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「軍事衝突が発生する可能性が高まっている」文在寅大統領の発言の真意は!?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
艦隊艦ミサイルを発射する北朝鮮の警備艦

韓国の文在寅大統領は17日、北朝鮮との軍事境界線や北方限界線(NLL)で「軍事衝突が発生する可能性が高まっている」と唐突に口にしたそうだ。

文大統領の発言は、大統領就任後初めて国防部と軍合同参謀本部を訪れた際のものだが、文大統領は領有権を競っている西海(黄海)西岸沖や非武装地帯で北朝鮮への警戒を怠らないよう軍司令官らに訓示していた。

また、文大統領は14日の中長距離弾道ミサイル「火星12号」の発射についても「国連安全保障理事会の(制裁)決議に違反する重大な挑発行為で、朝鮮半島はもちろん国際平和と安定に対する深刻な挑戦行為であり、このような北の挑発と核による威嚇を決して容認しない」と強調したうえで「私は北の挑発や核の脅しを許容しない」とし、軍部に「水も漏らさぬ防衛体制」を取るよう求めていた。

大統領就任直後の演説では「条件が整えば、平壌も訪れる」と明言し、金正恩党委員長との南北首脳会談にも意欲を見せるなど融和ムードを漂わせていたが、一週間もしない間に「我が軍は北朝鮮が武力挑発を行えば、直ちに懲罰する意志と能力を有している」と北朝鮮を威嚇してみせた。

韓国の政治家ならば、軍本部を訪れれば保守・革新関係になく、勇ましい発言をするのは至極当然のことかもしれないが、それにしてもこれでは北朝鮮に対して強硬な発言を続けてきた前任の朴槿恵前大統領の発言と遜色はない。

この変身が北朝鮮クライシスによる一時的なものなのか、それとも、不動のものとなるのかは北朝鮮の対応次第のようだが、どうやら渡り蟹シーズンが到来したことと無縁ではなさそうだ。

海の38度線と称される西海のNLL一帯は5月下旬から渡り蟹の漁場と化している。自国の漁船が越境、あるいは拿捕されないよう、また中国漁船の不法操業を取り締まるため南北の警備艦が巡回するが、やっかいなことに北朝鮮は陸の38度線(軍事境界線)と違い、NLLを認めず、自国の領海であると主張している。そのため南北艦船による武力衝突がこれまで数回起きている。そのうち2回は6月に発生し、「海戦」にまでエスカレートした。

朝鮮戦争休戦(1953年7月)以来の初の海戦となった第一次黄海交戦は思えば、韓国初の革新政権である金大中政権が誕生した翌年の1999年6月に起きている。この年の6月15日午前7時55分、7隻の北朝鮮の警備艇がNLL南側5kmまで侵入したため韓国海軍の高速艇と哨戒艦10数隻が出動し、衝突となった。

北朝鮮側は魚雷艇1隻が沈没、警備艇2隻が大破、2隻が破損、30人~70人の死傷者を出した。韓国側も哨戒艇1隻が破損、警備艇1隻がエンジン破損、幸い死者はゼロだったが、7人の負傷者を出している。

二回目も同じく金大中政権下の2002年6月に起きている。一回目の時と同じように北朝鮮警備艇の南下とNLL侵犯によって衝突が起き、北朝鮮側は警備艇が一隻炎上し、推定で30人前後の死傷者を出し、一方の韓国側も高速艇1隻が沈没し、死者6人、負傷者22人を出している。

この第二次黄海交戦は日韓が共同開催したW杯サッカー期間中、それもベスト4に進出した韓国チームが3位決定戦に臨んだ日(6月29日)に起きている。韓国では映画化され、一昨年「ノーザン・リミット・ライン南北海戦」という題名で公開されたばかりだ。

三回目は李明博保守政権下の2009年11月で、そしてその延長線上で翌年の2010年3月に韓国の哨戒艦が北朝鮮潜水艦の魚雷で撃沈され、11月には韓国の領土、延坪島も砲撃される事件が相次いだ。

この「延坪島砲撃事件」では韓国側に甚大な被害が発生したことで韓国軍はF-15戦闘機による北朝鮮基地への爆撃を検討していた。戦闘機による攻撃は激怒した李明博大統領自身が「武力挑発には応分の代価を払わせろ」と直接指示したことによる。

当時米国防長官だったゲーツ氏は回顧録「デューティー(任務)」(2014年1月に出版)で韓国が当時、航空機と砲撃での報復を検討していた事実を明らかにし、韓国の報復を「過度に攻撃的」とみなしたホワイトハウスとペンタゴンが李大統領や韓国国防部を説得し、戦闘機による爆撃を断念させ、北朝鮮の砲台への攻撃に限定させたという舞台裏まで明かしていた。

金正恩委員長は今月4日に延坪島に近い長在島防御隊と茂島英雄防御隊を相次いで視察している。

延坪島から長在島はわずか6.5キロ、茂島は11キロの距離にあり、島内には122ミリロケット砲(射程20キロ)、130ミリ(同27キロ)と76.2ミリ(同12キロ)の海岸砲などが配備されている。茂島には2010年11月に延坪島に砲撃を加えた部隊が駐屯している。

朝鮮中央通信によると、延坪島砲撃について「休戦後、最も痛快な戦いだった」と振り返っていた金委員長は長在島防御隊の監視所から肉眼ではっきりと見える延坪島を眺めながら北朝鮮軍の新たな攻撃計画を承認したとのことだ。。

朝鮮半島近海(日本海)で4月末から展開している米原子力空母「カールビンソン」の艦隊が6月まで同海域にとどまることになったのも軍事衝突が発生する可能性が高まっていることの証かもしれない。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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