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小学1年生でもプログラミングが学べるゲームが人気 プロの開発者も高評価

鴫原盛之ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表
「ナビつき! つくってわかる はじめてゲームプログラミング」の画面(※筆者撮影)

6月11日に任天堂が発売したNintendo Switch用ソフト「ナビつき! つくってわかる はじめてゲームプログラミング」が人気を集めている。

本作は、ノード(※プログラムやネットワークを構成する一要素のこと)をキャラクター化した「ノードン」同士を線で結んだり、「ノードン」のサイズやスピードなどを設定することでゲームが自作できる、ゲームプログラミング学習ソフト。あらかじめ用意された7種類のゲームを作りながらプログラミングを学ぶ「ナビつきレッスン」と、プレイヤーが自由にゲームを作って遊べる「フリープログラミング」の2種類のモードがある。

先週発表された「ファミ通」および「ゲオ」の週間ソフト販売数ランキングを見ると、「あつまれ どうぶつの森」や「リングフィット アドベンチャー」ほどの爆発的な売れ行きではないものの、いずれも本作が第1位を獲得している。

楽しく、簡単にゲーム開発の成功体験が得られる見事な構成

早速、筆者も「ナビつきレッスン」モードで遊んでみたところ、びっくりするほど簡単にゲームを完成させることができた。

その理由は、最初から最後までナビゲーター役のキャラクターが「もうこれ以上、優しく教える方法は無いのでは?」と言えるほど、懇切丁寧に作り方を教えてくれたからだ。

いつ、どんな場面でも必ず「このキャラクターは、こんな仕組みで動いています」とか「ここをタッチしてください」などと平易な文章で解説が表示され、しかも命令文などの文字入力は一切不要でタッチ、スワイプなどの簡単な操作だけで作れるので、プレイ中に困ることがまったくない。

プログラミングの仕組みから操作方法まで、手取り足取りナビ役のキャラや「ノードン」たちが教えてくれる(※筆者撮影。以下同)
プログラミングの仕組みから操作方法まで、手取り足取りナビ役のキャラや「ノードン」たちが教えてくれる(※筆者撮影。以下同)

さらに「ナビつきレッスン」モードでは、レッスンをクリアするごとにチェックポイントが出現し、直前に学習した内容をきちんと理解できたのかを復習できるようにもなっていて、まさに至れり尽くせリだ。

プログラミングの予備知識がゼロでも遊べる本作は、「ひょっとしたら、これなら小学生でもゲームが作れてしまうのでは?」と思ったら案の定、任天堂の公式サイトでは本作の開発者が以下のように証言していた。

「プログラミングに興味がある小学生のみなさんに開発段階のものをやってもらいました。(中略)『ナビつきレッスン』は小学1年生でも楽しみながらゲームを完成させられる、というものなので」

(任天堂公式サイト:「開発者に訊きました:ナビつき! つくってわかる はじめてゲームプログラミング」より)

それにしても、小学1年生でも遊べるように調整していたとは……まったくもって驚かされるばかりだ。

プログラミング学習ソフトやツール自体は、けっして新しいものではなく、昭和の時代からいくつも登場している。現在でもNintendo Switch用ソフト「プチコン4 SmileBASIC」のほか、「Scratch(スクラッチ)」をはじめとするビジュアルプログラミング言語、あるいは「ぷよぷよプログラミング」などの無料で使えるプログラミング学習ソフトがいくつも発売または公開され、手軽に利用できる環境が整っている。

これらのソフトやツールでプログラミングを学ぶためには、すでにプログラミングをマスターしている先生の存在が欠かせないが、本作はすこぶる丁寧に教えてくれるキャラクターたちがいるおかげで1人でも学べる、しかもゲーム感覚で遊びながら学べるところに大きな価値があると言えるだろう。

「ナビつきレッスン」モードでは指示に従って操作するだけで、いつの間にかゲームが完成してしまう(※写真のゲームは「2人対戦! おにごっこバトル」)
「ナビつきレッスン」モードでは指示に従って操作するだけで、いつの間にかゲームが完成してしまう(※写真のゲームは「2人対戦! おにごっこバトル」)

プロのゲーム開発者からも高評価

本作は、ゲーム業界で長年にわたり活躍する、プロの開発者間での評判も非常に良い印象を受ける。

筆者が取材したところ、とりわけ海千山千のプロたちが異口同音に高く評価したのは、プレイヤーがレッスンを簡単にクリアできるよう配慮したり、ゲームを完成させたときの褒め方、すなわち「達成感」の演出だ。

元ハドソンのベテランプログラマー、岩崎啓眞氏によると「特に良くできているところは『達成感』です。今までに私が触ったなかで、最もゲームっぽい『達成感』があったのはiOSのプログラミング学習環境『Swift Playgrounds』でしたが、それよりもスゴいですね」とのこと。

同じく、元大手メーカーのベテランゲームデザイナーも「とりわけゲームのように、楽しそうに見える物のモノ作りは、最初から楽しくないと、それなりの形になるまでにやることが多過ぎて挫折しやすいんです。本作のように、触るとすぐに結果が出せて、しかもキーボードすら使わずに遊べるというのは、とても良いアプローチです」と評価する。

また、某大手メーカーの元開発プロデューサーも、やはり子供が楽しみながらゲームが作れる点を評価ポイントに挙げた。

「楽しみながら少しずつ理解して、できることが増えていくだけでなく、途中で身に付けたことを振り返るシーケンスがあり、擬人化された機能群(※筆者注:前述の「ノードン」のこと)という味付けも秀逸で、とてもうまく作られています。

 コアターゲットが子供であることを前提で言えば、Nintendo Switchというデバイスであること、タッチ操作で手軽に直感的に操作できること、そして何より『ゲームを作る』というテーマ設定そのものが、子供にとっては非常に良い動機付けになっていますね」

ゲームを完成させると、プレイヤーを「プログラマー」と呼び「マスターアップ!」と称えてくれる演出は実に快感だ
ゲームを完成させると、プレイヤーを「プログラマー」と呼び「マスターアップ!」と称えてくれる演出は実に快感だ

ただ一方では、プロの開発者目線で見るとプログラミングの基礎知識や考え方が本作だけで学べるのかと言えば、その答えはむしろ「いいえ」に近いとの指摘もあった。

岩崎氏によれば「さまざまなオブジェクトがノードによって結合し、通信して同時的に動くという、どちらかと言えば並列プログラミングに近く、オブジェクトのカプセル度合いと隠ぺい度の粒度に差があります。ですから、本作の内容は『極めて限定的な機能を持ったゲームエンジンで、部分的にかなり特殊な形式のプログラムをする』という表現に近いです」との見解だ。

元大手メーカーのプランナーで、現在はゲーム専門学校での講師も務めるフリーランスのプランナーも次のように指摘する。

「プログラミングのイメージを、感覚的につかむための基礎トレーニング用としては価値があると思いますが、これだけでプログラミングを学べるかと言えば、正直疑問ですね。

ですが、これから来ることが予想されるノーコード開発の流れには適していて、例えばブループリント(※)などを使用した開発への導入になると考えれば、本作は評価に値するのではないかと思います」

※「ブループリント(Blueprint)」:世界中で使用されている有名なゲームエンジン「Unreal Engine」に搭載されている、ビジュアルプログラミング言語のこと。

とはいえ、たとえ「本格的な」ゲームプログラミングが学べなくても、小学生でも手軽に遊びながらプログラミングに触れる機会を創出し、未来のプログラマーを育む可能性が見出せるところにも、本作の価値は十分にあると言えるだろう。

パッケージ版に同梱されているカード
パッケージ版に同梱されているカード

カードに書かれた解説文を読めば、ゲーム中に学んだ「ノードン」の役割を復習することができる
カードに書かれた解説文を読めば、ゲーム中に学んだ「ノードン」の役割を復習することができる

プログラミング教育への貢献にも期待

昨年度から小学校のプログラミング教育が必修となったが、遊びながら学べる本作を利用すれば、小学生のプログラミングへの関心、興味がより深まり、授業内容の理解も進むのではないかと思われる。

しかも、本作の値段は3480円で、パッケージ版のソフトしては非常に安い(※ダウンロード版は2980円。価格はいずれも税込)。小学1年生でも遊べるように調整していることから、文字どおり初めてプログラミングに触れる子供たちへの入門ソフトとして打ってつけだろう。

また本作は、自分で作ったオリジナルゲームをネット上に公開して、世界中のプレイヤーが遊べる機能も搭載している。もし小学生の段階で、自作ゲームを多くの人に遊んでもらえる体験ができたならば、大人になってからも素晴らしい思い出となるハズだ。

「学生には『Unity』や『Unreal Engine』に触れる前に、まず本作を先に遊ばせてもいいのでは、とも思いますね。本作の内容は、『Unity』でオブジェクトにコンポーネントを付けたりするようなこととだいたい同じですが、本作はゲーム作りにより特化された表現と要素で、必要最小限にモジュールされていますので、『木』じゃなくて『森』が見えやすいのではないかと。ですから本作を遊べば、遊びを成立させている構造を、何となく理解できるまでの時間が早まるのではないでしょうか」(前出の元大手メーカーのベテランゲームデザイナー)

「SI屋が作るような得体の知れない高額商材・機材ではなく、Nintendo Switch本体と格安の本作さえあれば、小学校のプログラミング教育は十分だと思います。条件分岐などの関数はありませんが、工夫次第では複雑なゲームを作ることも可能で、入門編としては十分すぎるほどの内容です。いずれは小学生からも凄腕の職人が出てきて、とんでもない作品を作るのではないかと楽しみにしています」(前出の元大手メーカーのプロデューサー)

本作を機に、未来のゲーム業界を背負って立つ人材が一人でも多く育つことを期待したい。

(C)Nintendo

ライター/日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表

1993年に「月刊ゲーメスト」の攻略ライターとしてデビュー。その後、ゲームセンター店長やメーカー営業などの職を経て、2004年からゲームメディアを中心に活動するフリーライターとなり、文化庁のメディア芸術連携促進事業 連携共同事業などにも参加し、ゲーム産業史のオーラル・ヒストリーの収集・記録も手掛ける。主な著書は「ファミダス ファミコン裏技編」「ゲーム職人第1集」(共にマイクロマガジン社)、「ナムコはいかにして世界を変えたのか──ゲーム音楽の誕生」(Pヴァイン)、共著では「デジタルゲームの教科書」(SBクリエイティブ)「ビジネスを変える『ゲームニクス』」(日経BP)などがある。

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