浦和が「鬼門」を克服して5年ぶりの皇后杯決勝へ。今季を締めくくるラストマッチは29日!
12月22日(日)、NACK5スタジアム大宮で行われた皇后杯準決勝第1戦で、最初に決勝進出を決めたのは浦和レッズレディースだ。今季リーグ戦で2位と躍進を遂げ、勢いを見せる強豪が、昨年の皇后杯準で準優勝のINAC神戸レオネッサを3-2で下し、2014年以来5年ぶりの決勝進出を果たした。
今季、浦和にとってINAC戦は4連敗と相性の悪い相手だった。カップ戦はアウェーで0-1、ホームで0-2で敗れ、リーグ戦は5月のホームで0-1で敗れた。そして10月にカシマスタジアム(茨城県)で行われたアウェーの試合は、1-2で逆転負け。今季、リーグ戦では日テレ・ベレーザとともに優勝争いをリードした浦和が、唯一勝てなかったのがINACだった。
森栄次監督体制1年目で、浦和のサッカーは華麗なポゼッションスタイルへと転身を遂げた。その中でリーグ最少失点の堅守を築き、得点力も昨年から1.7倍増となったが、同じく堅守のINACに対してはゴールが奪えず、攻守の切り替えで後手に回ることも少なからずあった。
また、浦和は今季公式戦30試合を戦っているが、そのうち先制した20試合の成績は16勝1分3敗で、勝率は8割と高い。一方、先制された9試合の勝率は3割強と一気に下がる。先制されると苦しくなる傾向が見られた。
この試合で、浦和はその2つの問題を克服している。
「INACに対してこれまで苦手意識があるように思えたが、勝因は何だと思うか」と試合後に聞かれた森監督は、こう答えている。
「(INACと)競(せ)れるところまではきていると思っていました。最後のところでやられてしまったり、ゴールを決めきれなかったところがありましたが、どこかで勝てるんじゃないかなと。今日のような大きな大会でそれができたことは非常に嬉しいです」
今季、INACに負けた試合でも、森監督の言葉に悲壮感は感じられなかった。それは、自分たちの強みを確立させるために必要な過程として、敗戦を受け入れようとしていたからだろう。
この試合では先制されても焦らず、最終ラインからしっかり繋いで多くのチャンスを作っている。
「1年間を通してどのポジションだろうと、自陣だろうと相手コートだろうと、変えずに(繋ぐことを)やっていこう、と伝えてきました。それが勝負に結びついているのは選手同士の信頼関係だと思いますし、(チームの)成長だと思います」(森監督)
こうした積み重ねが、2回のをリードを許しながら粘り強く3点を奪い返した強さに繋がったのだろう。
浦和の先発メンバーは、GK池田咲紀子、4バックは右からDF清家貴子、DF長船加奈、DF南萌華、DF佐々木繭。中盤は右からMF安藤梢、MF柴田華絵、MF栗島朱里、MF水谷有希。トップにFW菅澤優衣香が立ち、FW塩越柚歩がセカンドトップに入る4-4-2でスタート。
試合は前半2分、INACのMF杉田妃和のクロスからMF中島依美に決められ、開始早々の失点で幕を開けた。だが、この失点を、右サイドバックの清家はこう捉えていたという。
「最初の失点が早すぎて、しゅんと(気落ち)するまでもないというか、チームとして『やっちゃったな』と軽い感じで試合に入れたのが逆に良かった気がします。最初に失点した時に、自分としてはこの(逆転勝利の)絵が見えていたし、シナリオができたなと思っていました」
9分には、その清家がペナルティエリア手前からループシュートを狙い、バーに弾かれたこぼれ球に詰めていた菅澤が頭で押し込んで1-1。
その後は、中盤で柴田、栗島、水谷を中心に絶妙の距離感で攻守を切り替え、主導権を握った浦和の時間帯が続いたが、後半、55分にカウンターからFW増矢理花に決められて再びリードを許す。
だが、61分にはゴール前の混戦から、浮き球のボールを清家が頭で押し込んですぐさま追いついた。
そして77分。左コーナーキックを得て、塩越のキックに中央から飛び込んだ南が頭で決めて逆転すると、NACK5スタジアム大宮に詰めかけたサポーターの熱狂がスタジアムを包んだ。
【試合を決めた「高さ」と2人のキープレーヤー】
終わってみれば、3つのゴールはすべてヘディングで決めた形だ。丁寧につなぐ攻撃をベースとしながら、最終局面では菅澤(168cm)、清家(166cm)、南(171cm)、と、3人の高さを生かした。セットプレーでは、他にも長船(170cm)や、交代で投入されたFW高橋はな(168cm)、DF長嶋玲奈(168cm)もターゲットになれる。この「高さ」が、浦和の攻撃にバリエーションを与えている。
「練習の紅白戦でも、背が高い仲間でやり合っていますし、セットプレーは自分たちの強みだとわかっていますが、今日はその強さが生きましたね。次は流れの中でも点を取れるようにしたいです」(菅澤)
流れの中では、2ゴールに絡んだ清家の攻撃力が、試合の流れを浦和に引き寄せる大きな要素だった。
森監督の下でFWから右サイドバックにコンバートされて1年目の今年、リーグ戦全18試合に先発し、ほとんどの試合にフル出場して、浦和のリーグ2位に大きく貢献した。
「今日は特に、攻撃の部分で自分の良さが出せるシーンが多くありました。その分、味方が守備でカバーしてくれていたので、自分は前に前にということを意識しました」(清家)
一方、トップ下で攻撃の起点となっていたのが塩越だ。
立ち上がりから、「チームの勢いと、自分自身のボールフィーリングがいいなと感じていました」というように、持ち前のドリブルやスピードを生かした突破でアクセントになり、50分にヒールパスで清家のミドルをお膳立てした。76分の攻撃では、栗島のパスに抜け出してゴールに迫り、決勝点につながるコーナーを獲得。
「練習でもセットプレーはよく(点が)入っているんです。中に背が高い選手がたくさんいるので、決めてくれて本当に良かったです」と、南の決勝弾を振り返った。
スピードとテクニックを兼ね備えた塩越は、FW、両サイドハーフ、ボランチ、サイドバックと、あらゆるポジションでプレーしてきたユーティリティプレーヤーだ。166cmと長身で姿勢が良く、スピードに乗ったドリブルは見応えがある。
左膝半月板損傷のケガもあり、今年8月末のリーグ戦で1年ぶりの復帰を果たしてから、出場機会を少しずつ増やしてきた。そして、この試合では交代に伴って、トップから右サイドハーフ、左サイドハーフと、3つのポジションでプレーしながら90分間、持ち味の攻撃力を発揮した。
「森さんのサッカーが自分にフィットしていると感じています。リーグ前半戦は出られなくて悔しい思いをしてきた分、皇后杯でぶつけようと思っていました。練習でもよくポジションが代わったり、みんなが流動的に動くサッカーなので、ポジションに囚われずに、右も左も変わらずプレーできました。試合終了までピッチにいられたのは自信になります」
決勝戦でも、浦和の攻撃に彩りを加えるキープレーヤーの一人になるだろう。
【決勝の相手は女王・ベレーザ】
浦和は10月の台風19号による被害を受けて、練習場のレッズランドが冠水したため、活動場所が定まらないなかで練習を続けてきた(レッズランドは今も復旧作業が続いているという)。困難を乗り越える中で得てきたことも、強さに繋がっているのだろう。
決勝戦の相手は、なでしこリーグ5連覇、今季3冠を獲得している女王、日テレ・ベレーザ。森監督にとっては2015年から17年までリーグ3連覇を果たした古巣でもある。今季の対戦成績は1勝2敗。リーグ戦は1勝1敗で、3試合とも4ゴール以上が入る打ち合いとなった。
浦和にとって、悲願の初優勝がかかる今回の頂上決戦は、これまでとはまた違った緊張感に包まれそうだ。
今季を締めくくるラストマッチは、どんなフィナーレを迎えるのか。ハイレベルな攻防を期待している。
皇后杯決勝は、12月29日(日)、14時からNACK5スタジアム大宮で、浦和レッズレディースと日テレ・ベレーザが頂点を競う。試合はNHK-BS1で生中継される。