開催決定からわずか1カ月半。異例づくめの「ジブリの“大じゃない”博覧会」鑑賞のポイント
延期となった大博覧会に替わる新規のイベントとして開催
スタジオジブリの「ジブリの“大じゃない”博覧会」が名古屋の愛知県美術館ギャラリーにて7月22日に開幕しました。
もともと愛知県美術館ではこの夏、「ジブリの大博覧会~ジブリパーク、開園まであと2年。~」が開催される予定でした(6月25日~9月6日)。しかし、コロナショックによって開催延期に。急きょ開催されることになった「ジブリの“大じゃない”博覧会」は、それとは別の新規のイベントという位置づけとなっています。
メインビジュアルは『千と千尋の神隠し』でおなじみ湯婆婆がマスクをつけた顔。「はなれてみるんだよ」とソーシャルディスタンスをうながしているのもウイズコロナ時代ならではです。
写真OKに初出しの展示など見どころ満載
最初の目玉はジブリ最新作『アーヤと魔女』のコーナー。今冬にNHK総合テレビで放送予定の作品の世界を人形で展示。ジブリ初の3DCGによる長編への期待が高まります。
この他にもジブリ作品に登場するキャラクターや場面などの立体模型が目白押し。三鷹の森ジブリ美術館から初めて外へ貸し出しされたネコバスに、トトロのバス停、『天空の城ラピュタ』のヒロイン、シータが空から降りてくるシーン、本当に動く『ハウルの動く城』などなど。これらの展示の大半は写真撮影OKなのも今回の特徴。展示物と一緒に写真を撮り、作品の登場人物になった気分を楽しめるのです。
湯婆婆・銭婆婆のおみくじも楽しい展示です。恋愛運は湯婆婆、開運は銭婆婆のおみくじを引き、鈴木敏夫プロデューサーの書と好きな言葉が書かれたおみくじを持ち帰ることができるのです。
個人的には動画「スタジオジブリ誕生の物語」も楽しめました。鈴木敏夫プロデューサーが語る3分前後の動画を3箇所で見られます。宮崎駿氏との出会いやジブリの名前の意外な秘密など、ファンなら感じ入るエピソードがギュッと凝縮されています。
一番のトピックスというべきは本邦初公開となる「ジブリパークコーナー」。2022年完成予定のジブリパークを、ミニチュア模型や宮崎吾朗プロデューサーのデザインスケッチでひと足先に見ることができるのです。カラフルなスケッチの中に隠れているネコバスなどのキャラクターを探すのも、まだ見ぬパークの世界へ入り込めてワクワクするはず。2年後のパークのオープンがますます待ち遠しくなります。
厳しい条件下で開催が実現した理由とは?
さて、この「ジブリの“大じゃない”博覧会」、様々な点で異例の企画といえます。そもそも展覧会が開催できたこと自体、奇跡的でした。何と準備期間わずか1カ月あまりで開催にこぎつけたのです。
「企画が発案されたのは5月下旬のことでした。7月下旬開催が条件で、この時点から展示完成まで猶予は1か月余りしかなかった。通常、オリジナルの企画展の準備には短くても1年半はかかります」と株式会社ジブリパーク運営本部長の岡村徹也さん。
発案者は大村秀章愛知県知事。「コロナ禍で息づまりを感じておられる方々に明るく元気な話題をお届けするため、ジブリの展示をやってもらえないか」という要望でした。しかし、課せられたハードルは準備期間の短さだけではありませんでした。
「展示物は2mの間隔を空けて観客が密にならないように、というのが条件でした。これまでのジブリの展覧会は圧縮展示ともいうべき密度の濃さが特徴で、それとは真逆の展示方法を一からつくらなければならなかったのです」と岡村さん。
こうしたシビアな条件下でそれでも実現できた理由を、岡村さんはこう語ります。「スタジオジブリが本気で“コロナとも共生できる新しい展覧会をやろう!”と取り組んでくれた。これに尽きます」
「展覧会をはじめスポーツや音楽などありとあらゆる企画が中止、延期に追い込まれ、緊急事態宣言解除後も街はどことなく元気がない。何とか皆さんに笑顔を取り戻してもらいたい。そのためにひと肌脱ごう!そんな心意気が企画を実現させたのです。2年後にジブリパークがオープンする愛知県から元気を届けたい、という思いもあった。愛知県だからこそ実現した企画ともいえます」(岡村さん)
上手に楽しむためのチケット購入のポイントは?
チケットの販売方法や鑑賞法も過去にないものです。入場券の販売はローソンチケットのみ。会場である愛知県美術館ギャラリーでも販売はありません。しかも、30分刻みの日時指定。指定された時間に来場しないと入場券は無効になります。
チケットの購入法や鑑賞のポイントについても岡村さんに尋ねました。
「売れ方は映画館のチケットと似ています。つまり、4~5日前から順次埋まっていく感じです。土日の早い時間帯は人気が高く既にかなり埋まってきていますが、平日ならそれほど急いで購入しなくても大丈夫。特に平日の夕方16時くらいなら空きもあり、また混雑していない可能性も高いのでゆっくり鑑賞しやすいと思います」
展示の出品点数こそある程度絞り込まれている印象ですが、写真撮影OKの展示が多く、また入場制限によって混み合うことなくゆとりをもって鑑賞できるので、むしろ満足感は高いのではないかと思われます。従来の人気展覧会の熱気をともなう混雑ぶりは確かにテンションがあがりますが、鑑賞環境という点ではこれくらいの方が快適です。今回の展覧会の提示する鑑賞スタイルは、ウイズコロナのミュージアムにとってひとつのモデルケースになりそうです。
名古屋でしか見られない今回の「ジブリの“大じゃない”博覧会」。ジブリパークの開園まで待ちきれない、というファンにとっては間違いなく見逃せない展覧会です。
※チケットの販売状況は日々変化するのでご注意ください。
(ジブリパークのデザインスケッチはスタジオジブリ提供。他の写真撮影はすべて筆者)