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東南アジアで影響力を失っていくロシア。制裁で1位の地位を返上か。

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者
カンボジアで船から降ろされるロシア製BTR-60装甲兵員輸送車。2010年(写真:ロイター/アフロ)

この影響力とは、物騒ながら武器の輸出の話である。

世界ではアメリカに次いで第2位の武器輸出国であるロシアは、東南アジアでは長い間トップの座にあった。アメリカ、中国、欧州連合(EU)を上回っていたのだ。

ところが、「ル・モンド」のレポートによると、2014年のロシアによるクリミア併合から現象に転じ、ウクライナ戦争でさらに大きく落ち込むことになりそうである。

ウクライナ戦争でのロシア軍の困難な様子、出回るイメージ画像などが、ロシア製の軍需品の評判を落としているのだという。

ストックホルム国際平和研究所によると、ロシアの東南アジア向け武器の売却額は、2014年の12億ドルから、2021年にはわずか1億900万ドルと激減している。この落ち込みは、ウクライナ侵略が始まり、今後も続くと見られている。

2017年、アメリカ議会は、ロシアから武器を購入する国に対して制裁を課すことを認める法律「制裁によるアメリカの敵対者への対処法(le Countering America’s Adversaries Through Sanctions Act)」を成立させた。これが東南アジアの国々にとっては制約となった。

オーストラリアのニューサウスウェールズ大学名誉教授のカーライル・セイヤー氏は、「ロシアから武器を買おうと思えば、そのリスクを計算しなければならなくなりました」という。戦争が始まって4ヶ月、ロシアへのさらに厳しい制裁がかかったことにより、「ロシアとのビジネスは難しくなりましたが、ロシアは今や排斥され、有害でさえあるのです」と語る。

東南アジアといっても、国によって状況は違う。

フィリピン、シンガポール、タイの3カ国は長年の西側の同盟国であり、ほとんどの兵器をワシントンから購入しているので、影響はないはずである。

特に例外的なのはベトナムである。

軍備の8割はロシア製だ。ソ連時代から両国は密接な関係を築いており、それが今ロシアへの依存という遺産につながっていると、セイヤー氏は言う。それでも、2014年のクリミア併合の時代、ベトナムは軍備の近代化計画を一時中断した。

また、中国に目を向ける国が出てくる可能性は、排除できない。奇妙な話で、南シナ海をめぐって、中国、ベトナム、マレーシア、インドネシア、フィリピン、ブルネイが関わる紛争が起きているのにもかかわらず、である。

ましてや、この争いからは遠いマレーシアとインドネシアは、誘惑される可能性があるだろうという。

一方で、この地域の富裕な国々は、すでに韓国、オランダ、ドイツからの武器輸入を行い、多角化を進めていると、セイヤー氏は指摘する。「ロシアの武器市場にアクセスできなくなることは、彼らにとっては問題ではないのです」。

これまでロシアは、欧米の競合相手より安価な軍需品、支払い面での柔軟性、契約に際して国内の人権問題を考慮に入れないことから、この地域で大いに武器を売ってきた。

しかし、今は「ロシアの武器を買うのは危険な賭けになっています」と、シンガポールのIseas-Yusof Ishak Instituteの研究者、イアン・ストーリィ氏は言う。「戦前、ロシアの兵器は堅牢で強く、東南アジアの国々に適していると考えられていました。でも、ウクライナで破壊されたロシアの軍備の映像は、購入を考え直させるでしょう」。

戦争が終わっても、ロシアに対する制裁が解除されるわけではないだろう。さらに、交戦国間の合意、賠償問題も生じてくる。その頃には、東南アジアの国々は、ロシア以外の他の市場に目を向けているに違いないということだ。

他の地域も、同じ現象が起きているのだろうか。ロシアへの制裁は、あらゆる方面でじわじわと功を奏してきている。だからといって、プレイヤーが中国にとって変わるだけになった、などということがなく、人の命の権利である人権をより重んじるようになり、世界が平和と軍縮の道へと進むと良いのだが。

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。元大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省機関の仕事を行う(2015年〜)。出版社の編集者出身。 早稲田大学卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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