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マイナビ「大東亜以下」メール炎上で学歴フィルター論が再燃~現実の傾向と就活生の対策

石渡嶺司大学ジャーナリスト
自身の履歴書を示す女子学生(イメージ)。学歴フィルターの実際を解説(写真:イメージマート)

◆就活生の受け取ったメールに「大東亜以下」

ことの発端は、就活生のTwitter投稿からでした。

マイナビ新卒紹介に登録する学生が受け取ったメールのタイトルが「<第1>大東亜以下➈」となっていたのです。

メールは流通大手である東急ストアのセミナーを紹介するものでしたが、「大東亜以下」との文言が就活生を騒がせることになりました。

大学受験用語として、偏差値が同程度の大学をまとめてグループ(群)として命名されたものがあります。

一番有名なものは、首都圏の難関私立大を指す「早慶上智」でしょう。

これは早稲田、慶応義塾、上智の3校をまとめたものです。これに国際基督教大学を加えて「早慶上智ICU」とすることもあります。

この次のランクとして、「MARCH」があります。明治、青山学院、立教、中央、法政の5校。これに学習院大学を加えて「GMARCH」とすることもあります。

この次のランクが「日東駒専」(日本、東洋、駒澤、専修)。

「日東駒専」の下のランク、首都圏の中堅私立大学のグループとされるのが「大東亜帝国」または「大東亜拓桜帝国」です。

これは大東文化、東海、亜細亜、帝京、国士館(拓桜を含む場合は拓殖・桜美林)が該当します。

マイナビが送信したメール件名に入っていた「大東亜」とは、この大東亜帝国グループを指す、と推定されます。

大学のグループ名がメール件名に入っているのは、このマイナビ新卒紹介の担当者がコピー&ペーストで消去し忘れた、いうなれば確認ミスによるもの、と思われます。

◆「学歴フィルター?」と就活生の間で話題沸騰

確認ミスであれ故意であれ、受け取った就活生からすれば、いい気分になれるわけがありません。特定の大学グループ名を示唆する文言が入っている以上、これは学歴フィルターを示唆しているのではないか?

そう考えた就活生の間で、瞬く間に広がり、炎上。

しかも、「大東亜以下」とありながら、偏差値が大東亜帝国クラスより上の大学に在籍する就活生(法政、東京理科など)がいることも判明しました。

その後、8日になってマイナビは各メディアの取材に対して確認ミスだったこと、「9」は人数、学生のカテゴリー分けは管理上のもので学歴・大学名による有利不利はない、とのコメントを発表しました。

メールタイトルの「〈第1〉」は部署名を表し、「大東亜」は大学名、「⑨」は「当日面談を対応できるキャリアアドバイザーの人数を表しております」(前出広報)とのこと。「大東亜」は大東文化大学や東海大学、亜細亜大学などを指すことが多い。

大学名で学生をカテゴリー分けしているようだが、「キャリアアドバイザーの組織が2部門あり、面談枠を管理する際に作業上、枠を2つに分ける必要がありましたが、この作業において、学生が学歴により有利不利になるようなことはございません」(前同)とした。マイナビ側の都合で分けているのであって、学生に影響はないとの主張だ。

※「マイナビが学歴フィルター疑惑について取材に回答 「大東亜以下」メールが物議」(東スポWEB 2021年12月8日配信)

マイナビは7日には該当する学生に謝罪メールを送信。8日には同社サイトでお詫びのコメントを発表しました。

『マイナビ新卒紹介』メール件名の誤りに関するお詫び(2021年12月8日発表)

◆ひろゆき氏「学歴フィルターに文句を言うのは見当違い」

この問題、8日には西村博之さんがTwitterでコメント、さらに話題となりました。

学歴フィルターがバレて偏差値の低い大学の人が不快になったという話。

面接できる人数は限られていて、偏差値の高い大学生だけを相手にしたい企業があるのは事実。

嫌なら勉強して良い偏差値の大学に入ればよい。学歴フィルターに文句を言うのは見当違いだと思うおいらです。

学歴フィルターに文句を言っても、低偏差値の学生が採用されるようになるわけではなく、誰も読まずに自動的にゴミ箱に行くだけのエントリーシートを企業に送付出来るようになるだけです。

偏差値の低い学生に無駄なコストが増えるだけということがわからないんですかね。。

※どちらも12月8日Twitterより

この投稿2本に対して、12月9日9時現在、合計で1.5万の「いいね」が付き、コメント数は900本にものぼっています。

◆東急ストアは実は「大東亜以下」をしっかり採用

まず、このマイナビの誤爆、もとい、確認ミスにより、いい迷惑となった東急ストアが学歴フィルターをかけているのでしょうか。

結論から言いますと、全くこだわっていません。

今月刊行の『就職四季報 総合版2023年版』(東洋経済新報社)には東急ストアの2021年卒の採用実績校が掲載されています。

東京都市大4、昭和女子大・日大各3、桜美林大・駒澤大・専修大・産能大・東洋大・立教大・立正大・帝京大各2、フェリス女学院大・亜細亜大・学習院大・関東学院大・実践女子大・常葉大・神奈川大・清泉女子大・創価大・相模女子大・多摩大・大正大・拓殖大・中央大・津田塾大・東京女子大・白百合女子大・明治学院大・明治大・明星大・和光大

※『就職四季報 総合版2023年版』より

「大東亜以下」の大東亜帝国クラスだと帝京大2人、亜細亜大1人の採用実績があります(「大東亜拓桜帝国」とすると、桜美林大2人、拓殖大1人)。

大東亜帝国クラスより偏差値が同じか下とされる大学も10校以上入っています。

念のため、『就職四季報』のバックナンバーを確認しましたが、2021年卒と大きくは変わりません。

筆者自宅の本棚。『就職四季報』や受験資料などはバックナンバー10~20年分を所蔵(筆者撮影)
筆者自宅の本棚。『就職四季報』や受験資料などはバックナンバー10~20年分を所蔵(筆者撮影)

『就職四季報』の採用実績校はあくまでも企業側が編集部のアンケートに回答するものです。民間企業実施のものである以上、企業側は嫌なら公表せず未回答、とすることも可能です。

実際、学歴フィルターがあるのでは、と疑われる企業は採用実績校が未回答となっています。

その点、東急ストアは正直に回答している、と推定できます。そして、採用実績校を見る限り、学歴フィルターとは無縁と言っていいでしょう。

いや、ほんと、マイナビの誤爆でのとばっちり、ご愁傷様です。

◆学歴フィルターは「あるの?ないの?」の二元論に答えづらい

この学歴フィルターネタ、私が大学ジャーナリストとして本や記事を書いてきて19年間、何度となく記事や本にしてきました。ネット記事だと、毎回、そこはかとなく炎上し、最近だと細々やっているYouTubeで私の学歴(2浪・東洋大学卒業)をとらえて揶揄ないし中傷のコメントが時報のごとく入ります(あまりにも見るに堪えない中傷コメントは視聴者にも失礼なので削除しています)。

そう分かっていて、今回も含め、記事や本としているのはそれだけ読者が多いことを意味します。

今回の騒動についても、関心がそれだけ高いテーマ、と言えるでしょう。

では、日本の就活市場において、学歴フィルター(大学名差別)があるのか、ないのか。

企業や大学を取材し続けて19年。その経験から言いますと、どちらとも断言できません。

曖昧な答えになってしまいます。確か、2012年に西村博之さんとニコニコ動画で対談した時はこのあたりを詰められて脂汗を書いた黒歴史があります。以降、「ひろゆきに論破された被害者の会」会員となりました。

もっとも、昨年、2020年にABEMAPrimeにお呼ばれして話した前後から「ひろゆきに論破されたけどそれでもひろゆきが好きな会」会員でもあります。

筆者が出演したABEMAPrime(2020年10月2日放送)のABEMA公式まとめ動画

話を学歴フィルターに戻すと、なぜ断言できないのか、それは企業の都合、採用戦略、学生本人の努力・能力・性格、この3点で大きく変わるからです。

◆学歴フィルターの虚実・その1~企業側の都合

まずは1点目の企業側の都合について。

その前に学歴フィルターの歴史を簡単にご紹介します。

戦後から1980年代前半ごろまで大卒新卒採用においては指定校制という形での学歴フィルターがありました。

これは、企業側が選考の対象となる大学を指定。該当する大学であればその企業への選考に参加できますし、そうでなければ選考にすら参加できません(コネ入社は別です)。

かなり露骨な学歴フィルター(大学名差別)があった、と言えます。

この指定校制は大学進学率の上昇やバブル景気もあって、1980年代後半までに多くの企業では自然消滅します。

1990年代に就職氷河期となり、さらに1990年代後半には就職ナビサイトが出そろいます(リクナビは1996年、マイナビは1995年、キャリタスナビは1996年/前身を含む・名称は現在のもの)。

で、この就職ナビサイトの仕様として、学歴フィルターは当初からありました。

具体的には大学名によって、説明会や選考の案内を送るかどうか、フィルタリングできる、というものです。

2000年代前半にはメディアでも記事となり、その後、何度となく、取り上げられることとなりました(「AERA」2004年3月15日号「就職 第20回 「学歴とコネ」人事部の本音」など)。

では、話を学歴フィルターと企業側の関連について戻します。

ひろゆきさんのTwitterにあった「面接できる人数は限られていて、偏差値の高い大学生だけを相手にしたい企業がある」は、具体的には、外資系金融・コンサルタント、商社・金融の一部、高技術力のメーカー・事務系総合職などに当てはまります。

外資系金融・コンサルタントだと、本社(アメリカ、イギリスなど)に採用の報告をするとき、マンパワーの問題に加えて「本国の上司が東大や京大、早慶などしか知らない」(外資系金融・採用担当)と言った事情もあります。

これは技術力の高いメーカーでも同様です。東大・京大など難関大出身の技術職・研究職が多いため、「事務系総合職にも製品・技術をある程度理解しないと、技術職が小馬鹿にしてくる。必然的に理解の早い難関大出身を採用したい。申し訳ないが中堅以下の私大からの応募は書類選考で全部、落としている」(関西のメーカー・採用担当)。

なんだ、学歴フィルターはあるじゃないか、そう思われる読者もいるでしょう。

ところが、こうした企業が全てか、と言えばそうではありません。

今回、とばっちりを受けた東急ストアを含め、大学名にこだわらない企業も相当数あります。こだわらないどころか、こだわる余裕がない、と言ってもいいでしょう。

具体的には小売・流通や外食チェーン、福祉、物流などの業界が該当します。

それから、学歴フィルターをこっそり実施する業界・企業と、学歴フィルターをやる余裕のない業界・企業の中間に、「学歴フィルターをかけてはいないが、結果的にはやっているも同然」という業界・企業が存在します。その具体策が採用戦略と「大学名不問」です。

◆学歴フィルターの虚実・その2~企業側の採用戦略・「大学名不問」というウソ

採用戦略や「大学名不問」によって、結果としては学歴フィルターを実施しているも同然、これは商社・金融の大半、マスコミ、それ以外の業界でも多くの企業が該当します。

採用戦略と言っても、別に難しい話ではなく、選考序盤で適性検査を実施するだけです。

適性検査は性格検査と能力検査に分かれ、能力検査は数学、国語など学力テストに相当します(適性検査によっては英語・社会・理科なども含みます)。

適性検査で一番有名なものがSPI3であり、これは能力検査では数学・国語となります。

この適性検査の数学は、結果的には偏差値の高い大学の学生ほど高得点となり、偏差値が下がれば下がるほど得点率が下がります。

企業からすれば、学歴差別と批判されることなく、適性検査の出来次第で学生を選別できます。

こう説明すると、自宅で受検できる適性検査は不正できるじゃないか、とのツッコミも入りそうです。企業側もバカではなく、近年では適性検査を序盤と中盤以降、2回実施(しかも2回目は対面で不正はほぼ不可能)の企業が増えました。

この適性検査を利用すれば、難関大出身は大多数が残り、中堅以下の出身だときちんと対策してきた真面目な就活生しか残りません。そのうえで面接をしていけば、中堅私大出身者が少数、採用されることもあります。

そして、学歴フィルターをかけている、と非難されたくない企業が採用戦略の一つとして取るのが「大学名不問」です。

具体的には、「うちは大学名不問です。そのため、選考書類には大学名を記載する欄がありません」というものです。

中堅大の学生や教職員によってはこうした企業の姿勢を歓迎する話も聞きます。

実はこの「大学名不問」も、結果的には学歴フィルターをかけているも同然、と言っていいでしょう。

具体例を挙げて説明します。

この「大学名不問」を大々的に宣言して話題となったのがソニー(1991年)です。

このソニーの採用実績校を1991年・1992年・1997年・2003年・2008年・2016年で比較調査しました。

1992年には日東駒専(日本・東洋・駒澤・専修)・産近甲龍(京都産業・近畿・甲南・龍谷)という首都圏・関西圏の中堅私大からの採用者数が微増しました。

大学通信公表データ(各年度)から大学クラスごとに集計(筆者作成)
大学通信公表データ(各年度)から大学クラスごとに集計(筆者作成)

が、その後は旧帝大・一橋・東京工業という難関国立大か、早慶が中心となっています。

ソニーよりも先に学歴不問採用を実施した毎日新聞社(1979年)でも、結果としては「早稲田8、慶応4、東大3、一橋・東京外国語・同志社各2、明治・関西学院・立教・横浜国立上智など各1」(「週刊文春」1979年2月15日号「『学歴・経歴不問』毎日新聞 型破り 入社試験の合格者」)と難関大が中心となっています。

毎日新聞社の学歴不問採用はそこまで話題にならず、数年で終わった模様です。

現代でもテレビ局を含め、マスコミ各社は「大学名不問」としています。が、キャラクターやアナウンス能力などが求められるアナウンサー職を除けば、採用実績は難関大が中心となっています。

◆学歴フィルターの虚実・その3~学生本人の努力・能力・性格

学歴フィルターの虚実、3点目としては、本人の努力や能力、あるいは性格が左右する点です。

ひろゆきさんのTwitterにある「嫌なら勉強して良い偏差値の大学に入ればよい。学歴フィルターに文句を言うのは見当違いだと思うおいらです」がまさに該当します。

この個人の努力の結果が大学入試に表れているのは、とする論はよく言われており、私も「まあ、そうだろうな」と考えます。

日本の大卒新卒採用(特に総合職)は一部のベンチャー・中小企業を除くと、即戦力採用ではなく見込み採用です。見込み採用とは企業側が学生の能力・人間性などを総合評価、その伸びしろを見込んで採用の是非を決める、というものです。

この見込み採用において出身大学の偏差値の高低は高ければ「事務処理能力が高そう」との見込みが立ちます。

だからこそ、大企業は難関大を中心に採用していく、と言えるでしょう。

ただ、難関大出身だから必ず採用、とも言い切れません。

人事ジャーナリストの海老原嗣生さんは著書や記事などで、厳しい統計をよく出されています。

最近も人事向けコラム(人気企業の威を借る「コバンザメ採用」のススメ 第3章 「無手勝流」で採用競争に勝つ/ヒューマンキャピタルオンライン2021年12月2日配信)で次のようなデータを出しています。

『就職四季報』(東洋経済新報社)には約1200社の人気企業が掲載され、そのうちの6割が「大卒総合職採用数」を掲載している

・人気上位100社の企業もほぼ網羅されているので、公開企業を集計して、その年の平均的な1社あたりの採用数を出す

・これを100倍して、人気100社の採用規模とする

・その数値は、氷河期で1万3000人、コロナ前の最盛期で3万5000人ほどである

 コロナ前はバブル期を抜き、史上最高の学生売り手市場と呼ばれました。それでも人気企業には3万5000人しか入れないのです。これは、大学新卒者(約55万人)のたった6%強にすぎません。ちなみに、東大・京大などの旧帝大と、早稲田・慶應という私学の二雄、つまり「なかなか入れない難関大学」の学年定員を足し合わせるともう4万人にもなります。そう、人気100社とは好況期であったとしても、なかなか手が届かない存在だとお分かりいただけたでしょう。

※「人気企業の威を借る「コバンザメ採用」のススメ 第3章 「無手勝流」で採用競争に勝つ」(ヒューマンキャピタルオンライン2021年12月2日配信)より抜粋

人気100社の採用規模は1.3万人から3.5万人。それに対して旧帝大と早慶を合わせた定員が約4万人。

これに、関関同立、筑波、東京工業、一橋にGMARCHクラスなどを加えていけば、それだけで競争がどれだけ激しいか、明らかです。

当然ながら、中堅以下の私立大や地方国公立大からの採用もあるわけで、実際には難関大であっても安泰ではありません。

中堅私立大であればなおさらで、どうしても大企業・人気企業に就職したいということであれば、学歴を補うだけの努力が必要です。

◆「学歴フィルターで落ちた」で自己保身

ところが、これが学歴フィルターを永続のテーマとさせている要因として、学生個人の性格が挙げられます。性格と言いますか、自己保身の理由として学歴フィルターを使うのです。

人気企業・大企業の選考に落ちたとしましょう。その理由は大半が本人の努力不足に起因します(もちろん、運とか、本当に学歴フィルターだった、というのもありますが、それはそれとして)。

ここで、自身の努力不足をきちんと自己分析して次の選考に活かせるタイプであれば、最終的に就活はうまく行きます。

ところが、学生によっては自身の努力不足を反省するわけでなく、他者にその責任を求めます。その一つが「自分が落ちたのは学歴フィルター。そういう社会が悪い」となるわけです。

一時しのぎにはなるでしょうけど、それが自身を成長させ、次につながるか、と言えばそうではありません。

こうした就活生の自己保身・言い訳として使われる、学歴フィルターはそんな側面も強くあるのです。

◆「私の大学なんかで大丈夫でしょうか」がNGとなる理由

学生の弱さから発露する学歴フィルターとしては、選考後だけとは限りません。就活中にもよくあります。

具体的には、企業のセミナー・インターンシップやイベントなどで「私の大学は偏差値が高くないのですが採用してもらえるのでしょうか」「低偏差値校なんですが大丈夫ですか?」と聞いてしまう、というものです。

仮に採用担当者が「何でも質問しても答えます」と言っていても、これはあまりにもあんまりな質問です。

私はこの種の質問をしてしまう就活生を取材しているセミナーやイベントでも幾度となく見かけました。

この質問をする学生の何が問題か、と言えば、調べればわかる話を質問している点です。採用実績などは就職ナビサイトや『就職四季報』を読めばいくらでも出てきます。仮に不明瞭な企業でも同業他社などを調べればある程度の見当がつきます。

それをわざわざ質問している時点で「自分には情報処理能力がないバカです」と言っているも同然です。

しかも、「偏差値が高くない」「低偏差値」と学生は謙遜しているつもりでも、採用担当者は高卒だったり、その学生よりも偏差値の低い大学出身ということもあります。その場合、学生は採用担当者に相当、失礼と言えます。

それから、「低偏差値校だけど大丈夫ですか?」の質問に対して、採用担当者はセミナー等では「大丈夫、うちは大学名はあまり左右しません」という回答一択です。「そんなバカな質問する学生はまず落とすよね」など正直に言ってしまう採用担当者はまずいません。私的な相談の場ならまだしも、オフィシャルなセミナーなどであれば、「あの企業は学歴フィルターだ」と言われないためにもなおさらでしょう。

そういう企業・採用担当者の事情を理解できずに「低偏差値なんですが」と質問してしまうのは、自ら学歴フィルターの呪いをかけている、と言っていいでしょう。

さらに、ひどい例として、関西のとある難関私大の学内イベントがあります。

この学内イベントには関西の準大手・中堅の各企業が無償で協力、模擬グループディスカッションをするものでした。

イベントの最後に挨拶した学生はよりにもよって、「低偏差値で」と話してしまいます。

「大学名がパッとしない中、就活がうまく行くかどうか、大企業に入れるかどうか不安でした」

これをうしろで聞いていた採用担当者は当然ながらざわつきます。

「うちは大企業じゃなかったというわけか」

「パッとしない大学にわざわざ呼ばれた僕らの立場は一体」

付言しますと、このイベントに参加した企業は優良企業ばかりであり、中には高倍率の大企業も来ていました。

学生本人は謙遜または自虐のつもりで話したのでしょうけど、これは相当、失礼です。自分自身と大学を損ねているだけでなく、このイベントに協力した企業も傷つけています。しかも、本人はそのことに気づいていません。

これを某社コラムで書いたところ、この大学広報課から、抗議・罵倒のメールが届きました。そんなもの、スルーしましたが、学生をたしなめるどころか、逆ギレしての抗議ですか、とがっかりしたのを覚えています。

◆学歴フィルターへの対抗手段・その1~本や新聞・ネット記事

では就活生は学歴フィルターをどう乗り越えればいいか、そのカギは3点。「本や新聞・ネット記事」、「疑似フィルターの乗り越え」「社会人との会話量」です。

まず、1点目ですが、就活がうまく行く学生は結果論としては読解量が多いです。本を読む、日本経済新聞や読売新聞、朝日新聞などを読む、あるいは就活関連のネット記事を適宜チェックする、などなど。

もちろん、読解量が多いから必ず内定が取れる、とは限りません。日本経済新聞は就活生向けのキャンペーンで「就活なら日経」と宣伝していますが、「日経を読んだら必ず内定」というわけではありません。

しかし、就活がうまく行く学生、それも難関大生中心に日経の購読者が多いことは事実です。

同じことは本にも言えます。

たとえば『就職四季報』や『日経業界地図』『会社四季報業界地図』などは企業・業界を知るうえで買って手元に置いておきたい本です。

『就職四季報』2023年版。左から優良・中堅企業版、総合版、女子版。(著者撮影)
『就職四季報』2023年版。左から優良・中堅企業版、総合版、女子版。(著者撮影)

ところが大学生協関係者に聞くと「東大・京大や早慶など難関大ほどよく売れる。偏差値が下がれば下がるほど買わなくなるのであまり配本もしない」とのこと。

私も就活生から「一応買った、おススメの使い方は?」などの質問が出るのは難関大生ばかり。中堅以下の私立大生だと「一応買った」は大幅に減り、「なんで買う必要があるのですか?」(意訳すると「買いたくない」)が大幅に増えます。

これは拙著『就活のワナ』でも他の本でも同様です。

たとえば、ひろゆきさん関連で言えば、YouTubeを見るだけでなく、本を読んだ方がその発想がより理解できるはず。

さらに、ひろゆきさんがレギュラー出演しているABEMAPrimeの司会進行を担当している、平石直之アナウンサーは11月に『超ファシリテーション力』(アスコム)を上梓されました。

ひろゆきさん含め、くせ者ぞろいの出演者が多数出演する番組の司会進行を円滑にする名司会者(別名「猛獣使い」)であり、同書はグループディスカッションの参考にもなります。

ひろゆきさん・平石直之さんの著書。平石さんの本はグループディスカッションの進行の参考になる。(著者撮影)
ひろゆきさん・平石直之さんの著書。平石さんの本はグループディスカッションの進行の参考になる。(著者撮影)

という紹介をして「そこまで言うなら買おうか」となる学生は難関大生中心です。

偏差値が下がれば下がるほど、「情報はタダ」との思い込みが強く、自ら調べようとしません。

逆に言えば、中堅以下の私立大生でも、自ら情報を取りに行く、新聞や本にもきちんとお金を出すようにすれば、就活がうまく行く可能性が高くなります。

◆学歴フィルターへの対抗手段・その2~「疑似フィルター」を乗り越える

疑似フィルターとは前記の適性検査の他に、午前実施のセミナー、長文のエントリーシートが挙げられます。

適性検査は前記の通りなので、まずは午前実施のセミナーについて。

これはコロナショック以降、企業側に広まっている動きです。

学生からすれば、午前は朝が起きられないなどの理由でセミナーを敬遠しようとします。

その午前にあえて実施すると「不思議なまでに中堅私大生の参加が減った」(午前のみにセミナー実施の企業・採用担当者)。

同じことはエントリーシートにも言えます。食品メーカーやエンタメ業界を中心に、エントリーシートが総合職であっても、やたらと長文書かせる企業が多くあります。

これは、長文とすることで志望度の低い学生をあえて選考不参加とさせる狙いがあります。

しかも採用担当者に取材すると、「難関大生ほど、長文でもきちんと自分をアピールしようとする。ところがきちんとアピールできる中堅以下の私大生は多くない。うまく書けないせいか、欄の半分程度しか埋まらない学生が急に増える」とのこと。

逆に言えば、大学在学中から読解力・文章力を身に付けていれば、中堅以下の私立大生でも十分に逆転できることになります。

◆学歴フィルターへの対抗手段・その3~社会人と話す

3点目に社会人とのコミュニケーション量が挙げられます。

難関大の中でも慶応義塾大はとりわけ就活に強い、と採用担当者の間でも評判です。では大学のキャリアセンターが強力か、と言えばそんなことはありません。学内では「何もやってくれない、掲示板をちょっと見る程度」が定着しています。これは学外でも同じで、私含めメディア関係者が就活事情を知りたい、と同大に取材を申し込んでも「就活は学生のことなので」と拒否するケースがほとんどです。

では、慶応義塾大の学生はなぜ就活に強いか。それは三田会という強力な卒業生組織があり、この三田会経由でOBOG訪問を積極的に行っているからです。さらに、その経験もあってか、慶応義塾大の卒業生でなくても社会人訪問をしようとします。

それだけでなく、セミナー・インターンシップへの参加も積極的です。早いうちから社会人とのコミュニケーション量が多ければ、面接等でもうまく話せる学生が多くなるのが当然です。

OBOG訪問はともかく、社会人訪問、あるいはセミナー・インターンシップへの参加は別に難関大生の専売特許ではありません。

しかし、実際には偏差値が下がれば下がるほど、社会人訪問やセミナー・インターンシップへの参加が鈍くなりがちです。

逆に言えば、自ら積極的に動くことで学歴フィルターをある程度、乗り越えることは可能となります。

◆中高年になれば学歴の比重は大幅に低下

学歴フィルターを乗り越える方法をこれまで3点、ご紹介しました。

それぞれ就活中の話であり、実は他に就活後としてもう1点あります。

それは時間の経過です。

就活では難関大の看板がある程度の威力を発揮しますが、それはあくまでも就活での話。

社会に出れば、同じ難関大出身者が毎年、数万人またはそれ以上、増えていくことになります。

しかも、中堅大や短大・専門・高校卒出身者で伸びてくる人もいるわけで、年を重ねれば重ねるほど、カオス状態に。その分、大学名の効力は薄れていきます。

実際、ひろゆきさん(中央大学文学部)でも、池上彰さん(慶応義塾大学経済学部)でも、出身大学を気にする読者・視聴者はごく少数でしょう。

私にしても、東洋大学出身という理由で仕事が来た(あるいは断られた)ことは皆無。大学や就活の取材を地道に続けてきたからこそ、その点をご評価いただいて仕事をいただいている次第。

もちろん、難関大に進学していれば人間関係があちこちにあるとか、OBOGにつながりができやすい、などのメリットがあります。

その点を見ていけば「中高年になっても学歴がものをいう」との見方もできます。

私の場合はそうしたメリットはほぼゼロ(ごくまれに、メディア関係者などで「実は私も東洋大で」と遭遇することも)。

ただ、私の場合、そこで、ないものねだりをするよりは、なければないであきらめる、代わりの手段を講じるようにしています。

ないものねだりをしたところで、「ない」という状態は変わりません。それよりも、代替手段を講じることで「ない」が「ある」に変わる可能性が高くなります。

日本の就活における学歴フィルターは、単なる差別だけではありません。

企業の採用論・採用テクニックや能力評価、そして学生のメンタルなど様々な要素が複雑に絡んでいます。

就活生には、学歴フィルターを気にして自縄自縛になるよりもやれることを地道に積み重ねていく方がよっぽどいいのでは。そう伝えたいです。

大学ジャーナリスト

1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。 大学・就活などで何かあればメディア出演が急増しやすい。 就活・高校生進路などで大学・短大や高校での講演も多い。 ボランティアベースで就活生のエントリーシート添削も実施中。 主な著書に『改訂版 大学の学部図鑑』(ソフトバンククリエイティブ/累計7万部)など累計33冊・66万部。 2024年7月に『夢も金もない高校生が知ると得する進路ガイド』を刊行予定。

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