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また車暴走テロ バルセロナで13人死亡、100人超負傷 イギリスでは反イスラムの嫌悪犯罪が増加

木村正人在英国際ジャーナリスト
車が暴走して13人が死亡したバルセロナの現場(写真:ロイター/アフロ)

惨劇

 スペイン第2の都市バルセロナのカタルーニャ広場近くで17日午後5時ごろ(現地時間)、白色フィアットが猛スピードで観光客の人混みに突っ込んで、13人が死亡、100人以上がけがをしました。このうち少なくとも10人は重体だそうです。

 以下のツイッターには被害者が手当を受けている様子も映っています。

 現地の警察はテロ容疑で男2人を逮捕し、背後関係を調べています。フィアットを運転していた男は逃走中とみられています。

 バルセロナには知人が多いのでコミュニケーションアプリ「ワッツアップ」で連絡を取ったところ、みんな無事でしたが、大きなショックを受けていました。犠牲になられた方のご冥福と負傷された方の回復を祈らずにはいられません。

 現地からの報道によると、犯行に使われたフィアットを借りていたのはモロッコ出身のDriss Oubakirで、1989年生まれ、20代後半です。車は遊歩道ラ・ランブラをジグザクに約500メートル暴走して観光客を次々とはね飛ばしました。

 ソーシャルメディアにアップされた動画を見ると、遊歩道のいたる所にぐったりした犠牲者が横たわっています。

 米CNNによると、前日夜にバルセロナから南西に200キロ離れた民家が爆発して1人死亡する事件があり、逮捕された2人のうち1人が関係しているそうです。不審なバンがバルセロナ北部の小さな街で見つかり、関連を調べています。現場から西に10キロ離れた場所で検問していた警察官2人が車にはねられる事件が起き、1人が射殺されましたが、関連は今のところ分かっていません。

 地元メディアによると、Driss Oubakirは服役していたことがあり、2012年に出所。この日曜日にモロッコから戻ったばかりです。調べに対し「運転免許証を弟に盗まれた。自分は事件に関係ない」と話しているそうです。

 過激派組織IS(イスラム国)とつながりのあるアマーク通信は「攻撃を実行したのはISの戦士だ」とする声明を発表しました。ISは自分たちの掃討作戦を展開する有志連合の参加国を狙えと呼びかけていました。

「バルセロナは過激化のハブ」

 グローバル・テロリズム・インデックス2016(インスティテュート・フォ・エコノミックス&ピース)によると、フランス29位(5.603)、イギリス34位(5.08)、アメリカ36位(4.877)、ドイツ41位(4.308)に比べると、スペインは89位(1.203)と比較的安全とみられてきました。

 しかし、英キングス・カレッジ・ロンドン大学過激化・政治暴力研究国際センター(ICSR)所長のピーター・ノーマンは英メディアに対し「バルセロナは長年、過激化とサラフィスト説教師のハブだった」と指摘しました。

 バルセロナでは2008年に地下鉄を狙った自爆テロ計画でパキスタン人12人、インド人2人が逮捕されています。32人の犠牲者を出したベルギーの自爆テロでも今年4月、8人が逮捕されています。約1000人がスペイン治安当局のレーダーに引っ掛かっており、200人をウォッチしているとのことです。

相次ぐ車暴走テロ

 欧州では、手軽に大きな打撃を与えることができる車を利用した繁華街での無差別テロが相次いでいます。ISは車を使ったテロを以前から呼びかけてきました。昨年7月、フランス南部ニースで86人を殺害するという大きな「戦果」を上げてから模倣するテロリストが一気に増えました。

2014年12月、フランス西部ナントとフランス中部ディジョンで起きた車暴走テロで20人以上が負傷

昨年7月、フランス南部ニースで、チュニジア人の男が大型トラックを暴走させて花火の見物客86人を殺害

昨年12月、ドイツ・ベルリンのクリスマス市に大型トラックが突っ込んで12人を殺害

今年3月、ロンドンのテムズ川にかかる橋で車が歩行者を次々とはねたあと、運転していた男が警察官をナイフで襲い、5人を殺害。負傷者49人

今年4月、スウェーデン・ストックホルムでウズベキスタン人の男が大型トラックで百貨店にツッコミ、4人を殺害

今年6月、ジハーディスト3人がバンでロンドン橋の通行人をはね飛ばしたあと、次々とナイフで刺して8人を殺害

今年8月、パリで車が兵士のグループに突っ込み、6人を負傷させる

増える反イスラムの嫌悪犯罪

 マンチェスター警察によると、22人が犠牲になった今年5月のマンチェスター自爆テロから約1カ月の間にイスラム教徒を狙った爆破予告、人種差別的なあざけり、落書きなどの攻撃や嫌がらせは224件にのぼったそうです。前年同期は37件に実に505%の増加でした。しかし、その後は例年通りに戻りました。

 また同じ期間に人種に関連した犯罪や事件は61%増、障害者を狙ったものは41%増、性的な犯罪や事件は9%増になったそうです。

 マンチェスター警察幹部は「マンチェスターはその多様性を誇りに思っている。いかなる嫌悪や差別も許さない。その後、元に戻ったとは言え、一時的に嫌悪犯罪が増えたことは非常に残念だ」と話しています。

 ロンドンでも相次いだテロの後、イスラム教徒をターゲットにした嫌悪犯罪が5倍に増えたそうです。

 イスラム教徒をターゲットにした嫌悪犯罪への対策に取り組んでいる民間団体「テル・ママ」によると、2013年5月から17年6月にかけ、イギリスで167カ所のモスク(イスラム教の礼拝所)が反イスラムの嫌悪犯罪に遭ったそうです。13年は43件、14年は21件、15年24件、16年45件、今年7月時点で34件です。

 イギリスの有権者が昨年の国民投票で欧州連合(EU)離脱を選択してから11カ月で宗教や人種に関連した嫌悪犯罪は23%も増えました。

 世界金融危機のあと景気が後退し、グローバリゼーションに対する倦怠感が欧米に広がりました。怒りは社会のマイノリティーのイスラム系移民に向けられるようになり、ISはこの溝を広げるように欧州の分子にテロを積極的に実行するよう呼びかけています。

自爆テロのあと団結を誓うマンチェスター市民(今年5月、筆者撮影)
自爆テロのあと団結を誓うマンチェスター市民(今年5月、筆者撮影)

 テロに対して、無辜のイスラム系移民を攻撃するのはテロと同じことです。マンチェスター自爆テロの翌日、イスラム系移民も含めた地域社会が「マンチェスター、ラララ。マンチェスター、ラララ」と歌って団結を確認したのを思い出します。

 寛容と忍耐が今、求められています。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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