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いくら何でも早過ぎでしょ! 次のアカデミー賞(R)、主演男優賞予想が豪華

斉藤博昭映画ジャーナリスト
連続受賞か? 第一次大戦100年のセレモニーでスピーチするエディ・レッドメイン(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

米国アカデミー賞授賞式から、ちょうど半年。早くも次回の賞レースの予想があちこちで始まっている。もちろん、賞狙いの作品はこれから公開されることが多いので、あくまでも「予想」。そんな早すぎる予想で、各主要部門の中で次回も接戦になりそうなのが、主演男優賞だ。

その理由は…話題を集めそうなキーワードがいくつもあるから。

悲願の受賞」「2年連続」「3度目の快挙」「2作でノミネート」「ハゲ頭で受賞」…。

今度こそ受賞したいです!

まず「悲願」で挙げられるのが、レオナルド・ディカプリオ。予想サイトのGoldDerbyで先頭を走り、AwardsCircuit.comでも2位の好位置につけている。対象作の『The Ravenant(原題)』は、前回、作品賞を受賞した『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』のアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥの新作。毛皮会社に雇われた男が、狩りの途中でクマに襲われ、仲間に裏切られ、壮絶な復讐劇になだれ込む物語。公開されている予告編だけでも、レオの苦悩と狂気の表情がトラウマになりそうなレベルで、観る者の心をつかんで離さない。これまで3度、主演男優賞にノミネートされ、そのたびに受賞の期待もかけられたレオ。『タイタニック』のようにノミネート“されるべき”作品も多かった彼だけに、今回は悲願の達成となるだろうか。

映画史上、最も“美しい”男性に!?

そんなレオ以上に話題を集めているのが、エディ・レッドメイン。『博士と彼女のセオリー』で前回の主演男優賞に輝いた彼は、今回もノミネートが有力。もし2年連続で受賞すれば、1993年度(『フィラデルフィア』)、1994年度(『フォレスト・ガンプ/一期一会』)のトム・ハンクス以来となる。『The Danish Girl(原題)』でエディが演じるのは、世界初の性転換手術に挑んだ男性。画家である妻のモデルとして、試しに女性の服を着たことから、眠っていた欲望を抑えきれなくなる。原作は実話を基にしており、日本でのタイトル(「世界で初めて女性に変身した男と、その妻の愛の物語」)にもあるとおり、過酷な運命を前にした夫婦の愛情がテーマなので、普遍的な感動も誘うのは確実。そして何より、女性に変身したエディの美しさは、これまで映画で描かれた「女装」の常識を大きく覆すはず。2年連続の感激スピーチも聞いてみたい!

さらに豪華スターたちが参戦

そのエディがめざす2年連続受賞記録をもつ、トム・ハンクスも有望だ。スティーヴン・スピルバーグ監督で、コーエン兄弟が脚本という、まさにオスカー好みのスタッフによる『ブリッジ・オブ・スパイ』(日本は2016年1月公開)で、冷戦時代、ソ連(当時)のスパイを弁護する主人公を演じるトム。複雑な演技が求められるうえ、実在の人物という点で、賞レースをにぎわせる存在になるだろう。ちなみに過去、主演男優賞3回受賞は、ダニエル・デイ=ルイスのみ。

2作のどちらか、あるいは両方でのノミネートが現実味を帯びているのが、マイケル・ファスベンダー。『Steve Jobs(原題)』で、タイトルのジョブズを演じているのだが、実在の人物「そっくり」になりきるのではなく、あくまでも内面の演技でアプローチしている点が高く評価されている。もう一本の『Macbeth(原題)』は、シェイクスピアの原作を基に、錯乱する主人公に体当たりの熱演を披露しており、ノミネート2枠独占というケースに希望をかける。

さらに密かに期待が高まっているのが、ジョニー・デップだ。『ブラック・スキャンダル』(日本は2016年1月公開)では、FBI史上、最高額の懸賞金をかけられたマフィアのボスで、薄毛になった哀れな外見でスクリーンに出てくるジョニー。変身好きの彼らしいが、その冷酷非情さが半端じゃないレベルに達しているようだ。共演がベネディクト・カンバーバッチなので、演技合戦も見ものになっている。

『The Danish Girl』と『ブラック・スキャンダル』は、先ごろ始まったヴェネチア国際映画祭でお披露目されるので、間もなく、評価がはっきりしてくるだろう。まだ半年先のアカデミー賞に向け、さらなる強力な候補者も登場してくるはずだが、いずれにしても、現在の予想では、主演男優賞候補が例年にないゴージャスな面々になりそうな気配なので楽しみだ。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、スクリーン、キネマ旬報、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。連絡先 irishgreenday@gmail.com

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