『サラダ記念日』で知られる歌人・俵万智は、13年4月13日に放送された『ジョブチューン』(TBS)に出演し、「言葉の使い方が素晴らしいアーティストベスト3」を選出した。
第3位に桑田佳祐、第2位に中島みゆきを挙げた俵が、1位に挙げたのは意外な人物だった。
お笑い芸人・レイザーラモンRGである。
レイザーラモンRGといえば、お題を振られると、それについての「あるあるが1個だけあります」と宣言し、様々な音楽に合わせ「○○のあるある早く言いたい♪」という替え歌でなかなか「あるある」を言わず、「早く言えよ!」とみんなにツッコまれるのが定番だ。そして、RGは最後の最後で、時にしょーもない、時に見事な「あるある」を披露する。
とかく今のテレビでは短い時間でオチが求められるにも関わらず、その風潮とは真逆をいく時間のかかるネタだ。
今をときめく星野源もそんなRGを絶賛するひとりだ。
万物に「あるある」は存在する
そんなレイザーラモンRGが「あるある」を駆使した共感術を著した『人生はあるあるである』(小学館よしもと新書)を上梓した。
いわゆる“ネタ本”ではない。「終章」でRGはこう書いている。
そうして得た「あるある」を随所にはさみながら、東野幸治をして「人生すごろく」と形容された紆余曲折の芸人人生を、子供時代にも遡りながら綴った自伝的な内容だ。その時々にRGを支え、助けたのが「あるある」を見つけるという生き方だったのだ。
この本を書くことになった直接のきっかけは、12年9月1日に放送された『オードリーのオールナイトニッポン』(ニッポン放送)だったという。
この番組にゲスト出演したRGはこう主張した。
さらにすべての表現活動は「あるある」であり、突き詰めれば日本語のような言葉すら「あるある」から生まれたものだ、と持論を展開する。
さらに「あるある」は「真理」だと主張し、ならば自分は「真理芸人」といって過言ではないと飛躍すると、「RGさん、あの……、何言ってんですか?」と笑う若林にRGは自信満々に答えた。
さらにRGは「あるあるは5文字で言うのがいちばん気持ちいい」と自らハードルを上げた上で、リスナーから寄せられた「OLあるある」というお題に対して放ったあるあるが、「羽織りがち」。
その見事な「あるある」に感動した編集者が「あるあるで悩んでる人を助けて欲しい!」と本書の企画を持ち込んだという(RGのツイッターより)。
「あるある荒行」の果てに
RGが「自分にしかできないもの」をハッキリと自覚したのが、2011年3月11日、すなわち東日本大震災の日だったと、本書の「序章」で綴っている。
RGはその日、「あるある」をオールナイトで歌い続けるという、どうかしているイベントを開催する予定だった。
しかし、当然ながら地震の影響でイベントは中止になった。
無数にやってくるお題にひたすら「あるある」を返していく「あるある荒行」に「あるあるハイ」になったRGが挑む。それは一見、どうかしている行動だ。
それを「不謹慎だ」と訳知り顔で訝しむ人もいた。けれど、「不謹慎だと思う人はフォローを外してください」と意に返さず、ひたすらそれを必要とする人がいると信じてRGは人と人との間に「あるある」を作り続けた。芸人の性としてそうせざるを得なかったのだろう。そのどうかしているバカバカしさと「不謹慎」に僕らは笑い救われたのだ。
あるあるライブの前身は「RGのカラオケを朝まで聞かされる会」だった。最初の参加者はわずか4人。普通のカラオケボックスで開催された。それが「あるあるカラオケ」となり、次第に噂が拡がっていき、劇場でのあるあるライブになった。
まさに震災の時の「あるある荒行」は、「RGのカラオケを朝まで聞かされる会」と同様に、その時にできることを、その時にできる場所で行ったものだろう。
そうした行為が結果的に未来の自分を支えてくれるのだ。
RGは、日本中が苦境に立たされた中、ツイッターで人生や世界を肯定する「あるある」を力強く言い放った。