水道事業、広域連携で基盤強化。カギ握るのは施設の統廃合と人材育成
水道事業の広域化を検討する長野県、長野市、上田市、千曲市、坂城町
10月3日、長野県上田市で水道事業の広域連携についての勉強会(「いい水シンポジウム」/上田市中央公民館)が開催された。
長野県、長野市、上田市、千曲市、坂城町は、人口減少などを見据えた水道事業の広域化を検討する「上田長野地域水道事業広域化研究会」を設置(7月30日)。
上田市から長野市までの給水人口62万人のエリアが対象。広域化と水道施設の統廃合により、今後の水道料金の値上げを最小限にし、持続可能な経営体制をつくるねらいがある。
登壇した岩手中部水道企業団参与(前局長)の菊池明敏氏は、広域化、施設の統廃合、人材育成の重要さを強調した。
菊池氏は、岩手中部水道企業団の局長として、岩手県北上市、花巻市、紫波町の3市町の水道事業の広域化を実践した経験をもつ。
3市町は、それぞれ独自に水道事業を行なってきた。だが、日本の多くの自治体のように、人口減少が進んでいた。また、水道施設や水道管の多くは、1950年代半ばから60年代半ばに整備され、老朽化が進んでいた。施設更新すれば事業費がかさみ、料金を大幅に上げせざるを得なかった。
そんな時、水道事業の広域化の案が出た。
「水道事業は各自治体で予算、運営方法、料金などが違うため、当初は反対の声が大きかった。だが、将来の事業継続のために、職員が本気で動いた」(菊池氏)
菊池氏は、水道管の更新費、水道施設の維持費、人件費、料金収入などから、3市町が単独で事業を続ける場合と、広域化した場合の2パターンで2038年までの水道料金のシミュレーションを作成。
3市町が単独で事業を続けた場合と、広域化を図った場合の、2010年と2038年の1000リットル当たりの料金は以下のとおりだった。
紫波町の場合、1000リットル当たりの料金が200円から360円になる。1世帯の1か月の水道使用料を20立法メートルとすると、月の水道料金は4000円から7200円に値上がる。
それに対して広域化では、1000リットル当たりの料金が230円で一定する。この結果を知った3市町の首長、議員は驚いた。議会は全会一致で広域化推進に賛成した。
施設の統廃合で89億円の投資を削減
厚生労働者は、水道事業の基盤強化法の1つとして広域化を推進している。だが、広域化と同時に、水道施設の統廃合が必要だ。
水道事業は人口増加の時期に「拡張」を繰り返してきた。だが、人口減少、1人当たりの水使用量の減少により、水道施設の平均的な稼働率は6割に止まっている。
水道料金は、事業コストを給水人口で按分して算出される。このまま施設更新を行うと新たな投資が必要になる。すると人口減少と相まって、水道料金は上がり続ける。
「それを支払うのは次の世代。私たちは子どもや孫から『何にも考えずに過大な投資をした』と非難されるだろう」(菊池氏)
岩手中部水道企業団で、事業計画時の2011年から、2019年までに削減した施設は以下の通り。
この結果、約89億円の投資が削減された。水道事業は施設産業である。施設を減らすコスト削減効果は大きい。今後も漸次、施設を統廃合を図っていく。浄水場の稼働率も5割から8割まで上昇した。
水道管の漏水化対策にも力を入れ、その結果、新たな浄水場建設は白紙に戻った。水道事業の持続性は着実に上がっている。
地元の水道のプロだからできる事業の最適化
菊池氏は広域化や施設統合のカギは人材の育成にあると強調した。
一部事務組合の場合、職員は管轄する役所からの出向が一般的。出向の場合、約3年の人事異動で職員が代わるため専門性が蓄積されない。そこで「岩手中部水道企業団は専任職員だけで」(菊池氏)と決め、首長の了承を得た。
3市町の全職員に移籍希望調査を送付した。身分や待遇は役所の時と同じで、事業内容は水道だけ。初年度だけで65人が役所を退職し、水道のプロとして働くために水道企業団に移籍した。
「地域の水環境や施設の特徴を把握している職員が、知恵を結集させたことで、適切な施設統合が図れた。ノウハウを持ち寄ることで危機管理対応能力も向上している」(菊池氏)
長野での水道事業広域化は、上田市から長野市まで千曲川沿いの自治体と県で連携し、自然流下を利用した浄水場の配置、稼働率の改善、浄水場の統廃合を行う構想。厚生労働省は、2070年までに計160億円余の経費を削減できるとの試算を公表している。
菊池氏は「地元長野を知る職員が知恵を結集することで、よりよい事業が構築できる」と強調した。