責任逃れするフランチャイズ本部 「ぶっ殺す」発言は、「顔を見たいから」
一昨年の夏から話題になっている「しゃぶしゃぶ温野菜」のアルバイト学生刺傷事件で、学生が働いていた店舗の元店長が2月2日に傷害罪・暴行罪で書類送検された。だが、「しゃぶしゃぶ温野菜」のフランチャイザー本部は未だに責任をとろうとせず、被害者は苦しみ続けている。
一方で、先日セブンイレブンの店舗で高校生が違法な「罰金」を徴収された問題では、フランチャイザー本部が対応することで無事返金され解決した。この二つの事例の対比からは、アルバイトの労働問題解決に向けて、ランチャイザーの姿勢が重要なカギを握っていることが示されている。
事件の経緯
「しゃぶしゃぶ温野菜」の事件概要は次の通りだ。千葉県内の店舗で働いていたアルバイトの学生が、4カ月連続勤務や20万円以上の自腹購入を強要されたうえ、包丁で刺される・首を絞められるなどの暴力に遭ったことが刑事事件となったものだ。犯行中の音声や、包丁で刺された際の傷の写真、穴が開いた衣服などが証拠として残されている。
犯行の際の音声はメディアにも公開されている(ショッキングな音声なので、事前に注意してほしい)。
被害を受けた学生は昨年6月に未払い賃金や慰謝料などを求めて会社を相手に裁判を起こした。
しかし、この事件は2015年夏に起こったにも関わらず、1年以上たった現在も、加害店舗を運営するDWEJAPANは責任を認めていない。さらに、「しゃぶしゃぶ温野菜」ブランドを展開し、店舗での問題を指導する立場にあるフランチャイズ本部・レインズインターナショナルは、解決に向けた指導を行うどころか、被害学生に責任を押し付ける内容の報告書を公開したのである。
フランチャイズ本部も責任を取っていない
千葉県にあるこの「しゃぶしゃぶ温野菜」の店舗は、DWEJAPANという零細企業が、大企業であるレインズインターナショナルからフランチャイズ契約を結んで運営されている。被害学生との間に雇用契約はないものの、「しゃぶしゃぶ温野菜」ブランドの店で起こった事件について、レインズインターナショナルは店舗に対して指導・改善する責任がある。
しかし、レインズインターナショナルは、一連の暴行の事実には一切触れずに、被害学生にも非があるという趣旨の「第三者委員会」による報告書をインターネット上で公開し、「火消し」にやっきになっている。
この報告書によれば、例えば、店長がかけた「家に行くからな。殺してやる。」という脅迫の電話は、被害学生の「勤務態度に著しい悪化」がみられたため「注意指導するためには電話でなく顔を合わせて話をしたいとの思いが強調されたもの」だという。
また、買取の強制については次のように報告している。
「当該アルバイト従業員よりミスした際に給料天引きや商品の買い取りの申し出があったこと、店長は当初この申し出を断っていたが当該アル バイト従業員より再三の申し出を受け、代わりに、当該アルバイト従業員が選 択した商品代金の前払いを受け、引き換えにレシートを発行し、後日当該アル バイト従業員がこのレシートを提示すれば同じ商品の提供を受けられるようにする対応を数回にわたり行ったこと…が関係者供述により確認されたが、 当該アルバイト従業員に対し自腹購入を強制した事実は確認できていない」(強調引用者)。
「勤務態度が悪い」ことを理由に「ぶっ殺してやる」という経営者がいるだろうか? また、「顔を合わせて話したい」と思って「ぶっ殺してやる」という人間がいるだろうか? 自発的に20万円以上の買取を申し出る学生アルバイトがいるだろうか? (実際には、20万円分「買い取った」とされる商品も提供されていない)
この報告書は被害者側からの聞き取りは行っておらず、一方的に作成された。内容もさることながら、そのやり方も非常識であろう。
このように、フランチャイザー本部は被害を認めないどころか、被害学生個人を攻撃する態度を取り続けており、今日まで、レインズインターナショナルは謝罪も一切していない。
運営会社(フランチャイジー)も依然として責任を認めていない
フランチャイザー側のこうした態度に勢いを得て、加害企業自身の対応も悪化している。
驚くべきことに、警察が職場で暴力があったことなどを認めているにもかかわらず、運営会社のDWEJAPANは、ブラックバイトユニオンとの団体交渉を拒否し続けており(これ自体が違法行為である)、事実関係を一切認めていないという。
被害学生は、4ヶ月間文字通り1日の休みもなく1日12時間勤務を強いられていたのだが、運営会社側は逆に被害学生が「自発的に喜んで働いていた」、「店長の制止を振り切って出勤した」という無茶苦茶な主張を展開し、自身の行為を正当化する姿勢を続けているのだ。
実は、フランチャイザーのレインズインターナショナルは、現在も「牛角」などの店舗を加害企業に運営させ続けている。フランチャイザーと加害企業は「一体」となって違法行為を正当化し続けているわけだ。
(尚、「しゃぶしゃぶ温野菜」の事件の詳しい経緯や、構造的な背景などについては拙書『ブラックバイト 学生が危ない』(岩波新書)に詳しくまとめられている)。
対照的なセブンイレブンのケース
一見すると、被害学生とレインズインターナショナルは雇用関係にないため、同社が取りうる対応には限界があると考えられる。しかしフランチャイズ本部が動くことで、店舗の労働法違反が改善されるケースは実際にある。その典型が、東京・武蔵野市にあるセブンイレブンでアルバイトの高校生が病欠したところ9350円の罰金を徴収されたことが問題になったケースだ。
同事件では、給料明細とポストイットに書かれた「ペナルティ 9350円 935円×10時間」がネット上にアップされ、メディアで大々的に取り上げられた。当然、休んだことで罰金をとるのは端的に労働基準法違反である。
この武蔵野市の店舗も、フランチャイズとして運営されていたようだが、ここで重要なのは、問題の発覚後、本部のセブンイレブン・ジャパンが労働基準法違反を認めて謝罪し、金額の返還を店舗に指示したということだ。
セブンイレブン・ジャパンが行った対応は、レインズインターナショナルの対応とは180度違う。非を認め、フランチャイズ本部の立場として加盟店に指導している。もちろん、そもそも最初から労働法違反が置きないようにセブンイレブン本部が対策を講じておくべきであった。しかし、問題が発覚した後の対応としては妥当であろう。
一方のレインズインターナショナルは、警察捜索を行っている加害行為を覆い隠し、非常識な「第三者委員会」で脅迫行為を正当化し、責任逃れに走っている。本部がこのような対応では、他の店舗で同様のブラックバイト事案が起こったとしても全くおかしくないだろうし、その時にまた同じ対応になることは十分に予想される。
本部が動かせば、フランチャイズ全体を改善できる
セブンイレブンの事例はフランチャイザーの姿勢が重要だということにくわえ、もう一つ、前向きな教訓を社会に与えている。
もしフランチャイズの店舗で働いていれば、同じことが他の店舗でも行われている可能性が高い。だが、1人が声をあげることで、その職場だけでなくフランチャイズ全体を変えることもできるということだ。
これまでのケースでも、例えば、コンビニ大手・サークルKサンクスでは、「勤務時間丸め設定」という賃金を15分単位で切り捨てる違法なシステムが全店舗で導入されていたことが、ブラックバイトユニオンの調査で明らかになった。
この事案では、高校生がブラックバイトユニオンに加入して会社と話し合った結果、そこで働く従業員全員に対して、切り捨てられていた分が支払われるようになった。さらに、本部のサークルKサンクスは、「1分を超える実労働時間を切り捨てることの無いよう指導する」「勤退システム中の勤務時間丸め設定廃止の要求につきましては、できる限り早急に対応したい」と対応を約束したのだ。
やはりこの場合にも、フランチャイザー側が適切な対応をとることで、問題解決がスムーズに進んでいる。しかもその効果は、一店舗だけではなくすべての店舗に効果をもたらした。一人の行動で、違法状態を劇的に変える可能性もあるということだ。
もちろん、一人で大企業相手に話し合うのは誰にとっても困難だ。そのため、NPOや労働組合など、問題を改善したいという気持ちを最大限サポートしてくれる団体に相談するのがよいだろう(相談窓口一覧は下記参照)。
無料労働相談窓口
NPO法人POSSE
03-6699-9359
soudan@npoposse.jp
http://www.npoposse.jp/
ブラックバイトユニオン
03-6804-7245
info@blackarbeit-union.com
http://blackarbeit-union.com/index.html
総合サポートユニオン
03-6804-7650
info@sougou-u.jp
http://sougou-u.jp/
*ブラック企業問題に対応している個人加盟ができる労働組合。
ブラック企業被害対策弁護団(全国)
03-3288-0112
http://black-taisaku-bengodan.jp/