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豪雨原因 線状降水帯に疑問

片山由紀子気象予報士/ウェザーマップ所属
関東や東北には長さ約1000キロの帯状の雲域がかかる(9月10日3時)

どこか、腑に落ちない

大規模な気象災害が発生した後は、気象予報士にできることは限られます。むしろ、なぜこのような大雨が降ってしまったか、雨の予想は適切だったのか、といったこれまでの経過を振り返り、反省すべき点を見つけ、次回に活かすことを思います。

前回のコラムでは特異な気象状況だったと振り返りました。雨雲が長時間にわたって停滞し続けたことで、大量の雨が降り、大規模な水害に至ったのです。

ひとつ気になったのは、原因を考えるうえで「線状降水帯」という言葉を多く聞きました。でも、この線状降水帯という言葉が腑に落ちないのです。

スケールが違う

雨を降らせる雲は大きさがさまざまです。小さいものは幅数キロ、大きいものは幅数100キロを超えるものまであります。気象では大きさ(スケール)をそろえて考えることが重要で、スケールの大きい現象は雨雲の寿命が長く、小さい現象は寿命が短いという特徴があります。

今回の記録的豪雨では複数の県に広がり、数日にわたって雨が降り続きました。雨雲のスケールが大きい現象ととらえるべきでしょう。

実は「線状降水帯」は昨年の広島豪雨の原因としても取り上げられました。広島豪雨は市町村程度の広がりで、数時間で起こった現象でした。スケールが違う2つの豪雨を同じように考えることに疑問を持ちます。

帯状の降雨域

そうならば、今回の記録的豪雨をどう考えるべきなのでしょう。

可能性が高いと思っているのは雨雲全体をスケールの大きい現象としてとらえ、拡大すると、線状の雨雲が複数まとまって存在していたという階層構造です。

これに当てはまる言葉が思いつかないのですが、「降水バンド(rain bands)」や「帯状の降雨域(band structure of precipitation distribution)」でしょうか。これでは違いが分かりませんね。

気象のスケールには重なりあった部分も多く、さまざまな見方があると思います。結局、私の知見では表面的な見方に終始してしまいますが、考える過程を今後の糧にしたいと思います。

【参考資料】

加藤輝之,2015:線状降水帯発生要因としての鉛直シアーと上空の湿度について,平成26年度量的予報研修テキスト,気象庁予報部,114-132.

吉野正敏・浅井冨男・河村武・設楽寛・新田尚・前島郁雄,1986:「帯状エコー」,気候学・気象学辞典,二宮書店,318.

気象予報士/ウェザーマップ所属

民放キー局で、異常気象の解説から天気予報の原稿まで幅広く天気情報を担当する。一日一日、天気の出来事を書き留めた天気ノートは128冊になる。365日の天気の足あとから見えるもの、日常の天気から世界の気象情報まで、天気を知って、活用する楽しみを伝えたい。著作に『わたしたちも受験生だった 気象予報士この仕事で生きていく』(遊タイム出版/共著)など。

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