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ネット通販で代金を振り込んだら音信不通に 詐欺にだまされた…どうすればいい?

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

 ほしかった商品がネット通販で安く販売されていたので、購入手続をし、指定された銀行口座に代金を振り込んだ途端、音信不通に――。コロナ騒動で活況を呈する通販市場を舞台に、こうした詐欺が横行しているという。

個人情報が悪用されるおそれも

 代金を振り込む前に詐欺サイトだと気づいたら、サイト側にメールでその点を指摘し、キャンセルすると伝えればいい。もし催促のメールがきても、放置しておいて構わない。

 確かに、ネット通販の場合、購入を申し込んだ者に販売者による承諾の通知が到達すれば、売買契約が成立する。しかも、ネット通販にはクーリング・オフ制度の適用もない。サイト上に「キャンセル不可」といった特約の記載があれば、これに従うのが本来の姿だ。

 しかし、負い目のある詐欺サイトの運営者、特に海外にいる詐欺師が自らの素性を明かし、日本の裁判所で法的手段に出ることなどありえない。次の「カモ」を引っ掛けたほうが早いからだ。

 それでも、注文時に入力した氏名や住所、電話番号などの個人情報が悪用される可能性は残る。別の詐欺サイトで勝手に名義を使われ、事業者として仕立て上げられるなどだ。IDやパスワードを複数のサイトで使い回していれば、不正アクセスの被害も考えられる。

 詐欺サイトに登録した個人情報をデタラメなものに変更するとともに、同じIDやパスワードで登録している別のサイトのIDなども変更しておかなければならない。

「振り込め詐欺救済法」がある

 では、指定された預金口座あてに代金分を振り込んだあと、詐欺サイトだと気づいたら、どうすればいいか。

 登録した個人情報を変更しておくことなどについては先ほどと同様だが、サイトに記載されている事業者名などは他人の名義を勝手に使うなどしたものだし、預金口座も外国人留学生らから不正に譲り受けたものと思われる。

 これらから犯人にたどり着くことなど事実上不可能だから、とにかく被害金の回収を急いだほうが賢明だ。

 もし振り込んだばかりであれば、振込元銀行に連絡して「組戻し」という手続をとることで、キャンセルできる。振込先銀行が入金の記帳を行う前であれば、名義人の同意は不要だ。

 しかし、入金の記帳後だとその同意を要するし、詐欺師が同意することなど考えられない。

 そのため、「振り込め詐欺救済法」を使うことになる。詐欺に使われた預金口座の凍結や口座残高からの被害金の返還手続を定めている特別な法律だ。

 全国銀行協会の取り決めでは、捜査機関から通報があった場合、すみやかに口座の凍結を実施することになっている。

時間との戦い

 そこで、大至急、警察に詐欺の被害を届け出たうえで、警察から振込先銀行に対し、犯罪に利用された疑いのある預金口座であると通報してもらう必要がある。

 念のため、自らも振込先銀行に対し、「だまされて振り込んだ」と第一報を入れておくといい。

 警察や銀行から被害状況に関する説明や資料の提出を求められるので、詐欺サイトのURL入りの画面、やり取りしたメール、振込明細などをすべて印刷し、あるいはスクリーンショットで記録に残し、手もとに準備しておく必要がある。

 うまく手続が進めば、預金保険機構による公告や預金債権の消滅を経て、約3カ月後には被害金が戻ってくるだろう。

 その間、国民生活センターのほか、セーファーインターネット協会などの民間団体にも詐欺サイトに関する情報を通報しておくと、次の新たな詐欺被害を防ぐ一助となる。

 ただ、被害者が複数いれば、口座残高を被害額で案分した金額しか返還されない。しかも、口座の凍結手続を進める前に詐欺師によって預金が引き出されていれば、もはやここから回収することなど不可能だ。

 詐欺師に対抗するには、自己防衛が不可欠といえよう。(了)

【参考】

拙稿「コロナで活況のネット通販 詐欺サイトにだまされないためのポイントは?

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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