「岸田首相訪韓」で注目される5つのポイント
岸田文雄首相はアフリカ歴訪から帰国して休む間もなく、明後日(5月7日)から1泊2日の日程で韓国を訪問する。
日本国総理としては平昌五輪の開会式出席のため訪韓した故・安倍晋三元総理以来約5年ぶりの訪韓で、「日韓シャトル外交」の一環としては2011年に訪韓した民主党の野田佳彦総理以来、実に12年ぶりの韓国公式訪問となる。
岸田首相は到着したその日の午前中に国立墓地として知られる国立ソウル顕忠院を参拝した後、ソウル市龍山の大統領室を訪れ、尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領と首脳会談を行う。首脳会談は単独会談(極少人数が同席)に続き、随行する閣僚を含めた拡大会合となる。
議題は日本から秋葉剛男国家安全保障局長が事前に訪韓し、韓国側との間で詰めていたが、北朝鮮の核・ミサイルへの対応や日米韓の協調体制など安全保障の問題から先端産業、科学技術、青年・文化協力などが主要議題となる見込みだ。
会談後は尹大統領夫妻が居住する漢南洞の官邸で歓迎夕食会が開かれ、韓国はプルコギなど韓国料理で岸田夫妻をもてなすことにしている。
岸田首相は翌8日にソウル市内のホテルで韓日議員連盟の幹部らとの会談のほか、韓国の6つの経済団体のトップらとのお茶会をこなし、午後に帰国の予定である。
日韓首脳会談は東京で開催されてまだ53日しか経っていない。ソウルでの再会談での注目ポイントを5つ挙げてみる。
1.共同宣言は出されるのか?
韓国側の情報では会談後の記者会見はセットされているが、共同宣言については未知数とのことである。
尹大統領が先月訪米した際にはバイデン大統領との首脳会談後に「ワシントン宣言」(米韓共同宣言)が発表されていたことから日韓の間でも同様の宣言が発表されても不自然ではない。また、韓国内には1998年の「小渕―金大中共同宣言(日韓パートナーシップ宣言)」を踏襲した「第2の共同宣言」を求める声が上がっている。実際に「ソウル経済新聞」(3日付)は「未来志向関係復元のため日本の総理は誠意ある供応措置を示すべき」との見出しの社説で「ソウルで『第2の金大中・小渕宣言』が出れば良い」と書いていたほどだ。
こうしたことから韓国の政府与党内には共同宣言待望論が出ているが、日本が難色を示しているとの情報もあり、不透明である。
2.岸田首相は「反省と謝罪」の言葉を口にするのか?
岸田首相は尹大統領が3月に訪日した際には1998年に発表された「小渕―金大中パートナーシップ宣言」を継承する意向を表明したものの植民地支配に対する日本の反省と謝罪については直接触れることはなかった。
「パートナーシップ宣言」には小渕総理が「今世紀の日韓両国関係を回顧し、我が国が過去の一時期、韓国国民に対して植民地支配により多大な損害と苦痛を与えたという歴史的事実を謙虚に受け止め、これに対して痛切な反省と心からのお詫びを申し上げた」ことが記述されている。
韓国は首脳会談の場もしくは共同記者会見の場で岸田首相が「痛切な謝罪と心からのお詫び」をリピートするかに関心が集まっている。
韓国のメディは岸田首相の訪韓が発表されると一斉に「次は岸田総理が譲歩する番」と、日本に対して前向きな対応を迫っていたが、尹大統領を支持する保守層の間でも支持率の低下の犠牲を払ってまで訪日した尹大統領に報いるためにも、また尹政権の「第3者弁済解決策」に反対している元徴用工らや市民団体らを鎮めるためにも岸田首相が一言言及すべきとの声が上がっている。
3.原発処理水海洋放出容認と水産物輸入再開の土産はあるのか?
大統領室関係者は福島原発処理水の問題について「マスコミと国民が重要視するならばあえて懸案から外す必要はないと思う」と述べ、議題として取り上げる考えを明らかにしていた。
尹大統領は原発には寛大である。実際に政権の座に就くと、文在寅(ムン・ジェイン)前政権の脱原発政策を180度転換させ、原発推進に舵を切っている。従って、福島原発処理水の海洋放出放流にも寛大である。大統領選挙期間中には「福島原発が爆発したのではなく、地震と津波による被害が拡大したわけで原発そのものが崩壊したわけではない」と言い放ったほどである。
その後「日本は周辺諸国に透明性を説明し、同意を得るべき」とか、「国民の生命と安全が第一」との発言を繰り返しているが、基本的には国際原子力機関(IAEA)が海洋放出にお墨付きを与えれば受け入れる考えだ。また先に訪日した際に日韓議員連盟役員らとの会談で「時間がかかっても国民を説得してみせる」と言ったのが事実ならば、先進国首脳会議(G7)への招待の見返りとして容認を確約する可能性も十分に考えられる。韓国の政府与党はこの問題でのブリーフィングでは受け入れ準備の表れなのか、最近は「汚染水」ではなく、「処理水」という表現を使用している。
また尹政権は2013年9月から継続している福島など東北・関東の水産物の輸入解禁も迫られている。実際に日韓議連の額賀福志郎前会長は尹大統領の訪日の際に日本産ホヤの輸入再開を要請していた。日本が半導体素材の輸出規制解除に応じ、韓国を「ホワイト国(優遇対象国)」に再指定する以上、尹大統領は岸田首相にそれなりの土産を手渡さなければならないのかもしれない。
4.大規模デモは起きるのか?
安倍元総理が訪韓した2018年2月はまだレーダー照射事件や元徴用工問題を巡る韓国の日本製品ボイコット運動が起きていなかった。そのため訪韓反対の抗議集会やデモは皆無だった。
今回は民族問題研究所や元慰安婦支援団体の「正義記憶連帯」など610の市民団体から成る「韓日歴史正義平和行動」などが明日(6日)からソウル都心で岸田首相訪韓糾弾蝋燭集会を開催する。
市民団体は「日本は歴史歪曲を止めよ」、「独島(竹島)領有権主張を中断せよ」、「福島放射性汚染水海洋を直ちに中断せよ」等のスローガンを掲げ、首相訪韓の7日にも首脳会談が行われる龍山大統領室前でデモを計画している。
尹政権は厳重警戒態勢を敷き、7日の集会とデモを禁止する方針のようだが、ゲリラ的に発生するかもしれない集会やデモにどれぐらいの人が集まるのかも関心の的だ。韓国民の対日イメージが改善されていることから日本の対韓半導体輸出規制措置があった時のような一般国民を巻き込んだ大規模の「反日」の動きは考えにくい。
5.韓国の野党は岸田首相に会うのか?
岸田首相と韓日議員連盟の幹部との会談が組まれているが、最大野党「共に民主党」の議員が出席するのか、注目される。
日本同様に超党派の韓日議員連盟には幹事長の尹昊重(ユン・ホジュン)議員や常任幹事の金漢正(キム・ハンジョン)議員を始め野党からも5~6人が名を連ねている。
「共に民主党」は尹大統領の訪日にも反対し、岸田首相の訪韓も歓迎していない。民主党の対日屈辱外交対策委員会は4日、国会本庁前の階段で他の革新系野党と共に共同記者会見を開き、尹政権の対日外交を「屈辱外交」と批判していた。「屈辱外交中断」キャンペーンも行っており、13日に予定されている日韓・韓日国会議員親善サッカー大会の参加も見送る方針だ。
岸田首相としては韓日議連との会談の場で野党議員らとも会って、日本側の考えを伝え、理解を得ることで今後の日韓関係を進めていく考えのようだが、李在明(イ・ジェミョン)代表が先頭に立って尹政権の対日外交を「屈辱外交」と批判している現状下では野党議員がボイコットする可能性が高いようだ。