北欧が示す未来:AI時代に求められるリーダーシップとリスキリングの必要性
北欧ノルウェーで開催されたSHEカンファレンスは、社会貢献を目指すリーダー、経営者、投資家にとっては必見のイベントだ。今年で10周年を迎えるこのカンファレンスは、「Social(社会) Human(人間) Equity(公正)」の頭文字を冠し(SHE)、ESG戦略を推進する場として定評がある。今回は「AI時代のリスキリングと必要とされる人材」にも焦点が当てられた。
ノルウェーのストーレ首相は、開会の挨拶で、昨年の日本訪問時のエピソードを紹介した。性別の違いが際立つ日本とノルウェーの代表団を例に、「どうして、女性がそんなに多いのですか」と驚かれたことをふまえ、「ノルウェーでは男女が平等に教育を受けることができる」と、教育無償化がデジタル化時代のリスキリングに不可欠であることを強調した。
AI時代の教育と職場環境
さまざまなセッションでAIは語られたが、このようなことが議題にあがった。
- デジタル化により人とのコミュニケーションが減り、「意見が合わない」ことを嫌がる人が増えた。しかし、「他者から学ぶ」ことこそが「ダイバーシティ」につながるのであり、「意見が違っていても、いい」社風を育てていかなければならない
- 「意見が同じグループ」を作らないように。自分たちの同じような声しか響かない風船の中にいてはだめ
AI時代のリスキリング
- 社員は給料よりも「新しいことを学ぶ」ことに飢えている
- 社員の「学びたい飢え」に、企業は気づき、応える必要がある
- しかし、現代のライフスタイルでは学び直しの時間がない。政府は率先して対策を立てる必要がある
AI時代に必要とされる人材とこれから
- AIには不可能な「人間性」「感情面」が豊かな人材がより必要とされる
- リーダーはさらに「人らしさ」が求められるようになる
- テクノロジーに囲まれて育つ子どもにどう向き合うか。もっと創造性や想像が豊かな子どもに育てるには?
- 先生たちがAIに対して、どうしていいか分からずに当惑している。この状況をなんとかしないと、子どもたちが不公平な環境下で育つことになる
- ダイバーシティやインクルージョンのためには規制が必要なように、AIにも規制が必要である
AI時代に子どもたちはどう育つのか
SHEカンファレンスはリーダーや投資家など、すでに企業キャリアが長い人々の集まりだ。その人たちが企業文化や働き方を話し合うなか、「自分たちの子どもがこれからどう育つのか」「先生が困っている」ということが時に話題となることが気になった。
テクノロジーの発達や予想不可能なAI時代のなか、自分たちの子どもや未来の社員がどう育っていくのか、上の世代としてできることをしなければいけないという意識があるようだ。
リスキリングする時間なんてないから、政府がなんとかして
また、日本人や他の欧州の人とも比べても、プライベートな時間が多いだろう北欧ノルウェーの人々が、「学び直しをする時間は、現在の労働時間や夕方にはもうない」と指摘するのは小さなカルチャーショックだった。
ジョギングやクロスカントリースキーをする時間を減らしてまで学ぼうとはならず、学び直しをするための時間の確保をリーダーや政治家に期待するのは、北欧マインドセットといえるだろう。
これからの北欧リーダーシップ
欧州の中でも北欧のリーダーシップは独特である。偉そうなリーダーは求められず、社員と対等に、平等などを大事にして、みんなの意見に耳を傾ける人が好まれる。
SHEカンファレンスでは、「現代人のメンタルヘルスの悪化の要因」はそもそも「悪いリーダー」だと指摘された。だからこそ、これから求められる「偉大なリーダー」とは、「正直で、オープンマインドな人」であると。
うつ病というメンタルヘルスを正直に公にするリーダー、移民背景などがある社員でも「安心して通勤できる社風を提供できるリーダー」など、ビジネス界で重宝されるリーダーはこれから変わっていくことも指摘された。
AIで働き方がどう変わるかは、北欧でも注目のテーマだ。このカンファレンスが示したのは、AI時代においても不変の「人間らしさ」の重要性といえるだろう。リーダーたちがいかにして新しい時代の流れに適応し、より良い企業文化を築くかがこれからの課題となりそうだ。