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瀧内公美が連作映画『蒲田前奏曲』で主演 「表層的でない説得力を出す覚悟を持ってカメラの前に立ちます」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
撮影/松下茜 ヘアメイク/藤原玲子 スタイリスト/小宮山芽以 衣装協力/那由多

『彼女の人生は間違いじゃない』や『火口のふたり』で映画賞を受賞するなど、観る者の胸に残る演技を見せる女優・瀧内公美。4本の作品の連作スタイルで、女性から見た社会への皮肉を描く映画『蒲田前奏曲』の1作に主演している。#MeTooをテーマにした作品でセクハラを受けた女優を演じて、今回も強烈なインパクトを残した。

激しさや狂気が似合うと思われたのかな(笑)

『蒲田前奏曲』は女優の松林うららが企画・プロデュース。4人の若手実力派監督が撮った4作すべてに、同じ女優・蒲田マチ子役で出演している。瀧内が出演したのは第3番『行き止まりの人々』で、インディーズ映画のオーディションでマチ子と出会う女優・黒川瑞季役。その映画の監督からパワハラを受けた過去があるが、監督は彼女を覚えていなかった……。

――『行き止まりの人々』は映画のオーディションを巡るストーリー。実際のオーディションで、監督とあんなふうに険悪な空気になることはありました?

瀧内  ああいう怒り方をすることはないです(笑)。でも、最初の頃は自分が持ってきた演技を否定されているような怖さがあって、ションボリしちゃって。「全然ダメなんだ」と思ってしまうことがありましたけど、考え方が変わってきました。どこの現場だったか、「別パターンをください。編集でちょっと悩みたいので」と言われて、そういう考え方もあるんだと。

『蒲田前奏曲』より (C)2020 Kamata Prelude Film Partners
『蒲田前奏曲』より (C)2020 Kamata Prelude Film Partners

――監督も必ずしも明確な答えを持っているわけではない、ということですね?

瀧内  「答えは1コだけではない」と思わせてくれました。それから前向きになって、このパターン、あのパターン、こんな解釈もできる……って、自由度が広がりました。

――6年前の初主演映画『グレイトフルデッド』はオーディションで決まったんですよね? 何か覚えていることはありますか?

瀧内  釘で相手の目を刺して自分のことを訴える……というシーンを、朝の10時半からやりました(笑)。あとは、濡れ場やハードなシーンが多い作品でしたので、「できますか?」「できます」みたいな受け答えをしたのは覚えています。

――孤独な人間を観察するのが趣味で、その楽しみが壊れて狂気に走る役でしたが、選ばれる手応えはありました?

瀧内  全然なかったです。そういう役に合っていたのかわかりませんし、できたら面白いけど自分ができるのか、半信半疑な感じでした。

――昔からクセのある役が得意な感覚があったわけでもなくて?

瀧内  全然ないです。でも、『グレイトフルデッド』をやらせていただいてから、激しさや狂気、バイオレンスのある露悪的な作品に呼ばれることが続いて、そういう役が似合うと思われたのかなぁ、って(笑)。作品の中でしかできない体験に、不安と楽しさがありました。

撮影/松下茜 撮影協力/リョーザンパーク
撮影/松下茜 撮影協力/リョーザンパーク

怒る場面は心の奥のマグマが沸き上がったんです

――『行き止まりの人々』の黒川瑞季も、睨む顔とか怖い感じがしました。

瀧内  まず#MeTooやセクハラがテーマということで、松林うららさん、監督の安川(有果)さんと3人でお話させていただきました。私自身が普段から、そういうことに関心を持って考えていたわけではないので。それで、黒川のような人は現実にはなかなかいない気がしたんです。ハラスメントに関しては、当事者が言えないから問題が起きることもあるわけで、そういう立場なのが松林さん演じる蒲田マチ子ですけど、黒川はそれを言うために来ている。リアリティどうこうは忘れて、目的をまっとうするしかないと感じました。

『蒲田前奏曲』より (C)2020 Kamata Prelude Film Partners
『蒲田前奏曲』より (C)2020 Kamata Prelude Film Partners

――キレて「おいクソ!」とか「ふざけんなマジで!」と言ってましたが、オムニバスの1作で役に対する情報量が少ない中、黒川のキャラクターや背景については、どう考えました?

瀧内  私の中では、黒川は自分が役を得られると思って、卑猥なことをされるかは別にして、ワークショップを受けたあとに監督に会いに行ったであろう……という説もあって。自責の念と後悔で気持ちの浮き沈みを繰り返しながら、「#MeTooをテーマに映画を撮りたい」という監督に「きれいごとじゃない?」と怒ったのは、違うことは違うと言いたい心の奥の声がマグマのように沸き上がったと思いました。

――ああいうふうに感情を爆発させることは、瀧内さんもありますか?

瀧内  「クソ」とは言いませんけど「ふざけんな」くらいはあると思います(笑)。でも、頭が沸騰しながらも、「なぜこういうことが起きているのか?」「相手はどうしてこんなことを言うのか?」と冷静に考えます。怒りはクリエイティブにならないと思うんですよ。なので、そういう感情になったときは物ごとを動かすのはやめたほうがいいと、常に制御をかけます。

――オーディションのシーンの中で黒川がマチ子に対してセクハラをする演技は、思わず突き飛ばされるのも無理ないくらい、イヤな感じがしました(笑)。あそこは試行錯誤があったんですか?

瀧内  台本通りにやっていて、リハーサルでは松林さんと2人でどう構築していくか考えました。本番では、監督や審査する側の皆さんが入ったら、どんな反応になるかディスカッションを踏まえて、いろいろなパターンを撮りました。自然にうまく行ったわけではなくて、皆さんと力を合わせて作っていった感じですね。

撮影/松下茜
撮影/松下茜

やさしい役でも「またいじめるの?」と思われて(笑)

――でも、瀧内さんは演技として、イヤな感じの出し方は絶品ですよね(笑)。自粛期間中に再放送された『凪のお暇』で、主人公の凪を退職に追い詰めた同僚役とか。

瀧内  いじめているのでなくてイジっているんだ、という感覚で、本人はわりと悪気はないんです(笑)。「面白ければ良くない?」という、その場のノリみたいなものがああいう形で出てしまって。黒川みたいに怒りで来るとイヤだけど、笑顔で行くとかえって怖い。『凪のお暇』では、そういう感じを出しました。

――そこは演技プランがあって。

瀧内  そうですね。「こういうふうに表現したら面白いんじゃないか?」ということは常に考えています。

『蒲田前奏曲』より (C)2020 Kamata Prelude Film Partners
『蒲田前奏曲』より (C)2020 Kamata Prelude Film Partners

――演技がリアルな分、瀧内さん自身も役のような人だと思われがちではないですか?

瀧内  『凪のお暇』の頃は、「意地悪な人だと思った」と言われました。その次に『恋はつづくよどこまでも』に出させていただいたとき、「またヒロインがいじめられる」と思った視聴者の方がいたみたいで、「今回はやさしい先輩で安心しました」というお手紙をもらいました(笑)。

――素の瀧内さん自身はそっち寄りの人間?

瀧内  穏やかなときもあれば爆発するときもありますし、鋭いときもあれば何も考えてないときもあります(笑)。人間は多面的なので。でも、ウソはつかずにフラットに立っている感じではいます。あまり我慢はしないですね。

――今まで演じてきた中で、特に難しかった役はありますか?

瀧内  全作品、悩みました。テストやリハーサルから何回も違うものを出して、「これじゃないのか? これなのか?」とかいろいろ試してやるので、ご迷惑をお掛けしながら参加しています。「説得力があるのか?」というところで、いつも悩んでいます。

――それだけ考えるからこそ、役に良い形で出るんでしょうね。

瀧内  出ていてほしいです。面白い脚本があって、私はそのまま演じるだけなので。

撮影/松下茜
撮影/松下茜

小津安二郎監督のような普遍的な作品が好きです

――自分でも映画はよく観ますか?

瀧内  演劇も含めて月に何本かは劇場で観ていたので、自粛期間に2ヵ月弱、映画館に行けなかったのは、フラストレーションが溜まりまくりました。家でエクササイズをして発散してましたけど、配信で映画を観ても、ちょっと寂しいところがあって。でも、慣れてきたら配信もいいものですね。劇場を移動しなくても次の映画が観られて、手軽だなと思います。

――好きな映画の傾向はありますか?

瀧内  ウディ・アレンの作品は好きです。最新作の『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』も観ました。あと、韓国のホン・サンス監督も好きです。

――邦画だと、瀧内さんの出演作で多い感じの新宿武蔵野館でかかるような作品ですか?

瀧内  劇場で言ったら、私は神保町シアターが好きなんです。むしろ昔の作品を劇場で観たくて。最近だと小津安二郎さん。あとは溝口健二さん、川島雄三さんの映画を劇場で観ました。

――本当に昔の、モノクロ映画時代の巨匠たちの作品ですか。

瀧内  そうですね。普遍的なテーマを掲げている作品が好きなんですね。

撮影/松下茜
撮影/松下茜

現代社会のことも勉強して演じていけたら

――女優として刺激を受けた作品もありますか?

瀧内  たくさんあります。『モンスター』のシャーリーズ・セロンは素晴らしいですし、最近だとキム・ミニという韓国の女優さんの作品は公開されたら必ず観に行きます。勝ち気で戦う女優という感じで、さっき言ったホン・サンス監督の『夜の浜辺でひとり』なんて、本当にカッコイイんです。お芝居なんだけど「生きてるな」と感じさせてくれます。

――そういう女優さんに自分もなりたいと?

瀧内  カッコイイ女優さんは好きですね。マーゴット・ロビーもハーレイ・クインの役をやったり、『アイ,トーニャ』のフィギュアスケート選手の役は勝ち気だったじゃないですか。私も技術力を付けて、ああいう役をやってみたいなと思います。

――そういうことも含め、30代に入った瀧内さんは今後に向け、どんな女優像を展望していますか?

瀧内  年齢と共に役柄が変わってきて、母親役もいただきますけど、私自身は結婚も出産も経験してないので、表現するのは難しいです。生きている中で、みんなが何に葛藤しているのか。社会的弱者と呼ばれる人間を演じさせていただくこともあるので、現代社会のことを何も知らずに突っ込んでいくと、表層的になってしまう。だから、いろいろ勉強したいです。イメージで説明的な感じにはしたくない。役に説得力があるよう、覚悟を持ってカメラの前に立つことを常に意識しながら、年代に合わせて役を楽しんでいけたらと思います。

撮影/松下茜
撮影/松下茜

Profile

瀧内公美(たきうち・くみ)

1989年10月21日生まれ、富山県出身。

2012年より本格的に女優活動を開始。2014年に映画『グレイトフルデッド』で初主演。2017年に公開の主演映画『彼女の人生は間違いじゃない』で日本映画プロフェッショナル大賞の新人女優賞、全国映連賞の女優賞。2018年公開の主演映画『火口のふたり』でヨコハマ映画祭の最優秀新人賞、キネマ旬報ベスト・テンの主演女優賞。その他の主な出演作は、映画『夜、逃げる』、『日本で一番悪い奴ら』、『カゾクデッサン』、ドラマ『ゾンビが来たから人生見つめ直した件』、『凪のお暇』、『恋はつづくよどこまでも』など。映画『裏アカ』、『由宇子の天秤』が2021年に公開予定。

『蒲田前奏曲』

監督・脚本/中川龍太郎、穐山茉由、安川有果、渡辺紘文

9月25日よりヒューマントラストシネマ渋谷、キネカ大森ほか全国順次公開

公式HP

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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