【バスケットボール】3季ぶりWリーグ復帰 大神雄子の現在地
3シーズンぶりWリーグ復帰
女子バスケットボール日本代表『隼(ハヤブサ)ジャパン』がアジア選手権で連覇を果たし、リオデジャネイロ五輪出場権を獲得してから1カ月半がたった。
女子バスケの五輪出場は2004年アテネ五輪以来12年ぶり。国際バスケットボール連盟(FIBA)による制裁でどん底を味わった後の劇的V字回復とあって、バスケ界全体が盛り上がる中、10月上旬には女子バスケの国内トップリーグである『Wリーグ』が開幕し、選手たちは各所属チームで覇を競いながら、リオ五輪をにらんだ個人のレベルアップに励んでいる。
そんな中、リーグ全体の台風の目になるかと注目されているのが、元日本代表ポイントガード(PG)の大神雄子(トヨタ自動車)だ。
12シーズンを過ごしたJX―ENEOSを退団しての中国リーグでのプレー、そして所属チームのない苦しみを味わうことになってしまった昨シーズンを経て、今季は3シーズンぶりにWリーグに復帰した。10月17日に33歳になったベテランPGは、新天地でどのようにバスケットと向き合っているのだろうか。
バスケ人生で初めてのことが…
「今年はイヤになるくらい走らされてきました。今まであまりやってきたことのないサーキットやラントレをすごくやって…。ただ、この(公式戦という)緊張感の中でやっているのは幸せですが、昨年やっていない分、自分としてはまだまだですね」
10月12日にあった開幕第2戦のシャンソン化粧品戦を66-79の黒星で終えると、大神は悔しさをにじませながらそう言った。けれども、口調は明るい。バスケットをしたくてたまらなかった、だからコートに立っていることが幸せだ、その思いがストレートに伝わってくる。
大神によれば開幕第1戦は、前半を終えた時点で「下半身が全部けいれんしたようになった」という。
「暑かったせいもあり、半端ない汗をかいて、脱水症状みたいになった。後半はほとんど出られませんでした。こんなのはバスケ人生で初めて。緊張もあったんでしょう。身体は正直ですね」
20分のプレータイムに終わった第1戦から中1日で迎えた第2戦は、28分間の出場だった。この試合は、前半終了までは拮抗しながらもトヨタ自動車がペースをつかんでいたが、第3Qから一気に流れが変わった。
「バスケットには波があるんです。相手に波が来る中では、どれだけ自分たちがそれを止められるか、逆に自分たちの波なら、いかにそれを大きくするか。それが試合のポイントになります」
大神はベテランらしく丁寧に言葉を選びながら、「今日はそれまで自分たちのオフェンスの流れが良かったので、相手に波が行ったときにディフェンスへフォーカスすることができなかった。そこを相手に突かれました」と解説した。
求められているのは「セルフィッシュになること」
トヨタ自動車は今季、男子のNBLで5シーズン指揮を執ったドナルド・ベックHCを迎え、新しい一歩を踏み出している。大神が指揮官から求められているのは「少しセルフィッシュ(わがまま)になれ」ということ。「経験があるからとか年上だからとかではなく、一人のリーダーとしてやってほしいと言われています」
噛み砕くと、試合でも練習でもつねにパワーやエナジーを出して引っ張ってほしいということなのだろう。アジア選手権でも活躍した日本代表SG栗原三佳は大神について「プレーに対してもそうだし、ゲームへの入り方などでも盛り上げてくれる。パワーを出してプレーする選手なので自分たちもパワーを出せる」と話し、加入によるチームの変化を口にした。トヨタ自動車は現在4試合を終えて3勝1敗。良いスタートを切っている。
ベックHCは選手に、コートに立ったらパワーを惜しみなく出すように要求している。疲れたらどんどん選手交代。タイムシェアをして総力で頂点を目指そうとしている。大神はその中で司令塔としてチームを勝利に導くべく、頭も脚もつかいながら全力でプレーしようとしている。
リオ五輪をどういう距離感で見ているのだろうか
大神が昨年までキャプテンを務めた女子日本代表は、アジア選手権で優勝し、リオ五輪切符を獲得した。そのことについては率直にどう感じたのだろうか。
「(代表に)自分がいるいないに関係なく、みんなにおめでとうと言いたいです。小学生から実業団までを含めたバスケットボール選手の新たな目標ができたのはすごく大きい。五輪が身近になった瞬間。これからがスタートだと思います」
所属チームがなかったことによるコンディション低下でアジア選手権の代表に選ばれなかった大神だが、リオ五輪を目指す位置にいると見るのは自然なことだろう。ただし、言葉選びは慎重だ。
「自分の中では、今季はしっかりコートに立たせてもらえる環境をつくってもらったのが一番。まずはコンディションをしっかり戻していくことが求められています。もしかしたらその先に(リオ五輪が)あるかもしれないですが、今はこのチームでリーグをしっかり戦い抜くことが自分の責任だと思うし、それをまっとうしたいです」
大神がボールを持つとコートがパッと明るくなる。アテネ五輪にはチーム最年少の21歳で出場した。2010年世界選手権では8試合に出場し、1試合平均19・1得点で大会得点王に輝いている日本女子バスケット界の至宝。愛称「シン」の逆襲に期待したい。