学歴フィルターの次はカレンダーフィルター?~23卒生の8割が知らない就活スケジュール
◆「説明会に参加したくても参加できない」就活生の悩み
「気になる企業があったのでエントリーしようとしたら、『選考は説明会参加が必須です』とある。でも、その説明会の開催情報はどこにも出ていない。どうすれば説明会に参加できるのか」
こうした疑問を持つ就活生が増えています。
これ、実は学歴フィルターならぬカレンダーフィルターに他なりません。
学歴フィルターとは、大学名差別とも言いまして、難関大学であれば選考で優遇される、中堅以下の大学だと説明会参加も難しくなる、というものです。
就職情報サイトが大学名によってフィルタリングできることから、2000年代に「学歴フィルター」が定着しました。
2021年12月には、マイナビがメールで「大東亜以下」とのタイトルを就活生にも流し、物議を醸しました。
この学歴フィルターとその対策については、12月10日に、詳しい記事を公開しました。
マイナビ「大東亜以下」メール炎上で学歴フィルター論が再燃~現実の傾向と就活生の対策
本稿でご紹介するのは、カレンダーフィルターについてです。
私の造語なのですが、学歴・大学名ではなく、時期によってフィルターをかけてしまう、つまり、ある時期が来れば問答無用で選考受付をクローズしてしまうことを意味します。
◆本来の就活スケジュールは3月1日広報解禁
「カレンダーフィルターなんて、バカバカしい。就活の広報解禁は3月ではないか」
そう思われた就活生も多いでしょう。
その通りで、政府が定めた就活ルールによるスケジュールは次の通りです。
3月1日:広報解禁(会社説明会や合同説明会などが開始)
6月1日:選考解禁(採用選考が開始)
10月1日:内定解禁
では、これを遵守する企業がどれだけあるか、と言えば少数派です。
リクルート就職みらい研究所の調査「就職白書2021」(調査時期は2020年12月~2021年1月)によると、選考解禁前となる4年生5月より前に面接選考を実施した企業は2021年卒で対面66.2%、オンライン72.1%。
このデータから、選考解禁を遵守していない企業は7割以上。選考解禁を遵守しない、となると、広報解禁はそれより前、ということを意味します。
多くの就活生が誤解していますが、政府の就活ルールは法律ではなく、目安でしかありません。
つまり、守るかどうかは企業次第。そして、守らなくても罰則などはないのです。
業界や企業などによって、選考時期は異なりますし、ここ5年で急に進んでいるのが採用時期の分割化です。
すなわち、企業の採用時期を大学受験のように2~5回程度に分割していく、というものです。
よく、日本の就活は「新卒一括採用」などと言われます。選考時期などが各業界・企業とも同一であることを意味します。
が、現実には「一括」という部分は2010年代には崩壊していったと感じています。
代わりに、採用時期の分割化、多様化が進みました。その一環が、カレンダーフィルターなのです。
カレンダーフィルターを採用する企業は採用時期について、3月広報解禁より早く動くことを第一と考えます。
そこで、説明会実施などは3月より前に実施となるわけで、エントリー締め切り日は就活生が考える以上に早いものがあります。
その期日は具体的には、それでは具体的には1月31日、2月28日、3月11日の3日です。
◆フィルターの締め切りは1月31日・2月28日・3月11日
まず、1月31日について。
就職情報サイトの一部は規約により、学生の個人情報を閲覧することができなくなります。ここで言う、個人情報とは学生が公開する自己PR欄などで、学生側も企業の閲覧を認めるものです。
こうした個人情報を2月に閲覧できなくなる・3月以降はエントリーがあっても見たくない、となると、企業側は1月以前にエントリーした学生としか接触できなくなります。
企業からすれば、「早い時期に動く学生ほど優秀。だったら、2月の閲覧不可期間がある以上、1月31日で事実上、受け付け終了としてしまう方が話は早い」となるのです。
この次が2月28日。
前記のように、一部の就職情報サイトは2月に個人情報が閲覧できなくなります。が、就職情報サイトによっては閲覧できます。
それから、2月には、インターンシップの合同説明会なども開催されます。
そうしたルートから選考を申し込む学生については受け付け、広報解禁以降はエントリーしても企業は無視することになります。
最後が3月11日。3月1日の広報解禁からのエントリーは一定数、認めようと考える企業がこの期日になります。
企業によっては3月第1週の終わり、4日(金曜)までとするところもあります。
なぜ、3月上旬ないし中旬までのエントリーを認めるか、と言えば広報解禁を律儀に守る主要大学の学内合同説明会が3月上旬~中旬に集中しているからです。
「学内合同説明会からのエントリーを考えると、そうそう無碍にもできない。だったら、3月中旬くらいまでのエントリー者には説明会や選考の案内を送るようにしている」
機械メーカーの採用担当者はこう説明してくれました。
◆カレンダーフィルターの業界別利用状況は
以上、カレンダーフィルターの具体的な締め切り日についてご紹介しました。
このカレンダーフィルター、当然ですが、どの業界・企業がいつか、などは非公表です。
以下は、私が取材した結果のものです。ただし、これも目安であり、当てはまらない企業もある、という前提であることをお断りしておきます。
12月以前:IT、ベンチャー、外資系、不動産、人材(以下、5業界)の1~3割程度
1月31日:5業界の2~4割程度、
2月28日:5業界の4割程度、人気企業の一部、商社・メーカーなど中堅以上の一部
3月5日:5業界の0~1割程度、人気企業の半数程度、商社・メーカーなど中堅以上の半数程度
3月11日:人気企業の3~4割程度、商社・メーカーなど中堅以上の3~4割程度
3月末:商社・メーカーなど中堅以上の一部、中小企業の2~3割程度
4月末:中小企業の半数程度
5月末:中小企業の2~3割程度
※筆者調べによる
◆カレンダーフィルターは実質的には学歴フィルター
このカレンダーフィルターを企業はどうして導入するのでしょうか。
理由は簡単で、早期から動く学生ほど優秀であり、企業にとって欲しい人材だからです。なお、「優秀」とは大学の成績などではなく、企業にとって欲しい人材かどうか、という意味です。
「広報解禁以降のエントリーを受け付けていた時期もありました。ただ、遅く動く就活生は、どこか『お客様』なんですよね」
こう話してくれたのは、商社の採用担当者です。お客様とは?
「一から十まで企業側がお膳立てしないと気が済まない、そんな態度が見え隠れする就活生のことです。やたらと説明会や選考のキャンセルをする、ちょっと調べればわかる話も調べてこない、エントリーシートを出させれば空欄が目立つ、適性検査のスコアも高くない、それどころか壊滅的。ちょっとひどいよね、という学生が広報解禁以降は目立ちます。早期に動く就活生にもそういうのはいますが割合としては少ないですね。それなら、広報解禁前にクローズした方が話は早い、となりました」
似た話は、他に取材した企業からも出てきています。
このカレンダーフィルター、実質的には学歴フィルターとも言えます。
「うちは大学名にこだわるわけではありません。ただ、採用基準を設けると、結局は難関大ばかりが中心で、中堅以下の大学は一部。しかも、早期に動く就活生の方が割合としては難関大の方が多いですね。中堅大学か、それ以下の大学の学生は、そんなに多くありません。しかも、大学の偏差値は低くても、就活にモチベーションの高い、うちからすれば欲しい人材です。広報解禁前にクローズ、というのはいかがなものか、という議論もありました。それでも、欲しい人材を取るための手段、ということで、今は2月末でクローズしています」(IT)
◆抜け道は逆求人型サイト、2月イベント、学内合説
ここまでの内容、動きが遅かった就活生はショックかもしれません。
実際、これまでエントリーシート添削(無料)などで話した就活生に、このカレンダーフィルターを話すと、全員、「そんな話、初めて聞いた」と絶句していました。
では、このカレンダーフィルター、抜け道はないのか、と言えばそれなりにあります。具体的には、逆求人型サイト、2月イベント、学内合説の3点です。
この3点は、いずれも「企業が学生の個人情報を取って、説明会・選考の案内を送れる」という共通点があります。
まず、1点目の逆求人型サイトについて。
逆求人型サイトとは、学生が基本情報(大学名、住所など)のほかに、自己PRなどを作成。企業には学生の連絡先(登録メール)と自己PRが公開されます。閲覧した企業は気になる学生に対して、説明会や選考の連絡をする、という就職情報サイトになります。
従来の就職情報サイトは、学生が企業情報を閲覧したうえで説明会・選考の予約をする、という流れでした。この逆となるので逆求人型サイトなどと呼ばれています。
逆求人型サイトは2月であっても、一部の就職情報サイトのように学生の個人情報が閲覧不可になることはありません。
逆求人型サイトは興亡激しく、一部のサイトは失速しているところもあります。激しい競争の中で抜け出しているのが、offerbox(オファーボックス)、その次が、あさがくナビ、キミスカと言ったところでしょうか。
特にofferboxは、利用企業・学生とも増え、それが勢いをさらに拡大する好循環がここ数年、続いています。
2点目は2月イベント、3点目は学内合説(合同説明会)です。大手就職情報会社や自治体・経済団体などが主催する合同説明会イベントも含みます。
2月に開催される合同説明会イベントや学内合説は広報解禁前、ということもあり、「企業合同説明会」という名称を用いるものは多くありません。
「業界研究フェア」「インターンシップ合同説明会」など別の名称によって開催されます。
ここで、事情を知らない就活生は「業界研究などどうでもいい」「いまさら、インターンシップなんか無関係」などと短絡的に考えて、参加しようとしません。
これは実にもったいない話です。
と、言いますのも、2月に複数の企業が集まるイベントは名称がどうあれ、実質的には合同説明会と同じだからです。
出遅れた就活生は、2月の就活イベントは名称がどうあれ、できるだけ参加した方がいいでしょう。
特に学内合説については、その大学の学生を採用したい、と考える企業が参加します。そのため、その大学の学生からすれば、選考においては他大学の学生よりも内定まで行きつく確率がやや高い、と言えます。
以上、カレンダーフィルターの抜け道を3点、ご紹介しました。
それから、企業と接触した後、企業マイページやLINE登録ができるなら、必ず登録しておくことをお勧めします。
これは、企業が学生個人に説明会・選考の連絡する際、制約のある就職情報サイトを経由したくないからです。
学生からすれば、登録の手間が面倒かもしれませんが、説明会・選考に参加したいのであれば登録しておいた方がいいでしょう。
◆3月合説はますます形骸化へ
このカレンダーフィルターが広がる背景は、それだけ就活時期が早期化している点にあります。
そのため、広報解禁日となる3月1日の合同説明会はますます形骸化が進むでしょう。
就活の出発点ということで、盛り上がっていた広報解禁日の合同説明会は、2010年代後半から年々、参加学生数が減少しています。
2020年にはコロナショックで大手就職情報会社の合同説明会が軒並み、中止となりました。メディアの一部は「企業を知らないまま就活に臨む学生がかわいそう」と論じました。が、これは的外れでした。
早期から動いている就活生は3月合説など眼中になく、これはカレンダーフィルターを導入していた企業も同様です。
だからこそ、動揺したのは出遅れた一部の就活生だけでした。
3月合説スルーはコロナショック2年目となる2021年も同様です。大手就職情報会社は人数制限をしたうえでの対面式による合同説明会を実施しました。が、多くの企業からすれば、合説に参加して意味があるのは3月よりも2月以前のものです。
この状況は今年も同様であり、なおます、形骸化が進むことが予想されます。
◆就活時期は2012年以前の「10・4」に戻すべき
2010年代後半から現在まで、就活の実質的なシーズンは10月~12月に説明会・セミナーの開催がスタート、選考は3月~4月がピークとなっています。
3月広報解禁・6月選考解禁(3・6)は形骸化が進んでおり、実質的には「10・4」となっています。これは、2012年以前の就活スケジュールと変わりません。
問題は、2012年以前であれば「新卒一括採用」だったので、どの学生も同じ時期に動いていました。
現在は、採用時期の多様化や本稿でご説明したカレンダーフィルターによって、気づいた学生とそうでない学生とで就活格差が生まれています。
私はこの就活格差、半分は学生の自助努力によって埋めるべき、と考えています。実際、早期に動くことで自らの不利を埋めている就活生もいるのですから。
しかし、残り半分は、時期設定の問題で埋めるべきではないでしょうか。具体的には、現在の「3・6」を自由化とするか、「10・4」に戻すのです。そうすれば、カレンダーフィルターで損をする就活生は大幅に減るでしょう。
もっとも、「3・6」は経団連などの経済団体と大学団体などが協議によって決めたスケジュールです。
「簡単に変更すると、あの変更は何だったのか、となり、メンツ丸つぶれになる」(大学団体関係者)
学生のために、と、就活時期を変更したはずが、結果としてはカレンダーフィルターを生んで学生のためになっていないとは実に皮肉な話です。
メンツだのなんだの、と就活時期は変更になりそうもありません。
せめて、本稿を読んだ就活生はカレンダーフィルターを覆す自助努力をした方がいいでしょう。