日大田中理事長はだんまり作戦継続か、それとも記者会見か~第三者委員会最終報告書から今後の展開を考える
第三者委員会、最終報告書で厳しく断罪
7月30日、日大アメフト部の悪質タックル問題を調査する第三者委員会は最終報告書を発表しました。
5月6日の関西学院大・定期戦における悪質タックルから約3か月。想像以上に長くなった日大劇場は大きな転機を迎えたことになります。
第三者委員会の要旨は、日刊スポーツがまとめています。それと日本大学も公表しています。
日大、当初は第三者委に時間稼ぎを期待も
日大当局、田中理事長としては当初は第三者委員会を設置。ここで時間を稼ぐことによって、その後、甘い処分でお茶を濁すことを期待していたようです。
そうでなければ、内田・井上会見はもちろんのこと、大塚吉兵衛学長の会見(5月25日に日本大学本部、6月1日に文部科学省内でそれぞれ実施)において、
「意見がまったく違う。学生をかばうつもりはもちろんありますけど、どうしてあそこまで」
などと不満を漏らすはずがありません。
誤算だったのは、第三者委員会の勝丸充啓弁護士ら7人のメンバーが事前の予想以上に詳細な調査を実施。さらに厳しい内容を報告書に記載したことです。
背景にはSNS、パワハラ批判とバイキング
ここまで厳しい内容となった背景には世論の厳しい批判があったことも挙げられるでしょう。
厳しい批判を支えたのはSNS、パワハラ批判、バイキングの3点です。
まず、SNSですが、反則行為も含め、拡散していきました。迷走する日大の対応も含め、SNSの影響力抜きには、日大劇場の長期化は考えられません。
2点目のパワハラ批判ですが、この日大アメフト騒動以前もレスリングの伊調選手に対するパワハラやそれを否定する谷岡郁子・至学館大学学長に対する批判が強くありました。
日大アメフト騒動以降も、渡部直己・早稲田大教授のセクハラ・パワハラ(7月27日に解任)、水球女子日本代表チーム合宿の途中打ち切り・監督によるSNS投稿、日本ボクシング連盟への告発、早稲田大学交響楽団の金銭問題など、パワハラ問題が続出。いずれも批判を浴びています。
そして、日大アメフト騒動と言えば、フジテレビ系のワイドショー・バイキングです。番組公式Twitterによれば5月17日に取り上げて以降、7月31日現在、放送しなかったのは番組MC・坂上忍さんが夏休みだった7月第2週の2日間だけ。残りの放送日53日は全て取り上げています。余談ですが私も6月8日に出演して以降、相当な頻度で出演する機会をいただきました。
6月中旬以降は、他局のニュース番組・ワイドショーが取り扱いをやめる中(大きな動きがない以上、当然なのですが)、バイキングはずっと継続。
あまりのしつこさに耐えかねたか、田中理事長は6月15日の校友会で「『バイキング』で、さんざん笑い者にされちゃってるんですよね。ですから、なんでもかんでも出ていくといいものでもない」と発言。
これがまた、坂上さん(またはバイキングスタッフ、またはその両方)に火をつけたのか、ずっと続くことになります。
SNSでは「バイキング、日大ネタがくどい」など批判が強かったのですが、一方で安定した視聴率を獲得。7月に入ってからは批判がある一方、「安定の日大ネタ」「もうここまで来たらとことん追及してほしい」などの評価コメントも目立つようになりました。
もはやお家芸と化した「小出し・後手」は改善報告書・大学サイトコメントにも
このアメフト騒動を長引かせた背景は前記の通り3点。しかし、一番、長引かせたのは、他でもない日大の対応です。
小出し小出しの対応、そして後手後手に回る対応が世論の批判を集めてしまいました。
仮に、ですが、試合後に反則行為の指示を認めて、内田氏が監督をすぐ辞任していれば、ここまで問題が長期化することもなかったでしょう。
この「小出し・後手」は改善報告書や大学サイトコメントにもまだ出ています。
改善報告書には
「第三者委員会による事実認定を真摯に受け止め、これらを真実として尊重します」
とあります。
何というか官僚的な答弁であり、これは最終報告書が出た後の大学サイトコメントも同じです。
「第三者委員会の最終報告書における事実認定の部分は、本学が第三者委員会を設置した趣旨に鑑み、そのまま真実として受け入れます。また、再発防止策として提言された内容についても、重要なご意見として受け止め、検討の上、誠実に対応してまいります。」
悪く言えば、小学生の駄々っ子がいたずらを責められて不承不承、謝っているかのような印象を持つのは私だけでしょうか。
まさかの大塚学長の辞任シナリオで収まるか
第三者委員会の最終報告書は日大にとって想像以上に厳しい内容となりました。
今後の展開について、常識ではありえないのですが、日大ならやりかねないのが大塚学長の辞任シナリオです。
これは田中理事長の過去のスキャンダルを考えればあり得ます。
理事長就任後に起きたスキャンダルを田中理事長は「だんまり作戦」「トカゲのしっぽ切り作戦」で乗り切ってきました。
つまり、部下に対応を任せてご自身は一切話さない、そして、部下の首を切ることで自身の理事長ポストは安泰、というものです。
今回のアメフト騒動でも、部の問題として、当初はまず宮川選手に責任を負わせようとしていました。
続いて井上・前コーチ。それでも収まらず内田・前監督がその職を次々と辞任または解任していきます。
そして、中間報告で名指しこそされなかったものの宮川選手などに口封じをしたとされる井ノ口忠男・理事も解任します。
めぼしいポストにある関係者が次々と切られる中、残るのは加藤直人・アメフト部長と大塚吉兵衛学長くらいです。
このうち、加藤部長はいわゆる名誉職的なポストであり、その権限はあまりなかったであろうことは誰の目にも明らかです。
こうなると、残りは大塚学長くらいしかいません。この大塚学長に責任を負わせて辞任に追い込む。そして、ご自身は理事長ポストを続投、というシナリオは考えられます。
ただ、過去のスキャンダルと異なり、騒動が長期化して世論は日大に厳しく見たままです。
仮に大塚学長を辞任においこんだとしても、それで事態は収まるとは思えません。
なお、大塚学長は「意見がまったく違う。学生をかばうつもりはもちろんありますけど、どうしてあそこまで」など、関東学連の裁定に不満を漏らすなどしていました。第三者委員会の最終報告が出た今、あのときの不満が正しかったかどうか、学長としての責任はどう考えるのか、など、そこは説明責任があるのではないでしょうか。
日大の関連法人・企業での復帰は?
内田・井上両氏は最終報告書の発表前に日大が解任を発表しました。井ノ口・前理事も辞任しています。
これで影響力はなくなった、と信じたいところ。
ただ、日大は関連の法人や企業が多数あるマンモス大学です。このため、内田・井上・井ノ口の3氏についても、関連の学校法人・企業に移り、その後、時期を見て復帰、というシナリオも考えられます。第三者委員会の最終報告を踏まえるのであれば、関連の法人・企業への転職も許さない、くらいの話を日大側からすべきではないでしょうか。
ブチ切れ司会者はどうなる?
最終報告書では「責任ある広報体制の整備」という項目で「社会からの期待に応えるに足る説明責任が果たされていなかった」と断じています。
そのためにも責任ある広報体制の整備は必要でしょう。
その際、ブチ切れ司会者だった米倉久邦氏を筆頭に本来の広報業務を全うできなった広報部職員ないし関連企業社員をどこまで入れ替えることができるかどうか。ここも大きなポイントです。
田中理事長は相撲部総監督を辞職する?それとも居座る?
日大アメフト部の加藤直人部長名義で関東学連に提出した改善報告書には、兼職の禁止を再発防止策にあげています。
兼職していない監督・コーチでもパワハラをしてしまう方はそこそこいるはず。兼職禁止だけで再発防止というのはあまり意味がないような。
さらに、ここで日大は改善報告書の兼務禁止のところでこう面倒なかき分けをしています。
「常務理事、理事(学部長である理事を除く)、学長及び副学長がスポーツ競技部の部長または副部長を兼務することを禁止する」
「理事、学長及び副学長がスポーツ競技部の監督又はコーチを兼職することを禁止」
日大ネタを追っかけている方はピンと来たのではないでしょうか。というのもこの改善報告書に「理事長」とは書いていません。
田中理事長は現在も相撲部総監督のポストを兼務されています。
一方、最終報告書の兼務禁止規定では「理事長」とも明記しています。
理事長、常務理事、学長及び副学長が競技部の部長、副部長、指導者(監督、コーチ)、上記センター幹部又は事務局職員を兼任することを禁止
この最終報告書を受けて田中理事長は相撲部総監督の椅子に座り続けるか、それも辞任するのでしょうか。
最終報告書には「監督、コーチ」とあるので「総監督は名誉職だから」と言い張ることは不可能ではないですが…。
田中理事長は記者会見をする?
最終報告書では田中理事長の説明責任に触れたうえで反省声明の発表について言及しています。
私はこの期に及んでも、まだ田中理事長は記者会見をするか、それともだんまり作戦を継続か、五分五分と見ています。
ご本人もどうやら自覚されているようですが、田中理事長は剛腕であっても弁のたつ方ではありません。
しかも、記者会見をすれば、どう考えても、田中理事長の経営責任も厳しく問われるでしょう。
そのため、下手に記者会見をすると内田・井上会見以上に炎上しかねません。
と言ってだんまり作戦を継続し、記者会見をしなければしないで、「第三者委員会でも説明責任に触れられているのに無視するとはおかしい」と批判が強まります。
どちらに転んでも、田中理事長としては苦しい展開でしょう。
第三者委員会の発足時、ここまで厳しい内容になるとはさすがの田中理事長も想定外だったのではないでしょうか。
今後の日大劇場がどうなるか、主役の田中理事長はいよいよ「出演」となるかどうか、その展開にも注目していきたいところです。