にせウルトラマンや、にせ仮面ライダーを見ても、なぜ劇中の人々はニセモノと気づかないのだろう?
こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今日の研究レポートは……。
特撮番組に、にせヒーローはつきものである。
ウルトラマンにもウルトラセブンにもスペクトルマンにも仮面ライダーにも水戸黄門にも、ニセモノが登場した。
彼らはヒーローになりすまして悪事を働き、本物の信用と名誉をおとしめようとする。
これ、作戦としてはどうなのか?
たとえば、お笑い芸人のニセモノが各地の舞台に登場し、面白くないネタをやり続けたら、「あの芸人はつまらなくなった」と言われて、本人の評判やイメージは失墜するだろう。成功すれば、ニセモノ作戦は意外と効果的かもしれない。
しかし、バレそうな気がする。
お笑い芸人にせよ、正義のヒーローにせよ、世間から注目されている。だからこそ評判を落とす意味もあるわけだが、注目されているだけに、本物の姿はよく知られていて、ニセモノが出てきても、すぐにバレるのでは……。
ところが、番組のなかの人々はいつもコロリとだまされる! なぜかあっさり「本物」と思ってしまうのだ。
いったいなぜ、誰も気づかないのだろうか? 本稿では、この問題を考えてみたい。
◆見るからにニセモノだ!
筆者にとって印象強いニセモノといえば、にせウルトラマンである。
ザラブ星人が化けたコイツは、本物よりググッと目が吊り上がっていた。体の模様にも黒いラインが入っていた。足先もアラジンが履いてた靴みたいに尖って反り返っていた。
もう一目でニセモノとわかるニセモノ! ザラブ星人も、なんとも不細工なコピーをしたものである。
にもかかわらず、地球人はあっさりだまされてしまった。
にせウルトラマンが突然現れ、街を破壊し始めると、それがウルトラマンだと信じて疑わない。
科学特捜隊のムラマツ隊長は、初めのうちこそ迷っていたが、「ウルトラマンといえども、暴れたら許さん」と腹を括っていたし、地球防衛軍の戦車隊など、躊躇なく猛攻撃していた。
実際にはザラブ星人を攻撃しているわけで、結果的には正しいのだが、そんなことでいいのか、地球の人々!?
にせウルトラマンの登場は『ウルトラマン』の第18話だから、地球人はそれまでに、もう17回もウルトラマンのお世話になっているのである。
突然ウルトラマンが暴れ始めたら「おかしい。何か理由があるのでは?」くらい思いなさいよ。
そもそも、吊り目とトンがった足先という、明らかな違いに気づかないのはどうしたことだろう?
◆どこから観察するのか?
にせウルトラマンの身長は、本物と同じ40m。
人間がこれを、地上から観察したとしよう。たとえば40m離れた地点から見上げた場合、にせウルトラマンの頭頂部、にせウルトラマンの足下、そして観察者の3点を結ぶと直角二等辺三角形になるから、観察者が見上げる視線の角度は45度だ。
――それを図に描いてみると、ややっ、顔の下半分しか見えない!
これでは「吊り目」という目の特徴に気づくのは難しいかもしれない。
しかも40m離れていれば、観察者とにせウルトラマンとのあいだに、建物や自動車などさまざまな物体が存在しているだろう。それらで視線を遮られるから、足先の形状を見分けるのも困難かも……!
身長40mの巨大な宇宙人を観察するのに、距離40mは近づきすぎともいえる。
地球防衛軍の砲弾なども飛び交っていたから、安全に観察するには1kmくらい離れたほうがいいだろう。
すると、今度は観察対象がとても小さく見える。
にせウルトラマンの身長は人間の24倍だから、彼を1kmの距離から観察するのは、普通の人間を42m離れて見るのと同じ。顔の特徴や、体の細かなラインまでは、とても見分けられないだろう。
そもそも「アイツはニセモノだ!」と見破るためには、本物をよく知っておく必要がある。
前述したように、ウルトラマンの登場はそれ以前に17回。
だが、ウルトラマンはじっとしているわけではない。現れるや否や、怪獣と激しい死闘を演じ、3分以内に慌ただしく帰っていくのだ。3分×17回=51分!
そのうえ、毎回どこに現れるかわからないのだから、現代のように人々がスマホを持ち歩いていなかった時代には、その姿を撮影することも難しかっただろう。
つまり、巨大で、いつも大暴れしていて、持久力がないゆえに、ウルトラマンの姿は劇中の地球人に正しく認識されていない可能性が高い、ということだ。
ってことは、にせウルトラマンの雑なコピーを問題視するつもりが、あの程度で充分にだませるということ!? なんとも意外な結論……!
◆にせ仮面ライダーの場合は?
『仮面ライダー』にもニセモノが登場した。しかも6人も!
劇中の呼び名は「ショッカーライダー」で、こちらのコピーは完璧だった。本郷猛と一文字隼人を仮面ライダーに改造したのはショッカーであり、にせライダーを送ったのはショッカーが発展した組織・ゲルショッカーなのだから、当然といえば当然かもしれない。
ただし、ブーツと手袋とマフラーの色が違っていた。
本郷猛が変身した本物の1号ライダーは、マフラーが赤で、ブーツと手袋が銀。それに対して、最初に現れたにせライダーは、この3点セットがすべて黄色だったのだ。
すぐにでもバレそうだが、立花藤兵衛さえ気がつかない。仮面ライダーと共闘しているアンチショッカー同盟の人々もわからない。
南米から帰ってきた2号ライダー=一文字隼人が「お前、いつからそのマフラーを?」と指摘するまで、誰も気づかなかったのである。
しかし、これは仕方がないような気もする。
わが身を振り返れば、筆者は気づかない自信がある。さっきまで会っていた仕事相手が何色のネクタイを締めていたか、まず覚えていないのだ。
仮面ライダーの場合、マフラーやブーツは着脱可能なのだから、それが変わっていても「まさかニセモノでは!?」とは思わないだろう。
むしろ、マフラー一本にスルドク反応した一文字隼人のほうが、神経が細かすぎるような気も……。
などと、ニセモノを見破ったヒーローにイチャモンをつけている場合ではない。
ここで問題視したいのは、どういうわけでゲルショッカーが、マフラーその他の色をわざわざ変えたのかということだ。
前述したように、にせライダーは6人いた。しかも、ブーツと手袋はそろって黄色だが、マフラーの色は黄、白、緑、青、紫、桃色と、6人みんな違っていた。なぜそんなコーディネートに!?
これ、ショッカーライダーの立場になると、ナットクできる。
もし、にせライダーが仮面ライダーと完璧に同じ外観だったら、困るのは自分たちだ。どれが本物やら見分けがつかず、同士討ちすることになりかねない。
だからといって、6人全員が黄色のマフラーにすると、本物のライダーは2人しかいないことを知っている立花藤兵衛や滝和也に「黄色はニセモノの印ですよ」と教えるようなものである。
つまり、にせライダーが6人いる以上、全員バラバラなデザインにして、彼らを混乱させるしかなかったのだ。
いずれにしても、あらゆるニセモノの失敗は、最後に必ず本物と戦ってしまうことである。
ザラブ星人も、ショッカーライダーたちも、本物のいないところで、せっせと悪事を働くことに集中していれば、本物ヒーローの信用は失墜して、それなりの効果があったと思うのだが……。
今後『シン・ウルトラマン』や『シン・仮面ライダー』にニセモノが出ることがあったら、ぜひとも気をつけていただきたい。