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「アイドル戦国時代」から10年。大手芸能事務所の参入と撤退を振り返る

斉藤貴志芸能ライター/編集者
アイドルコンサートの聖地・中野サンプラザ(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

コロナ禍の直撃を受けた業界のひとつであるエンタメ界。中でもアイドルは濃厚接触を生む握手会イベントありきでCD発売も組まれていて、岐路に立たされている。折しも今年は「アイドル戦国時代」と言われてから10年。ブーム的な盛り上がりからカルチャーとして定着してきた中で、大手芸能事務所もアイドル界に参入し、撤退もしてきた。この10年余りの流れを振り返る。

AKB48を追う群雄割拠からシーンが活況に

 「アイドル戦国時代」という言葉がアイドル自身から最初に公に発せられたのは、2010年4月、C.C.Lemonホール(渋谷公会堂)でのこと。ハロー!プロジェクトの真野恵里菜とスマイレージのジョイントライブが行われ、プロデューサーのつんく♂がスマイレージのメジャーデビューを発表。それを受けて、メンバーの福田花音が「アイドル戦国時代と言われてますが、先頭を突っ走っていけるように頑張ります!」と宣言したのだ。

 当時のアイドル界は1強を追い、まさに群雄割拠の様相だった。その数年前まではモーニング娘。やBerryz工房、℃-uteらを擁する老舗のハロプロ、2005年に結成されて秋葉原の専用劇場を拠点に“会いに行けるアイドル”を謳ったAKB48、2006年にフジテレビのCS番組から生まれたアイドリング!!!の三極。そこからAKB48が2009年に「RIVER」で初のオリコン1位になったりと飛び抜け、連続ミリオンセラーなど数々の記録を塗り替えて国民的アイドルグループとなっていく。

 一方でハロプロやアイドリング!!!もセールスを落としたわけでなく、AKB48に引っ張られる形でシーン全体が活況に。インディーズや地方アイドルにまで波及した。握手会のための複数買いが多いとはいえ、CDがコンスタントに売れる。そんなブームに乗り、これまでアイドルに手を出さなかったり、力を入れてなかった大手の芸能事務所も、相次ぎ参入を始めた。

女優系のスターダストがアイドル界でも一大勢力に

 その筆頭が、ももいろクローバーZのスターダストプロモーションだ。常盤貴子、柴咲コウ、竹内結子、北川景子ら女優のイメージが強い事務所だったが、沢尻エリカのマネージャーだった川上アキラ氏が、「別に」発言からの彼女の休業(後に移籍)もあり、2008年結成のももクロに携わってアイドル界に打って出ることに。

 事務所は大手とはいえ、アイドル界では新顔。ももクロは路上ライブやワゴン車移動の全国キャンペーンでのCD手売りで地道にファンを増やし、アイドル戦国時代が宣言された2010年にメジャーデビュー。2012年から3年連続で紅白歌合戦に出場し、西武ドーム、日産スタジアム、国立競技場と大規模ライブも次々と成功。AKB48の対抗馬の一番手にのし上がった。

 スターダストからはももクロに続き、グループ名が事務所の所在地に由来する私立恵比寿中学、名古屋が拠点のチームしゃちほこ(現TEAM SHACHI)、大阪のたこやきレインボー、福岡のばってん少女隊など続々とデビュー。社内では、これらのグループによる女性アイドル部門「STARDUST PLANET」が、川上氏を中心に2017年に創設された。今やアイドル界の一大勢力となっている。

エイベックスは初のアイドルオーディション開催

 浜崎あゆみ、Every Little Thing、AAAら数々のアーティストを輩出したエイベックスも、2009年12月から「avex アイドルオーディション2010」を開催。同社では初の、アイドルグループ結成のための一般オーディションだった。2010年6月に最終審査が行われ、選ばれた12人でSUPER☆GiRLSを結成。同年12月に、新設のアイドル専門レーベル「iDOL Street」からデビューした。その後、2013年にCheeky Parade、2014年にGEM、2016年にわーすたと、コンセプトが違う4グループが同レーベルから生まれている。

 この2010年には、サザンオールスターズ、福山雅治、深津絵里、上野樹里らが所属するアミューズからも、さくら学院がデビュー。同社ではアイドル戦国時代より前に、元は広島の地方アイドルだったPerfumeをブレイクさせているが、中田ヤスタカのプロデュースによるテクノ路線で握手会なども行わず、アーティスト寄りの手法だった。

 さくら学院は“成長期限定ユニット”と銘打ち、メンバーはすべて小・中学生。学校をコンセプトにしてクラブ活動もあり、中学卒業と同時にグループも卒業するシステム。現在までメンバーが毎年入れ替わりながら活動を続けている。2011年度の卒業生には、女優やモデルで活躍中の松井愛莉と三好彩花がいた。

 また、クラブ活動のひとつでヘヴィメタルに取り組む重音部がBABYMETALとなり、2013年にメジャーデビュー。世界的な人気を博し、2016年には東京ドーム公演も。アイドルとテクノを融合したPerfumeでのノウハウが、アイドルとへヴィメタの融合に生きた面もある。

吉本興業などお笑い事務所からも参戦

 以前からあったグループを、アイドル戦国時代に乗って強化したパターンもある。お笑い事務所の吉本興業は“よしもと初のアイドルユニット”と謳ったYGAの売り出しに掛かった。もともとは2007年に「ルミネtheよしもと」7周年キャンペーンの一環で作られて、架空のアイドル事務所との設定(社長が南海キャンディーズの山里亮太)。

 メンバーも当初は若手女芸人や吉本新喜劇の役者が中心で、あからさまなおデブがアイドル衣裳を着たりと、パロディ色が強かった。それがアイドル界の盛り上がりの中でメンバーが入れ替わり、2009年には普通のアイドルグループとして活動するように。

 とはいえ、吉本所属だけにライブ中にコントや漫才のコーナーもあり、メンバーは「トークが面白くないと怒られる」と、芸人ばりに普段からネタ帳を持ち歩いていた。品川プリンスホテル内にあった「よしもとプリンスシアター」での定期イベントも。

 渡辺謙、高橋克典、坂口憲二らが所属していたケイダッシュ系列のお笑い事務所・ケイダッシュステージでは、はなわのネット番組から2006年にヲタク系アイドルユニット、中野腐女子シスターズが結成されていた。おバカタレントとしてブレイクするスザンヌも一時在籍。男装して腐男塾(現・風男塾)としても活動し、2008年にCDデビューしたが、アイドル戦国時代となって他グループとの差別化のため、2011年からは風男塾1本に絞っている。

同じ事務所の女優が主演するドラマの歌を担当

 新垣結衣、長谷川京子、吉川ひなのらが所属するレプロエンタテインメントでは、ジュニアファッション誌モデルら9人で9nine(ナイン)を2005年に結成。2007年には女優として期待されていた川島海荷が加入するなど、メンバーを入れ替えながら活動していたが、2010年に合宿審査で改めてメンバーを決めてリニューアル。川島らの5人組としてレコード会社も移籍し、再始動した。新垣主演のドラマ『リーガルハイ』のオープニングテーマ「Re:」も歌っている。

 レプロからは2012年にベイビーレイズもデビュー(後にベイビーレイズJAPANと改名)。事務所の先輩でアイドリング!!!の菊地亜美がバックアップしてPRに務めた。2013年には同じレプロ所属だった能年玲奈(現のん)主演の朝ドラ『あまちゃん』で、劇中のアイドルグループが歌う「暦の上ではディセンバー」の音源の歌唱を担当。自分たちのシングルヴァージョンもリリースし、紅白歌合戦の企画コーナーにも出演した。

 事務所の規模としては大手でないが、堀北真希、黒木メイサ、桐谷美玲ら人気女優を育ててきたスウィートパワーからも、桜庭ななみら若手5人組のbump.yが2010年にCDデビュー。同社の社長が歌好きで、音楽界進出は念願だったという。

21年ぶりや40年で初参入の老舗事務所も

 70年代の桜田淳子から80年代の松田聖子、早見優、酒井法子らで往年のアイドルブームを支えた老舗のサンミュージックからも、21年ぶりのアイドルとなるさんみゅ~が2012年に結成。グループ名は創業者の相澤秀禎会長(当時)が、社名をもじって直々に付けたもの。

 デビュー曲の「くちびるNetwork」(原曲は岡田有希子)を始め、当初は往年の楽曲のカバーが中心。オリジナル曲も80年代っぽく、王道アイドル路線を看板にしていた。一方、事務所の先輩のベッキーが作詞&衣装デザインした「トゲトゲ」という曲も。

 ユニコーン、真心ブラザーズ、木村カエラ、西野カナら多くの人気アーティストが所属していたソニー・ミュージックアーティスツ(SMA)では、設立40周年で初のアイドルグループとして、アイドルネッサンスが2014年に結成。“名曲ルネッサンス”をテーマに、デビュー曲となったBase Ball Bearの「17才」から村下孝蔵の「初恋」、大江千里の「YOU」など、当初はSMAの先輩の曲を中心にカバーに取り組んだ。

ブームがピークを過ぎると相次ぎ解散

 こうしたアイドルグループの多くは、CDがオリコンTOP10入りするなど、それなりに結果は残している。ただ、売り方としてはアイドルの定番で、CDや予約に握手会などの特典を付け、固定ファンの複数買いに支えられたケースが大半。ももクロ以降、世間的に知名度が広がったのはBABYMETALくらいだ。そのBABYMETALは逆に握手会などいわゆる接触系イベントを行わず、ももクロも早い段階で取りやめている。

 そして、ブームがピークを過ぎると、参入より解散が相次いだ。いち早く撤退したのは吉本のYGA。2012年にはシングルがオリコン2位に入るなど健闘も見せたが、2013年3月には“全員卒業”に。吉本だけに儲からなければ即撤収ということだったのか。メンバーだった小泉遥は別のアイドルグループ、Doll☆Elements加入→解散を経て、現在は『王様のブランチ』でレポーターを務めている。スウィートパワーのbump.yも2014年に解散。個々の活動に戻り、桜庭と高月彩良は今も女優業で活躍中。

 2018年にはiDOL Streetの4組からGEMとCheeky Parade、SMAのアイドルネッサンスと解散。アイドルネッサンスのセンターで歌唱力が高かった石野理子は、女性ロックバンド・赤い公園にヴォーカルとして加入した。

 レプロではベイビーレイズJAPANが同年に解散、9nineが2019年に活動休止となり、アイドルから手を引いた。サンミュージックのさんみゅ~も今年3月をもって全メンバーが卒業。当初の10人組から5人になっていた。

 大手に限らず、ここ数年はアイドルグループの解散が相次いでいるが、大手ほどビジネスとしての成否にシビアで、それなりに人気があってメンバーは続けたがっても、終了の判断を下されることが多い。

大事だったのはタイアップよりストーリー

 大手事務所のアイドルは、楽曲にタイアップが付いたりメディア露出も比較的しやすいが、本当の意味でのブレイクにはなかなか至らなかった。ももクロ以降で世間に突き抜けたアイドルというと、でんぱ組.incがいるが、こちらは秋葉原のライブ&バー「ディアステージ」で接客しながらステージで歌っていたメンバーで結成したグループ。店内での数十人規模のライブから始めて、2014年には日本武道館公演を開催した。

 この頃、ブームの波に乗って武道館でライブを行うアイドルグループも少なくなかったが、AKB48などトップクラス以外はたいてい6割ほどの客入りで、席の一部をシートで覆っていたり。しかし、でんぱ組.incはアリーナをオールスタンディングにしたうえで、2階席最後部までギッシリ。見切れ席も開放して文字通り超満員の1万人を動員した。

 ディアステージを立ち上げたでんぱ組.incのプロデューサー、“もふくちゃん”こと福嶋麻衣子氏は「送り手側がお金だけかけてゴチャゴチャ作っても、ユーザーと一緒に作るストーリーがなければ響かない」と語っていた。

 最近だと“楽器を持たないパンクバンド”と銘打つBiSHがオリコン1位を獲得して『ラウンドワン』CMにも出演し、『アメトーーク!』では「BiSHドハマり芸人」の企画が放送されたりと注目を集めている。こちらも、BiSで全裸MVなど過激なプロモーションを展開したマネージャーの渡辺淳之介氏が独立した事務所・WACKで手掛けている。

 現在のアイドル界は乃木坂46がトップに立ち、AKB48も全盛期の有名メンバーがほぼ卒業しても根強い人気を保つ中、中堅どころは淘汰されて、安定感と地力のあるグループが残った。握手会文化はすっかり定着したが、このコロナ禍で緊急事態宣言の解除後でも、見直しは余儀なくされる。

 先が見通せずビジネスとしてリスクが少なくない状況で、おそらく大手事務所の新規参入は今後なくなり、さらなる撤退もあるかもしれない。トップグループも含め、ビジネスモデルにもなり得る新たな“ストーリー”の構築が、戦国時代後のアイドル界のカギを握る。

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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