敵国のミサイルは試射よりも実戦の方が探知しやすい
北朝鮮がミサイルを試験発射した際に自衛隊や韓国軍が目標を見失ってしまい「これが実戦だったらどうするのか」と批判されることがありますが、こういった批判は間違っています。
実はミサイルは試験発射よりも実戦の方が探知しやすい。これは単純な話です。なぜなら実戦では敵ミサイルが自分に向かって突っ込んでくる=近寄って来るのですから。
例えば北朝鮮がミサイルを試験発射する場合、日本海に向けて撃つケースが多いでしょう。これは韓国からは遠ざかって行く飛び方です。一方、実戦では当然ですが北朝鮮から韓国に向けて発射されるので、ミサイルは近寄って飛んで来ます。
遠ざかって行くミサイルと近寄って来るミサイル、どちらが探知しやすいかは自明のことでしょう。よって、試験発射ミサイルを探知できなかったからといって実戦時のミサイルが探知できないとは言えないのです。
特に弾道ミサイルよりも低く飛ぶ極超音速ミサイルは遠い地上レーダーからでは探知し難くなります。更にもっと低い高度を地形に沿って這うように飛んでくる巡航ミサイルに至っては近い場所の地上レーダーからすらも見え難く、高い空中を飛行する早期警戒機(AEW)から探知しなければなりません。
これは地球は丸いからです。ミサイルが地平線(水平線)の陰に隠れてしまえば物理的に見えなくなります。高く飛び上がる弾道ミサイルは遠距離からでも見えますが、低く飛んでいる巡航ミサイルは近寄らないと見えません。
ゆえに北朝鮮が巡航ミサイルを試験発射した場合には遠い日本からの探知は不可能なので、近くに居る韓国軍や在韓米軍が38度線沿いに早期警戒機を飛ばして高い空中から見下ろしてレーダーで覗き見ないといけません。
しかしそれですら完全な捕捉は難しいでしょう、試験発射された巡航ミサイルは自分たちに近寄って来てくれるわけではないからです。しかも巡航ミサイルに地形追従飛行能力があれば、山の陰に隠れて検出が困難になります。北朝鮮の地上の上空を巡航ミサイルがグルグル周回しながら試験飛行した場合、海上を飛んだ場合よりも遥かに見付け難いのです。
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なお極超音速ミサイルや北朝鮮版イスカンデル(KN-23)のような機動式弾道ミサイルの場合は、普通の弾道ミサイルより高度が低いとはいっても巡航ミサイルよりはかなり高く飛んで来るので、遠い地上レーダーからは見え難いですが近い場所の地上レーダーならば十分に探知できます。
◎外部記事参考:North Korea’s Short-Range Ballistic Missiles: They Can’t “Evade Detection” and Are Still Vulnerable to Interception | 38 North (北朝鮮の短距離弾道ミサイル:「探知を回避」できず、依然として迎撃に対して脆弱である | 38ノース)