Yahoo!ニュース

音楽配信は成長続くが音楽ソフトは縮小継続…音楽CD・音楽配信の売上動向をさぐる(2021年公開版)

不破雷蔵グラフ化・さぐる ジャーナブロガー 検証・解説者/FP  
↑ 音楽への人の関心は変わらぬものの、対価総額は漸減の動き。(写真:Paylessimages/イメージマート)

音楽ソフト・音楽配信の売上推移

日本国内では音楽として定義づけられた娯楽に対価を支払う動きは、環境の移り変わりに伴い次第に縮小する方向にある。日本レコード協会が2021年3月に発表した白書「日本のレコード産業2021」を基に、その実情を確認していく。

まずは「音楽配信」(モバイル、そしてインターネットダウンロード(パソコン配信とスマートフォン双方)、さらにはストリーミング)の2020年分における結果。金額としては782億5500万円、前年比でプラス10.9%を示した。従来型携帯電話(フィーチャーフォン)による着うたなどの売上を意味する「モバイル」は急速に減少を続け、インターネットダウンロード(iTunesなどのスマートフォン系含む)も減少しているが、ストリーミング(定額制方式に対する使用権の販売など。以前はサブスクリプションと表記していたものと広告収入を合わせたもの)が大幅上昇を遂げ、今回年も音楽配信の全体額を押し上げる形となった(ストリーミング単体ならば前年比でプラス26.6%)。

↑ 音楽ソフト・音楽配信の売上(億円)
↑ 音楽ソフト・音楽配信の売上(億円)

2007年までは「音楽ソフトの売上減を音楽配信がカバーし、全体の売上は増加していた」、つまり「音楽業界は売上では成長を続けており、CDなどの音楽ソフトの売上減は音楽配信にそのシェアを食われている」と解説できた。ところが2008年に至り、音楽配信の成長は続いているものの、それ以上に音楽ソフトの売上減が急速に進み、市場全体の売上も落ち込む結果となってしまった。そして2010年以降はモバイル端末市場の変化、具体的には従来型携帯電話からスマートフォンへのトレンドの移り変わりに伴う、利用者の有料音楽との付き合い方の激変によって、音楽配信も急速に縮小してしまう。

他方2014年以降は上記で説明したようにストリーミングの大幅増加により、従来型携帯電話向けを意味するモバイル部門の減少分を補完しきることができ、音楽配信は拡大を示すことができた。

直近となる2020年は音楽配信は成長を続けているものの、音楽ソフトは新型コロナウイルス流行という特殊事情もあり、規模を縮小。結果として音楽ソフト全体の売上は減少、アナログ・デジタルを合わせた音楽全体の売上は2年連続の前年比で減少に。音楽配信の売上がカウントされ音楽ソフトとの合算値を計算できるようになった2005年以降では、最低額を更新する形となる。

売上動向を長期視点で

音楽業界の動向を一歩引いた立場から眺められるのが次の図。上記のグラフを1990年までさかのぼって再構築したもの(音楽配信はデータ上に登場した2005年以降のみ)、さらに音楽配信と音楽ソフトの売上合計における両者の比率推移をグラフ化した。

↑ 音楽ソフト・有料音楽配信の売上(億円)(1990年以降)
↑ 音楽ソフト・有料音楽配信の売上(億円)(1990年以降)

↑ 音楽ソフト・音楽配信の総計売上に対する比率
↑ 音楽ソフト・音楽配信の総計売上に対する比率

音楽配信のデータは2005年からの調査・公開であることから、それまでは音楽ソフトのみのグラフとなるが、2004年以前は音楽配信そのものがごく少数だったことを考えると、グラフ形成上大きな問題はない。1990年代後半に音楽業界はピークを迎えており、それ以降は売上の面で漸減する傾向である実情が確認できる。

2009~2010年ではすでに1/4近くがソフト部門において音楽配信で占められていた。ところがそれ以降は「従来型携帯電話からスマートフォンへの利用移行に伴う、音楽聴取者の音楽配信との付き合い方の変化」、そして某ユニット・グループによる手法で知られる特殊な販売スタイルに代表される「シングルCDの販促方法の多様化に伴う盛り返し」などがあり、少なくとも売上の面ではトレンドの変化が確認できる。そして2013年以降は音楽ソフト分野におけるそのドーピング効果も薄れ、音楽配信分野ではサブスクリプション(現状では広告収入と合わせてストリーミングと表現を変えている)という新たな音楽提供のスタイルの伸長により、再びシェアは音楽配信の増加の形で変化を見せつつある。早ければ2021年にも3割を超えることになるだろう。

金額こそまだ音楽ソフトと比べれば少額ではあるが、今後の動向では注目すべきなのが音楽配信部門。同部門ではスマートフォンの台頭、急速な普及に伴い、大きな転換点を迎えている。曲の管理の簡易化と収録容量の増加、無料曲の増加、市場単価の下落、定額制サービスの普及など、多彩な売上圧縮理由により、従量制的な従来の音楽市場が縮小を続けている。昨今のストリーミングによる売上増は、見方を変えればアラカルト方式(1曲ごとの販売方式)の低迷に直結することになるため、諸手を挙げられる状況とは言い難い。あるいは音楽の利用スタイルそのものに大きな変化が生じている、生じさせた可能性は否定できない。

今後さらにスマートフォンの普及率が高まり、多様なサービスが広まり、音楽への接触の様式が変わるに連れ、有料・無料楽曲間のバランス、聴取者の利用スタイルはどのような変化を見せていくのか。多分に拡大を続けているであろう無料音楽市場、さらには定額制の取得サービスの動向も併せ、注視し続けたい。

■関連記事:

【注目楽曲を数字化…CDやインターネット配信の「ミリオン認定」などの実情をさぐる(2019年公開版)】

【静かに、確実に浸透するスマホ達…家の中と外、何を使って音楽を聴く?(2014年)(最新)】

(注)本文中のグラフや図表は特記事項の無い限り、記述されている資料からの引用、または資料を基に筆者が作成したものです。

(注)本文中の写真は特記事項の無い限り、本文で記述されている資料を基に筆者が作成の上で撮影したもの、あるいは筆者が取材で撮影したものです。

(注)記事題名、本文、グラフ中などで使われている数字は、その場において最適と思われる表示となるよう、小数点以下任意の桁を四捨五入した上で表記している場合があります。そのため、表示上の数字の合計値が完全には一致しないことがあります。

(注)グラフの体裁を整える、数字の動きを見やすくするためにグラフの軸の端の値をゼロで無いプラスの値にした場合、注意をうながすためにその値を丸などで囲む場合があります。

(注)グラフ中では体裁を整えるために項目などの表記(送り仮名など)を一部省略、変更している場合があります。

(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。

(注)「(大)震災」は特記や詳細表記の無い限り、東日本大震災を意味します。

(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。

グラフ化・さぐる ジャーナブロガー 検証・解説者/FP  

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

不破雷蔵の最近の記事