【JNS】過去の清算と哀悼を滲ませた「バイ・バイ・ブラックバード」
ジャズ・スタンダードと呼ばれる名曲を取り上げて、曲の成り立ちや聴きどころなどを解説するJNS(Jazz Navi Standard編)。今回は「バイ・バイ・ブラックバード」。
「バイ・バイ・ブラックバード」は1926年にジーン・オースティンのレコーディングのために作られた曲。
ジーン・オースティンは1920〜30年代に活躍した男性ヴォーカリストで、「私の青空」を大ヒットさせたことで知られる。「私の青空」のヒットは日本にも波及し、二村定一やエノケンこと榎本健一が歌ってヒットした。
「バイ・バイ・ブラックバード」の作詞はモート・ディクソン、作曲はレイ・ヘンダーソン。両者ともニューヨークの音楽シーンで活躍した売れっ子作家だ。
詞の内容は、それまでの不幸な生活に別れを告げて明るい未来へ一歩を踏み出そうというもので、ブラックバード=黒い鳥を“別れを告げるべき不幸せな生活”の比喩に使っている。後半に幸せの象徴である青い鳥も登場しているので、対比させる意図があったようだ。
また、黒い鳥は“奴隷”を意味する例もあり、そこから“故郷を捨てて都会へ出たもののうらぶれてしまった女性の転機(あるいは夢)”を表現しようとしたという解釈もある。
ジャズで注目されるようになったきっかけは、マイルス・デイヴィスの『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』(1955年)への収録。
実はこの1955年という年は、ビバップの象徴的存在だったチャーリー・パーカーが死去し、ジャズ・シーンには大きな喪失感が漂っていた。マイルスは、自分をジャズのトップに導いてくれたチャーリー・パーカーへの追悼の意をこの曲に託し、それをジャズ・シーンが暗黙のうちに認めたことから、この曲が特別な意味をもつようになったという説があり、興味深い。
ちなみに、そのマイルス・デイヴィスが死去した1991年には、“マイルス・スクール出身”のキース・ジャレットがこの曲を含むその名もズバリ『バイ・バイ・ブラックバード』というアルバムを制作している。キース・ジャレットが、マイルス・デイヴィスのトリビュート・アルバムにこのタイトルを選んだ背景に、パーカーへの追悼を込めたマイルスの『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』収録ヴァージョンのイメージがあったことは想像に難くない。
♪Miles Davis- Bye Bye Blackbird
マイルス・デイヴィスはミュート(弱音器)を使用してテーマから長いアドリブまでたっぷりとメロディアスに演奏。その後を受けたジョン・コルトレーンが短いフレーズの積み重ねでチャーリー・パーカーを彷彿とさせるーーと感じるのはジャズ・ファンならではの妄想かもしれないが、そんな伝説を生むに足る名演であることだけは確かだろう。
♪Keith Jarrett Trio- Bye Bye Blackbird
キース・ジャレットの1993年のライヴ映像。スタンダードを演奏するから“スタンダーズ”なのだけれど、スタンダードに聴こえないほどインプロヴァイズしてしまうというのがこのトリオの特徴。なのにかなりメロディに忠実であるところもまた、この曲に込められた“追悼”を意識しているのではないかと妄想してしまうのだが……。
♪Julie London- Bye Bye Blackbird
ジュリー・ロンドン、1964年に来日したさいのテレビ収録の映像。まさに悩殺!
まとめ
歌のヴァージョンでは、“昨日までの不幸なワタシにサヨウナラ”というニュアンスを伝える、前向きなんだけどどことなく影のあるキャラクターを表現しなければならない、ハードル高めの曲といった印象だろうか。
それに対してインスト(演奏のみ)では、マイルス以降にトリビュート曲としてのイメージが追加されたおかげで、軽快な長調ながら“ジャズの歴史の継承”といったニュアンスも漂わせることができる、二面性を備えた複雑な曲に格上げされたと言えるかもしれない。
See you next time !