柿色に染まる日本の原風景!和歌山「串柿の里」は”幸せを届ける”縁起物を作る町だった
和歌山県の北部の「串柿の里」と呼ばれているかつらぎ町の四郷(しごう)で晩秋の風物詩が今年も始まった。オレンジ色というべきか、柿色というべきか、カーテンのような串柿の光景が広がっている。見頃は11月20日頃までのよう。
四郷という地名は、東谷、平、滝、広口の四つの村を総称されたもので、この串柿は450年ほどの歴史があるという。
和歌山県かつらぎ町「串柿の里」へ
この串柿の里を散策している時、柿の皮むきをしている80代というご夫婦に話を聞いた。「もう歳だから、来年は分からないなぁ~」と少し寂しそうに話す。
串柿は1990年頃がピークで、今では想像出来ないほど「串柿だらけ」だったそう。現在はその当時の3分の1ほどになったとか。
他にも数名の方に話を聞いた。すると「年々、少なくなってる」と同じ答えが返ってきた。高齢化で生産者の減少というのもあるが、正月飾りとなる串柿を買わない人が増えて来たのも理由としてあるようだ。
ここ「串柿の里」は観光地ではない!
今回改めて思ったのは「ここは観光地ではない」ということ。この地区は柿を生産する農家の方が多く、晩秋になると竹串に刺した柿が見られる。その風景を一目見たいと言う人は多いが、ここは観光地ではないのだ。
とは言え、住民の方々は訪問者を温かく迎えてくれる。「写真撮っても良いですか?」と聞けば、「どうぞ!どうぞ!」と笑顔が返って来る。次から次に来る訪問者にとても優しい。「串柿を知ってもらったり」「興味を持ってくれるのは嬉しい」と話す方もいた。
この「串柿」の正体は?
ところで、この串柿は食用ではないって知ってましたか?では一体何のために作られているのか?実は鏡餅の一部として使われる「正月飾り」だ。
鏡餅は主に「餅」「橙」「串柿」でできあがる。餅は「八咫鏡(やたのかがみ)」、橙は「八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)」、そして串柿は「草薙剣(くさなぎのつるぎ)」というように三種の神器に見立てられている。お正月にお供えすることで1年の良運を願う縁起ものである。
そう、この町の人々は「幸せを届ける縁起物」を作っているのだ。
しかし、最近は「正月飾りを買わない」という人も多い。それも時代の流れと言ってしまえば、そうなのかもしれないが…。
この景色を見て、素敵だと思うのであれば尚更「残したい」と感じたい。10年後、20年後、50年後も、この風景はここに変わらず存在していて欲しい。ただ、残念ががら規模は年々小さいくなっているのが現状だ。
この素晴らしい「串柿の風景」を残すために…
この景観を残したいと思うなら風景を楽しむだけでなく、正月飾りを購入し、日本の伝統を大切に見つめ直したい。それに縁起物を作っている日本の文化が縮小されているって考えたら、これほど寂しいことはない。
失ってしまえば、もう簡単には戻せないのだから…。それに想いを込めて作られた縁起物はしっかり受け取りたい。そうじゃないと勿体ない。
正月の鏡餅は日本の伝統的な文化であり、風習でもある。それを大切にすることは、日本の宝である農業を守る形にもなる。
なお、正月飾りの串柿は12月20日以降、関西圏を中心にスーパーやホームセンターなどで販売される。
ところで、串柿ってどうやって作ってるの?
「竹串に刺した柿」がズラッと並ぶ景色の先には、農家の方が渋柿の皮を剥いて串に刺している姿が見える。
気になって、そーっと覗き込むと「どうぞ」と気さくに声をかけてくれた。お言葉に甘えて、より近くで見せてもらった。
まず「皮むき器」に興味津々。これスゴイぞ。
機械に設置されたスペースに柿を置けば自動で皮を剥いて、その後コロコロっと転がって箱に入って行く。地元の方が発明した機械だそうだが、作った人は天才だ。この無駄のない動きは芸術的としか言えない。
ほら、キレイに剥けている。
皮を剥いた柿は、その後1本の細い竹串に5個または10個を刺す。この1本にバランスよく10個の柿を刺すのは簡単そうに見えて難しいという。
10個の場合は左右の2個と中心の6個を「いつもニコ(2個)ニコ(2個)仲むつ(6つ)まじく、共に白髪の生えるまで」という意味がある。
そして、5個の場合は左右の1個と中心の3個を「一人(1個)一人(1個)が皆(3個)幸せに」という意味となる。
この串柿には家内安全、健康祈願の願いが込められているのだ。
そう、串柿には「幸せを”かき”集める」といった意味もあるそうだ。
串柿は10串でまとめて1連と呼ぶ。
1連づつ吊るして自然乾燥させる。そして約2週間ほど乾燥をしたら、次はローラーをかけて、揉んで仕上げに入るという。
雨が続き、ジメジメしたり、霧が長引いたり、湿度があって気温が高くなると、品質が落ちて商品にならない場合もあるそうだ。これだけ苦労して作っても、全てダメになってしまう時もあるという。
このような話を聞けば、11月に台風が来るってのは「とんでもないことだ」と感じるように。もはや無関心ではいられない。
これも農家の方々の人柄がそのような気持ちにさせてくれるのだろう。
この1連を持たせてもらったが、ズッシリ重い。5キロほどあるそうだ。
生産量に関しては、農家によって様々だが、12月中旬の出荷日に照準を合わせて逆算して作られている。要するに乾燥させている時が私たちカメラを手にした訪問者が景観を楽しんでいるタイミングに当てはまる。
今年は台風の関係もあって例年より少し遅く、11月20日頃くらいまでがピークと言うワケだ。一つの商品が出来上がるまで、手間をかけ、気をかけてやっている。本当に「すごいなぁ」と感心する。
最後に、今回の取材を通して興味深い話を一つ聞いた。それは串柿と鏡餅のルーツに関わる話。豊臣秀吉が二日酔い干し柿が良いと知って気に入り、大阪城の正月鏡餅に串柿を添えたというのだ。
今から450年ほど前といえば時期も当てはまる。もちろん諸説様々だが、戦国武将に関わると思えば、歴史好きな私としては益々親近感と興味が沸いた。
”幸せを届ける”縁起物を作る町、ぶらっと散策すると心がホッコリ温まる。このような町で作られる縁起物だ。正月は「鏡餅に串柿をセット」でお飾りしたい。
「串柿の里」四郷
場所:和歌山県伊都郡かつらぎ町平にて
地図(外部リンク)
※車の場合は駐車場スペースは少ないので要注意。「平生活改善センター」(和歌山県伊都郡かつらぎ町平93)の駐車場が利用可。
取材協力:串柿の里