アップル、CEOが大きな方向転換を示唆 新たな映像サービスを発表する兆し
かねてから伝えられていた米アップルの映像サブスクリプション(定額制)サービスが、数カ月中にも発表される兆しが出てきた。
クックCEO、「アップルは重要な役割を果たす」
同社は1月29日に、昨年10〜12月の決算を発表したが、その電話会見で、ティム・クック最高経営責任者(CEO)が映像サブスクリプションに言及し、同社がこの市場への参入を計画していることを明かしたのだ。
米国ではここ数年、「コードカッター」と呼ばれるケーブルテレビ契約をやめる人が増えている。ケーブルテレビの月額料金は90ドル(約1万円)ほどで、そのチャンネル数は数百にも上るが、ほとんどの人が普段利用しているのは10チャンネル以下。
そうした中、ネットフリックス(Netflix)やフールー(Hulu)など、月額10ドルほど(約1100円)のインターネット経由映画・テレビ番組配信サービスに移行する人が増えている。
クックCEOは、こうした消費者の変化に言及し、「今年は、変化が加速する。ケーブルテレビの従来型チャンネルパッケージ・モデルが衰退している中、アップルはこの変化に重要な役割を果たす」と述べた。
同社が計画しているとされる映像配信サービスについては、今年初頭にもアップル製機器向けのサービスが始まる可能性があると、CNBCなどの米メディアが伝えていた。
アップルは、2016年に、「iPhone」や「iPad」、映像配信端末「Apple TV」向けのアプリとして「Apple TVアプリ」を公開した(残念ながら日本では未公開)。このアプリ内では、他社の有料映像配信サービスからコンテンツを集めて、表示している。
しかし、利用者がそれらのコンテンツを見ようとすると、他社アプリに移動させられ、それらのアプリで、個別のサブスクリプション契約をするよう促される。
アップルが新たに始めるとされるサービスでは、利用者を他社アプリに移動させるのではなく、Apple TVアプリの中で、サブスクリプション契約ができるようなると見られている。
大きな方向転換、他社製機器でサービス展開
また、クックCEOは今回の電話会見で、この同社のサービスを他社製機器で展開する意向も示唆した。
アップルには、iPhone、iPad、Macで再生中の動画や音声などを、「Apple TV」やAIスピーカー「HomePod」などにストリーミング転送する仕組み「AirPlay」がある。
これを、同社製機器だけでなく、他社の機器でも利用できるようにするのだという。あくまでも自社のサービスは自社のハードウエアでのみ提供する、との基本方針を貫いてきた同社としては、大きな方向転換だ。
なお、韓国サムスン電子は、1月初旬に米ラスベガスで開催された家電・技術見本市「CES」に際し、今春発売するスマートテレビが、アップルの映画・テレビ番組配信サービスに対応すると述べていた。サムスンの新型テレビは、前述した「AirPlay」にも対応するという。
このほか、クックCEOは、米国の大物タレントで、実業家のオプラ・ウィンフリー氏と、オリジナル映像番組の制作に関して契約を結んだことにも触れ、この分野の事業を本格展開することを明らかにした。
サービス事業、四半期売上が100億ドルの大台突破
アップルの昨年10〜12月の決算は、売上高が1年前に比べ4.5%減少。最終利益は同0.5%減少した。売り上げの6割を占める主力の「iPhone」は、14.9%の大幅な落ち込みだった。
一方で、定額制音楽配信「Apple Music」や、映画・ドラマの販売・レンタル「iTunes」、アプリストア「App Store」などを含む、サービス事業の売上高は、過去最高の108億7500万ドル(約1兆2100億円)で、19%増加した(図1)。
- 図1 アップルのサービス事業売上高の推移(インフォグラフィックス出典:ドイツ・スタティスタ)
アップルはこの事業の年間売上高を2020年までに500億ドル(約5兆5600億円)にまで拡大するという目標を立てている。スマートフォン市場に、かつてのような成長が見込めなくなった今、アップルはiPhoneに大きく依存しないビジネスを模索しているようだ。
- (このコラムは「JBpress」2019年1月31日号に掲載された記事をもとに、その後の最新情報を加えて編集したものです)