試合の10日前に「代理」として選ばれた咬ませ犬のKO勝ち
第5ラウンド24秒。ブライアン・メンドーサの狙い澄ました右アッパーが、ジェイソン・ロサリオの顎を捉える。27歳の元WBA/IBFスーパーウエルター級王者は、前のめりにキャンバスに沈んだ。
起き上がりかけたロサリオだが再び崩れ落ち、レフェリーが試合を止めた。
ロサリオは2ラウンドにも2発の左ボディをもらってダウンを喫しており、ダメージが深刻だった。2020年1月18日にジュリアン・ウィリアムズをノックアウトして2冠チャンプとなったロサリオだが、続くWBC王者ジャーメル・チャーロとの統一戦に敗れ、王座から転落。再起を懸けた2021年6月26日のエリクソン・ルービン戦でも6回にストップされ、世界戦線から後退した。
ここ3試合は祖国、ドミニカで安パイな選手との試合を重ねて全てKO勝ち。もう一度浮上する場をSHOWTIMEに与えてもらってのファイトだった。
当初、今回のロサリオの相手は、6戦全勝5KOのキューバン人サウスポー、ヨエルビス・ゴメスとなる筈であった。だが、右の手首を痛めたゴメスが10月25日にキャンセルを発表。
メンドーサは急遽「代役」として指名された男だった。ニューメキシコ州アルバカーキ出身のメンドーサは、ロサリオより一つ年上の28歳。戦績は20勝(14KO)2敗で、タイトルマッチの経験はゼロ。2019年11月以降4戦して2勝2敗と、元2冠王者にとっては、安全な敵としてリストアップされた。
しかし、メンドーサは巡って来たチャンスに己の全てを賭けた。日本でもお馴染み、井岡一翔を指導するイスマエル・サラスの教えを受け「アングル」をテーマに元統一スーパーウエルター級チャンプと対峙した。
勝者は語った。
「ゴメスがケガをして、試合の10日前に僕の名が挙がった。今年の3月26日にリングに上がってから、7カ月間しっかりジムで練習していたから、突然の話でも問題は無かったね。
ロサリオの映像を目に、動きを観察した。彼の頭の動きを把握したり、微調整が必要だったけれど本能に任せたよ」
23勝(17KO)4敗1分けとなったロサリオは言った。
「リングに別れを告げる日が来たようだ。もう、戦いはしない。これで引退するよ。多くのことを成し遂げられたと感じている。
最も大事なのは、今、健康であることさ。応援してくれたドミニカの方々に良い結果を見せられなかったのが哀しいけれど…。長年、支えて下さった皆さんに感謝の意を表したい」
次に繋げたメンドーサと、一つの道を走り切ったロサリオ。彼らの未来が輝かしいものであることを祈りたい。