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水崎綾女が語る引退と再生

中西正男芸能記者

 映画「ユダ」「進撃の巨人」など次々と話題作で存在感を見せてきた女優・水崎綾女さん(30)。お笑いコンビ「ガレッジセール」のゴリさんこと照屋年之監督の映画「洗骨」(全国順次公開中)ではヒロインを演じています。精神的に落ち込み「死ぬか生きるか」というレベルまで悩んだ水崎さんを救ったのがゴリさんでした。そこに至るまでの苦悩の日々を、赤裸々に、ストレートな言葉で語りました。

疲れきった

 「洗骨」の撮影があったのは1年半ほど前でした。実は、この作品の前に、仕事を辞めようと思う時期がありまして…。

 とにかく疲れきってしまって。もういいかなと。寝込むというか、体調も崩してしまいまして。そんな中、たまたま「にじいろジーン」(関西・フジテレビ系)でゴリさんとお話しする機会があったんです。

 お忙しい中、すごくしっかりと話を聞いていただきまして。そして「つらかったんだね…」と言って、ご自分の話もしてくださったんです。

 ゴリさんも、デビュー当時に人間関係ですごく嫌な時期があって、この仕事は向いていないと思った時期があったと。その時に相方の川田さんが言ってくれたそうなんです。

 「『本当にイヤだったらオレもあきらめて沖縄に帰るから、それまで頑張ろう』と。その言葉があったから、気持ちがすごく楽になったし、そこから20年以上やってきた」

 私も、その言葉で視野が広がったというか…。私にも、そんな存在が出てきてくれるかもしれない。だから、もう少し頑張ってみようと思ったんです。

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最後になってもいい

 ただ、簡単に全てが変わるわけでもないし、しんどい状況は続いていました。なので、お仕事の話をいただいても、自分の心と体が万全ではないことは私自身が一番知っていますから、本当に恐縮ながら、お断りをしていたんです。

 例えば、主演だとか、いくら良いお話をいただいても、自分が頑張れないと結局他の方々に迷惑をかけてしまう。それが良いお話、ありがたいお話であればあるほど、迷惑をかけてはいけない。その考えから、新しいお仕事の話は全部お断りしていたんです。

 そんな中、マネージャーさんから「沖縄を舞台にした作品の話が…」という電話がありました。ただ、正直な話、いつものように「お受けしたら迷惑もかかるし」ということしかなかったので、返事をしながらも、あまり話が頭に入っていない状態でした。ただ、その中で聞こえてきたマネージャーさんの言葉にハッとしました。

 「監督はゴリさんです」

 その瞬間「やります」と言っていました。知らない間に涙も出てきて「やらせてください」と続けました。

 あの時、話を聞いて、励ましてくださった。その恩返しなんて言ったらおこがましいですけど、この作品が最後になってもいいから、とにかくやりきろう。そんな思いがこみ上げてきて、すぐにお受けしました。

SNSの意味

 撮影で沖縄に入ると、自分でも驚いたんです。何年も溜まっていた疲れが解き放たれたというか、心も体も軽くなったというか…。もちろん沖縄の気候も暖かいんですけど、とにかく監督を始め、スタッフさんもみんな温かい。普段は見ることもない自然と、優しい人たちに囲まれた時間を過ごすうちに、少しずつ自分がほぐれていく感じがしました。

 新たな仕事はお受けしていなかった時期でも、ガッチリと休んでいたわけではなかったんです。レギュラーのお仕事はさせてもらっていましたし、お仕事がないから向いていないということではなく、人間関係で疲れたというか。

 私はすごく正義感が強いんだなと思いました。曲げられないし、おべっかが使えない。自分の中で、死ぬか生きるかくらいの感じにもなりました。大げさな言葉になりますけど、本当にそんな感じでした(笑)。

 今だから笑って話せますけど、その時は、ちょっとしたことでもダメージになるというか。北海道の新雪みたいな感じで、フワフワの雪で、ほんの少し衝撃が加わってもそこがへこむ。そんな心の状態になっていました。

 ただ、その中でもSNSの更新はちゃんとしていたんです。というのは、皆さんに向けて発信するのもありますけど、むしろ、自分自身に発信していました。SNSをやっていることで“私は水崎綾女なんだからね”と自分に言い聞かせているというか…。SNSすら辞めてしまうと、もう、水崎綾女ではいられなくなる。そんな思いでした。

 心がそんな感じだったのが1年くらい。そんな時期のゴリさんからの言葉。そして、この作品。なので、より染みわたったんだと思います。

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頑張らないと気が済まない

 今から思うと、しんどくなった原因は“頑張ってしまうところ”にあったんだと思います。頑張らない自分が嫌いというか、ずっと頑張ってないと気が済まない。15歳で仕事を始めてから、ずっとそうだった気がします。

 15歳でホリプロスカウトキャラバンをきっかけに芸能界に入って、最初に考えたのは「自分の賞味期限は1年」ということでした。毎年スカウトキャラバンで新しい人が入ってくる。となると、ビジネス的に考えたら自分は1年しか押されない。もちろん1年が過ぎたら何もされないわけではないんですけど、まず1年を頑張らないと2年目がない。それを頑張らないと3年目がない。その思いも常にありました。

 どれだけ疲れていても集まりには呼ばれたら顔を出すし、行ったら求められるような明るい振る舞いをする。休みの日でも、細かく予定を立てないと気が済まない。細かいことですけど、家に帰っても、とにかくまずソファに座るということができない。家の中のあらゆる片づけをきちんとしてからじゃないと、座れない。

 それと、やっている役と自分が真逆すぎたというのもあると思います。グラビアもやってきたし、ヌードもあったし、セクシーでお色気バンバンみたいな感じですけど、本当は全然違う。でも、やらないといけない。食い違う2つの穴埋め作業みたいなところに疲れたのかもしれませんね。

第二章

 ただ、そんな全てを経て「洗骨」が芸能生活第二章の始まりだと感じています。色的に言うと、これまでの第一章は原色系。ハッキリとした原色。第二章は透明感のあるパステルカラーという感じがしています。完全に私のイメージだけですけど(笑)。

 今から思うと、原色の時代にももちろん意味はあったと思います。若かったからこそ頑張れたところもありますし、日々の積み重ねが今を作っているんだと感じています。

 最近、新しい趣味もできました。キャンプです!以前は、どちらかというと、嫌いだったんです。虫が多いイメージだし、何をするにしても大変だし(笑)。ただ、やってみると、断食じゃないですけど、時々、キャンプを生活に入れることによって、日々を見つめなおすことができるんだなと。

 自然の中で泊まって、薪を割って、火をおこして、夜になったら寝て、太陽が出てきたら起きる。本来、人間がしてきた生活をすることで、日々のありがたみをより一層感じるし、自然の中にいる時間も純粋に楽しい。以前とは感覚が完全に変わりましたね。

 第一章が足し算としたら、第二章は引き算なのかなと思っています。別に、変にうまいことまとめようということではないんですけど(笑)、本当にそう強く感じています。

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(撮影・中西正男)

■水崎綾女(みさき・あやめ)

1989年4月26日生まれ。兵庫県出身。2004年、第29回ホリプロタレントスカウトキャラバンでヤングサンデー賞を受賞しデビュー。06年、テレビ朝日系のドラマ「吉祥天女」で女優としてのキャリアをスタートさせ、映画「ユダ」「進撃の巨人」などに出演する。17年には映画「光」でヒロイン役に選ばれ、第70回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に参加。映画「洗骨」(全国順次公開中)はお笑いコンビ「ガレッジセール」のゴリとして活動する照屋年之監督の作品。16年に製作した自身の短編を奥田瑛二や筒井道隆らを迎えて長編映画化した。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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