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グアルディオラの下で崩された序列。偽センターバックは新たな処方箋になり得るか。

森田泰史スポーツライター
フェルナンジーニョに指示を送るグアルディオラ監督(写真:ロイター/アフロ)

フットボール創生期において、存在したのは「WMシステム」と称される布陣のみだった。攻撃に5人、守備に5人を割くというシンプルなものである。

ただ、時代は移り変わり、環境は変化する。選手をめぐって大金が動き、ピッチ上で求められる成果は以前とは比べられないほどに重要になっている。5バックが4バックに、あるいは3バックになっていくのはある意味で必然だったのだろう。

だが過去を遡れば、3バックを「粉砕」したのは守備の戦術だった。アリーゴ・サッキが指揮を執るミランの登場で、再び4バックが注目され始めたのだ。ゾーンプレスを駆使したミランはサッキ就任1年目でセリエAを制して、 翌年からチャンピオンズカップ(現チャンピオンズリーグ)2連覇を果たした。

■偽センターバック

そして、現在ーー。ファルソ・セントラル(偽センターバック)なる戦術が、指揮官たちの間で試されている。

今季のチャンピオンズリーグ決勝トーナメント一回戦、シャルケ対マンチェスター・シティのファーストレグで、ペップの愛称で親しまれるジョゼップ・グアルディオラ監督はフェルナンジーニョをCB起用した。

4-3-3の右CBに入ったフェルナンジーニョは、ビルドアップの際に中盤まで上がり、シティは数的優位を作った。中盤はペップ戦術の肝となる部分だ。フェルナンジーニョのパス成功本数は80本で、パス成功率は94%だった。ポゼッション率においては、シティ(67%)がシャルケ(33%)を圧倒している。

グアルディオラ監督はフェルナンジーニョのセンターバックをプレミアリーグ第25節アーセナル戦で試験採用していた。そのアーセナル戦で、フェルナンジーニョのボールタッチ数は69回だった。そのうち、自陣のペナルティーエリア内でのボールタッチ数は、わずか4回だ。ペナルティーエリア内で相手の攻撃を跳ね返す役割ではなく、ビルドアップのためにフェルナンジーニョがCB起用されたのが見て取れる。

また、ボルシア・ドルトムントを率いるリュシアン・ファーヴル監督はグアルディオラ監督と同様の手法を採っている。チャンピオンズリーグ決勝トーナメント一回戦、セカンドレグのトッテナム戦(0-1)で、ファーヴル監督はユリアン・ヴァイグルをCB起用。4-1-4-1の右CBに入ったヴァイグルのパス成功本数は85本、パス成功率は98%だった。ドルトムントのポゼッション率は64%で、トッテナムのそれは36%だった。

一方、彼らと異なるアプローチをしたのが、ユヴェントスのマッシミリアーノ・アッレグリ監督だ。ベスト16を懸けたアトレティコ・マドリーとのセカンドレグで、アッレグリ監督はボール保持時にエムレ・ジャンを中盤の底からセンターバックの位置に下げ、後方からのパス出しを円滑にした。

ジャンを「第三のCB」として、ジョルジョ・キエッリーニが逆サイドでビルドアップに参加するという相乗効果が生まれ、ユヴェントスはラウンド突破を決めた。

■新たな処方箋

マンチェスター・シティを例に挙げれば、ペップの狙いはビルドアップの強化だ。後方から試合を組み立てる段階で、技術のあるセンターバックが必要になる。だがCBの役割はボールを前進させるだけにとどまらない。

ニコラス・オタメンディ、アイメリク・ラポルテの存在は、ボールを握るという意味合いに限られず、スペースを支配するという目的を果たす。時間と空間のコントロール、それが完璧主義者であるペップが求めたものだ。

また、今季のチャンピオンズリーグで準決勝まで勝ち進み、旋風を巻き起こしているアヤックスは、フレンキー・デ・ヨングが一時期センターバックで起用されていた。

パズルのピースを組み合わせるように、戦術のバリエーションを担保する。偽センターバックが、新たな処方箋となるのか。それは、これから証明される。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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