付くまでに、それなりの時間を稼ぐことができます。
一方、どちらかというと顔が下を向いている時は、顔面から沈みます。突然のことで時間的な余裕がなく、顔面が水没した瞬間に一回の呼吸を失敗しただけで窒息します。
湯量を調整して
意識がなくなり脱力して姿勢が変わったとしても、口と鼻が湯に浸らなければ溺れません。したがって、脱力しても溺れることのないように、湯量を調節することが当然重要な対策となります。ただ、家族で共用している時には、人によって湯船での姿勢がかわりますので、新たに湯量を調節するのであれば、家族で話し合う必要があるでしょう。
まとめと、次回の話題
入浴時に、何らかの原因で意識がなくなり脱力しても、姿勢や湯量によって湯船での溺水は避けることができます。
次回は、多くの現場を見てきた救急隊員らの証言から、事実にさらに切り込み、湯船で発生する溺水の真実に迫ります。
注1 溺れる前に急病で呼吸が止まり、仰向けで水没すると、肺の空気が抜けて顔が沈むこともあります。