「おかえりモネ」の竜巻は実在したか 調べていたら気象庁記録の誤植を見つけた
先週の朝ドラ「おかえりモネ」では、2019年9月の状況が描かれていました。このドラマは実際の出来事とシンクロしていて気象についても「よく調べてあるなぁ」と、毎回、感心して見ています。
ドラマの中で「台風12号」が近づいている先週の金曜日には、まさにリアルタイムで台風14号が統計史上初めて福岡県に上陸し、現実を予測しているような展開だと思いました。
モネの実家が竜巻に遭遇
ドラマの中で描かれた「台風12号」のモデルは、2019年の台風19号だと思います。この19号は首都圏を直撃し、長野県の千曲川が氾濫するなど各地で大災害をもたらしました。これは、のちに令和元年東日本台風と命名されています。
一方、ドラマでは「台風12号」が通過したあと、モネ(清原果耶)の故郷である気仙沼に、竜巻が襲来したとの視聴者の投稿が寄せられます。
それを聞いて気象キャスターの朝岡(西島秀俊)は、思わず ”今ごろ、どこに!” と、声を発します。
朝岡が疑問に思ったのも理にかなっています。竜巻は台風の接近時や台風域内で発生することはよくありますが、台風が通り過ぎたあとは、台風の下降流で竜巻が発生するような状況にはなりにくいからです。実際、台風19号(令和元年東日本台風)のあとに竜巻は発生していません。
しかし、ドラマ内の投稿画像には、はっきりとウォータースパウト(水上竜巻)が捉えられていました。
そしてこの竜巻が、モネの実家の牡蠣棚に被害をもたらしたのです。
過去に宮城県で発生した竜巻
そこで、今回ドラマ上の設定である気仙沼で、過去に竜巻が起きたことがあるかどうかを調べてみました。
気象庁の突風分布図によると、宮城県内では1991年~2019年の間に、スケールJEF1の突風が13個発生しており、その中の一つがドラマの舞台でもある気仙沼市に近い、宮城県本吉郡唐桑町で起こっていたことが分かりました。
さらに詳しく調べると、1992年8月7日に、南海上にある台風10号と、北日本に伸びる寒冷前線によって竜巻が発生したことが分かったのです。
唐桑町というのは、現在は気仙沼市に編入されており、モネの舞台とされる亀島(架空設定)に近い所です。したがって、今回ドラマの中で、亀島大橋付近(架空設定)で竜巻が起きたことも、過去のこの竜巻がモデルになったと考えてもかまわないでしょう。
つまり、「台風12号」は令和元年東日本台風がモデルであり、「竜巻」は1992年8月7日に発生した竜巻がモデルになった、と私は思うのです。
竜巻の強さ・藤田スケールとは
では、ドラマの中で起きた竜巻と見られる突風はどれくらいの強さだったのでしょう。
竜巻のような局地的な現象を、瞬間的に観測することは困難です。しかし今から50年ほど前、逆転の発想をした日本人がいました。「観測できなければ、その被害状況から風速を推測することができるのではないか」
こう考えて、過去の被害状況と風速の関係を割り出し、それをスケール(ものさし)にしたのです。
このスケールを考えたのが、藤田哲也という日本人です。ちなみに藤田は、原爆投下直後の広島と長崎で被害状況をつぶさに観測しました。そのときの経験が基になって、のちにダウンバーストの発見につながったと自著で述べています。
藤田が考えたスケールは、藤田の頭文字を冠して、F-Scale(藤田スケール)と呼ばれ、現在、世界中で使われています。
日本でも、この藤田スケールを日本の構造物に対応させた「日本版改良藤田スケール(JEF)」として、風速を推定しています。
上記はJEF0と推定される場合の被害の状況です。モネの実家の被害の様子から、これを見ると、おそらくJEF0~1くらい、風速でいうと秒速30~40メートルくらいではないでしょうか。
気象庁資料に誤植も
今回の記事を書くにあたり、様々な資料を調べましたが、上の資料を見ると、唐桑町で1992年08月07日16時04分に発生した竜巻が、1987年08月07日16時09分に消滅したことになっています。この「1987年」は、あきらかに1992年の誤植でしょう。
こうした資料は、古いものはほとんど検証されませんので、このような誤植をみつけられたのも、今回のドラマがあってこそだと思いました。
今日は休日なので、この指摘を明日、気象庁に伝えます(笑)。
参考
ドクター・トルネード 藤田哲也 世界にその名を残す「ある気象学者の一生」 著 藤田 哲也 、藤田 碩也 藤田記念館建設準備委員会