男児の希少難病『ALD』早期診断で発症を食い止める
『ALD(=Adrenoleukodystrophy)』という病気をご存じだろうか。日本語では「副腎白質ジストロフィー」と呼ばれ、主として男児に発症する。
病気の進行には個人差があるが、健常児として生まれ、元気に育っている子どもに、ある日突然、学力低下や視力、言語、歩行障害などがみられ、進行すると、寝たきりになったり、発症から1年以内に死亡することもある。
原因は遺伝子の変異で、脳の中の「白質」と呼ばれる部分と、腎臓の上にある「副腎」という臓器に異常がみられ進行する希少難病だ。
現在、日本国内では約200名の患者が厚生労働省の小児慢性特定疾病および指定難病の認定を受けている。
毎年20人が新たに発症しているというが、病気特異的な症状が少ないため一般の診療では見つけることが難しく、全国には正確な診断を受けられないまま苦しんでいる患者と家族も存在するとみられている。
(*ごくまれだが、高齢女性に症状が見られることもある)
ALDは早期発見によって有効な治療が可能
しかし、指定難病とはいうものの、この病気は早期発見することで進行を食い止めることができるという。
8月6日、「特定非営利活動法人 ALDの未来を考える会(A-Future)」の勉強会で講演を行った岐阜大学の下澤信行教授(生命科学総合研究支援センターゲノム研究分野)は、
「ALDの大脳型と呼ばれる重症型については、発症早期での造血幹細胞移植(骨髄移植)が唯一の治療法です。進行してしまうとたとえ移植を行っても急速に重篤化してしまうことが多く、また、移植自体のリスクもあります。患者さんやご家族の幸せのためにも、できるだけ早期に診断をおこない、早期に治療する必要があります」
と、早期診断の必要性を力説した。
学習障害に間違われやすい、ALDの初期症状とは?
では、どのような症状が見られた場合、ALDの可能性を疑うべきなのか?
「ALDの未来を考える会」のウェブサイトでは、次のような変化が発症初期のサインだとしている。
●小児(主に小学生)の場合
・学校の成績が下がってきた
・行動や性格が変わってきた・視力が低下してきた
・歩き方がおかしい
・副腎の働きが悪いと言われた
●成人(主に20~30歳代)の場合
・歩き方がおかしい
・まだ若いのに認知症と呼ばれた
・最近性格が変わった
・精神異常と言われた
・副腎の働きが悪いと言われた
いずれも、学習障害や心身症など、精神的な疾患と誤認されがちだが、こうした症状が現れたら、すみやかに小児科・小児神経専門医、また成人の場合は、内科・神経内科専門医に相談すべきだ。
新生児の段階でスクリーニング検査を
『ALDの未来を考える会』の理事長で、自らもALDの認定患者である長男を介護する本間りえさんは、発症前診断の重要性について語る。
「私の息子は健康で生まれ、6歳になるまではとても元気な男の子でした。でも、ある日突然、ALDの確定診断が下され、それからは日に日に症状が悪化し、26歳になった現在も寝たきりの状態で24時間の介護が必要です。今、悔やむことは、発症前に診断してやれなかったことです。もっと早くに骨髄移植ができれば、そのまま元気で人生を過ごせたかもしれません。そのためにも、新生児の段階でスクリーニング検査ができるようになってほしいと思います」
検査の方法は極めて簡単で、赤ちゃんの足の裏からほんの少しの血液を採取し、そこから化学物質(極長鎖脂肪酸)の濃度を調べるだけだ。
すでに、アメリカの一部の州では、発症前診断のためのスクリーニング検査が始められているという。
しかし、日本ではこの検査を提供できる医療施設はない。ようやく、この秋から、ある医療施設で新生児スクリーニングの研究が開始されるという。
本間さんはこう続ける。
「残念ながら日本を含むほとんどの国には、まだALDの患者さんを早く見つけるシステムがありません。私たちはALDという病気が広く認知されるよう、そして発症前診断によってせっかく元気に生まれた患者さんとご家族の未来が輝くように、これからも活動を続けていきたいと思います」
ALDを疑う場合は、ぜひ『ALDの未来を考える会』のサイトを閲覧の上、専門医に相談していただきたい。