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9月28日マガジンハウス木滑良久さんお別れの会。紙の雑誌が最も輝いた時代の名編集長だった

篠田博之月刊『創』編集長
9月28日マガジンハウス木滑良久さんお別れの会(筆者撮影)

紙の雑誌が最も勢いを持っていた時代

 2023年7月に他界したマガジンハウス木滑良久さんのお別れの会が9月28日に開かれた。1970年代から80年代にかけて『POPEYE』『BRUTUS』などを創刊、88年にはマガジンハウス社長に就任。紙の雑誌が最も勢いを持っていた時代の尊敬すべき名編集長だった。

 私は1982年に独立して月刊『創』の発行を続けることになって以降、先代のマガジンハウス清水達夫社長や木滑さんにはお世話になってきたし、その編集者としての仕事にはずっと敬意を表してきた。

お別れの会会場の展示(筆者撮影)
お別れの会会場の展示(筆者撮影)

 献花のみで挨拶なしとマガジンハウスらしいお別れの会だったが、会場にはOBが大勢集まっていて、久々に挨拶を交わした。木滑さんの右腕として活躍した石川次郎さんや、『POPEYE』の木滑イズムを復活させて部数を押し上げながら劇的な途中退社で業界を驚かせた木下孝浩さんらに久々にお会いした。

石川次郎さん(右)と筆者(関係者撮影)
石川次郎さん(右)と筆者(関係者撮影)

「出版社は町工場じゃなくちゃいけない」

 会場で配布された「木滑さんの言葉」という冊子がなかなかいい。

「最近はやたらマーケティングとかいうけど、人間はそんなものじゃ計れないですよ」

 これは確か創業者の清水元社長の言葉でもあったような気がするが、木滑さんがよく言っていた言葉で、マガジンハウスの原点でもある。

 いやあ、すごい、と思ったのはこの言葉だ。

「出版社は(中略)ほんとうは町工場じゃなくちゃいけないんですよ。大きなビルなんかいらないんだ。机と電話があればできる商売なんですから」

 私などが言うと単なる負け惜しみだが、黄金時代のマガジンハウスを作り上げた編集者が言うと、とても重たい言葉だ。出版の原点とは何かを示している。

 出版界はいま本当に大変な時代を迎えているが、そんな時代だからこそ、改めて原点を考えるべきなのかもしれない。会場には元小学館のマンガ部門を支えた白井勝也さんとか、出版界が勢いを誇った時代の人たちが訪れていた。

大宅文庫「女性誌創刊号展」で『アンアン』創刊号現物を

 マガジンハウスを含めて出版界全体がデジタル化の流れをひた走っているのが現実だから、ノスタルジックに紙の雑誌の良さを強調しても引かれ者の小唄になってしまうのだが、最近ちょっと感動したのが、大宅壮一文庫で開催された「女性誌創刊号展」だ。『アンアン』や『微笑』などの創刊号が、何と紙の雑誌の形で展示されていた。

大宅文庫「女性誌創刊号展」(筆者撮影)
大宅文庫「女性誌創刊号展」(筆者撮影)

『アンアン』創刊号の表紙は、1970年代の新しい時代を切り開いたとしていろいろな場で語り継がれているのだが、紙の原物を見る機会はこれまでなかったから、感動ものだった。

 ちなみにこの「女性誌創刊号展」は「がんばれ雑誌」シリーズのPart1企画だという。好評につき会期を延長していたが、9月末で終了した。大宅文庫は雑誌と一緒に歴史をたどってきた施設だ。

大宅壮一文庫(筆者撮影)
大宅壮一文庫(筆者撮影)

大宅文庫に漂う独特の空気

 大宅文庫といえば、昔は、取材はここへ通うことから始まると言われ、足しげく通ったものだが、最近は利用者がかなり減った。コロナ禍での休館も続いたようで、今回久々に、「ジャニーズ事務所」の過去記事を見るために2回も足を運んだ。今は、過去記事検索はネットで行うのが当たり前だが、紙の雑誌の原物を閲覧できる大宅文庫の雰囲気は独特だ。表紙が破損してビニールの袋に入った雑誌もある。

 しかも、記事の整理や索引の付け方に人間のプロの手が入っているので、検索していると、そのまとめ方や整理の仕方に独特のあじわいを感じる。いやあ、久々に来てよかったと思った。

 昔のように毎日、大勢の人が訪れる状況ではなく、運営も大変だと言われるが、大宅文庫、がんばってほしい。

「雑誌の時代」も今は昔、になりつつあるが、大宅文庫にしろ木滑さん追悼にしろ、この1週間ほど、雑誌の良さを改めて感じた日々だった。

 私の月刊『創』も創刊から50年を過ぎ、私が編集長になってから43年が過ぎた。

書店がどんどんなくなっていくなかで紙の雑誌は今、なかなか大変な時代を迎えている。

※毎月7日発売の月刊『創』ホームページは下記。

http://www.tsukuru.co.jp

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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