グーグルの人間ゴキブリホイホイ特許はベンツが40年前に通った道だった
「米グーグル、自動運転車用接着剤で特許 接触事故の二次衝撃防ぐ」というニュースがありました。自動車と歩行者の衝突時にボンネットにハエ取り紙やゴキブリホイホイのように歩行者を粘着させることで衝突事故時の衝撃を和らげるという特許です(単なる公開ではなく権利化であることにご注意ください)。
突飛なアイデアのように思えますが、自動車事故による歩行者の被害は、最初の衝突よりもクルマにはね飛ばされて地面に衝突する衝撃によるものが大きいのでそれなりの合理性はあります。また、常に粘着剤が露出しているとゴミや虫等がくっついて大変なことになるので、粘着剤の外側に保護層を設けて衝突で保護層が壊れた時のみ粘着剤が露出するというアイデアになっています。
米国特許番号は9340178号、特許公報はこちらです(固定リンクが張れるので便利ですね)(登録から間もないのでまだGoogle Patentには掲載されていません)。
クレーム1の内容は以下のようになっています(日本語仮訳は栗原による)。
さすがにグーグルの発想はすごいと思われるかもしれませんが、本特許の審査経過を見るとそうでもないことがわかります。DE2804400(「自動車ボンネットの安全カバー:ボンネットと衝突した歩行者を確保するための粘着剤を放出する変形可能な発泡体」)(元文献はドイツ語、発明の名称は栗原訳)というダイムラーベンツ社の特許公報を先行技術として新規性が否定されています。このベンツの特許では、ボンネットに粘着剤層を設けて歩行者をくっつけるというアイデアが既に開示されています。なんと、1978年の出願です。実は約40年前に出ていたアイデアということです。
この暫定拒絶に対して、グーグルは上記クレーム1における「前記保護層と前記粘着層の間にはひとつ以上の空気層が設けられており」という限定を加えることで対応して権利化しています。
このアイデアが実際にうまくいくのか(高速で衝突する人間を瞬間的にくっつけられるほど強力な粘着剤があるのか、その粘着剤を長期間安定してクルマに保持できるのか、衝突後に人間をくっつけたままでひきずったり電柱に衝突したりするとかえって危険な状態にならないか)については、現段階では何とも言えないと思います。また、仮にこの発明が有効であるとしても、グーグルの特許が必須になるのか(つまり、上記の空気層が必須なのか)という点も微妙なところです。
いずれにせよ、さすがグーグルは目の付け所が違うというのはあまり正しくなく、目の付け所が違うのはこのアイデアを約40年前に思いついていたダイムラーベンツ社と言うべきでしょう。