コロナ時代の「ドローン」はどうなるか
小型無人飛行ロボットであるドローンという技術は、この数年で一般にも広く知られ、普及し始めてきた。新型コロナ感染症が感染拡大を続けている中、人を介さず遠隔で物を運んだり、情報を収集したりするドローンが注目を集めている。空撮で多くの実績を残すドローン・パイロットにコロナ時代のドローンについて聞いてみた(この記事は2020年12月27日の情報に基づいて書いています)。
政府が後押しするドローンとは
政府は「空の産業革命」とし、ドローンの活用による産業振興を目指している。政府と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、国産のドローン開発の支援に動き、国土交通省も過疎地におけるドローン物流の支援を始めた。また、長崎県五島市や愛知県は五島列島や三河湾での離島への医薬品搬送にドローンを活用する実証実験を開始している。
政府は法的なドローンの飛行拡大のため、航空法の改正案とドローン操縦の免許制度を創設する方針を固めた。これは、目視外の市街地上空でドローンを飛行できる資格(一等)と人がいない地帯や目視外で飛行できる資格(二等)のライセンス制度を含む、ドローンの機体の認証や保守整備の義務といった改正内容になっているようだ。
防衛省がドローンの飛行禁止施設に13施設を追加して規制を強化する一方、いわゆる「空飛ぶクルマ」の実用化を見すえてか、国土交通省は高度150メートル以上を飛行するドローンに一定の条件の下で飛行許可の取得を不要とする方向へ規制緩和するという。こうした流れを受け、KDDIなどがドローンの目視外での飛行の実証実験を計画し、ソフトバンクと双葉電子工業は産業向けドローンを共同開発すると発表し、空飛ぶクルマの開発も活発化している。
ドローンは手軽で安価な玩具のようなものが市場に出回っているが、実際に屋外で飛ばす際には厳しい法規制がある。屋外の環境で安定的に飛ばすためには、一定の技術が必要なのも確かだ。一般人にはハードルが高いドローンの法規制や技術、そして2021年からドローンはどうなるのかについて、ドローン・パイロットとして多くの実績を残す富士山ドローンベースの渡邉秋男氏に話を聞いた。
ドローンに関する法規制は多い
──ドローンの法規制は各国で異なるようですが、日本は世界の中で現状どんな法規制をしているのですか。
渡邉「2015年12月にそれまでの航空法が改正され、無人航空機という定義が加えられました。この定義は200グラム以上のドローンで、飛ばしていい場所とダメな場所が明確に決められました。ドローンは重量によって規制が違っています。2020年12月21日、国土交通省は規制対象になるドローンの重量を200グラム以上から100グラム以上へ引き下げる方針を出しています。ネット通販などでも購入できる200グラム未満のホビードローンは模型飛行機のカテゴリーで、200グラム未満のドローンを例えば皇居、霞ヶ関周辺、国の重要施設、大使館の近くで飛ばすためには許可が必要になります。許可の申請は、48時間前までに所轄の警察署に出しますが、業務ではない単なる趣味の飛行なら許可は出ないケースが多いようです」
──航空法を含めた国内法におけるドローンの位置について説明してもらえませんか。
渡邉「先程のべましたが、ドローンも航空機という定義の中に入っています。航空機として定義された物体は、空中に浮いた瞬間から航空法の対象になります。航空法によるドローン規制には主に9つの決まりがあります。それは、無許可で飛ばせない地帯として、空港の周辺、高度150メートル以上、人口密集地、イベント会場の上空、第三者から30メートル未満、無許可で飛ばせない条件として、夜間、目視外、危険物の輸送、物体の落下、といった9つで、もちろん無許可で飛ばせば航空法により罰則などに処されます」
──航空法以外にも規制があるのでしょうか。
渡邉「民法では私有地の上空に無許可で侵入できません。さらに、2016年に制定された小型無人機等飛行禁止法(重要施設の周辺地域の上空における小型無人機等の飛行の禁止に関する法律)によって国会議事堂や首相官邸、皇居といった国の重要施設、外国公館、港湾施設、原発周辺で飛ばせないといった規制もあり、その他に電波法の規制、自治体などの条例、道交法による高速道路、鉄道法による新幹線の上空の規制、自然景観を守る自然公園法といった規制があり、河川法では河川によってドローンの飛行を規制している場合があります。例えば私が主宰する富士山ドローンベースの近くに富士急ハイランドがあり、敷地が富士河口湖町と富士吉田市にまたがっていますが、富士河口湖町は許可が必要なく、富士吉田市は許可が必要です。これは富士吉田市の上空は人口密集地なので、航空法によって許可が必要なためです」
──屋外でホビードローンを飛ばすのは難しいということでしょうか。
渡邉「重量のほか、飛ばす場所によっても規制が変わってきます。200グラム(今後は100グラム)以上でも屋内の締め切った空間の中ならどこでも飛ばすことが可能です。この屋外というのは、ドローンが屋外へ飛び出ないようになっていることが条件で、例えばほぼ密閉されている東京ドームで飛ばすのは航空法の適用外ですが、スタンドと屋根の間が外に開いた状態になっている西武ドームでは航空法の適用内になるので、飛行方法によっては違法になる危険性があるので注意が必要です」
日本向け中国製ドローンとは
──屋内での飛行も法的に規制される場合がありますか。
渡邉「あります。無線免許や登録が必要ない電波帯は、73メガヘルツで出力が送信距離500メートル、電界強度が200マイクロボルト/メートル以下のもの、920メガヘルツで出力が20ミリワット、そして2.4ギガヘルツで出力10ミリワット/メガヘルツです。例えば、ドローンは通常、無資格無申請で使用できる2.4ギガヘルツ帯が使われていますが、電波法で200グラム(今後は100グラム)未満のホビードローンでも5.8ギガヘルツ以上のアマチュア無線を業務で使ってはいけません。これは屋内でも適用されますし、2.4ギガヘルツでも技適(技術基準適合証明)を受けて技適マークが記載された機体でなければなりません。国内メーカーのドローンとプロポ(送信操縦機)では電波法に準拠した製品になっているはずですが、外国製品では電波法の規制を守らなかったり、技適を受けていない場合もあって注意が必要です」
──他国の規制はどうなのでしょうか。
渡邉「重量の200グラム未満がホビードローンという基準は、野球の硬球の重さが約142グラムから149グラムということから決められたそうです。ヨーロッパではこれが250グラム未満で日本はヨーロッパの基準より少し厳しくしたということでしょう。ドローンが広まってきたため、日本の行政は安全配慮を目指し、ヨーロッパは十分な安全対策を講じつつ、夜間や目視外、人工集中エリアといった危険な条件や地帯には飛行許可を出さない対応してきた背景があったのだと思います。米国の場合、ホビーのドローンは重量制限もなく、どこで飛ばすのも自由ですが業務用になると許可が必要になります。中国の場合、7キログラム未満がホビードローンで、かなり規制がゆるくなっています」
──中国製のドローンが世界中で売れているようですが、各国の法規制に準じた製品になっているのでしょうか。
渡邉「中国製ではDJI(Da-Jiang Innovations Science and Technology)という会社の製品が有名ですが、例えば250グラムのドローンを日本向けに199グラムに軽量化して話題になりました。このDJI製ドローンはGPS内蔵のホバリング機能が付き、スマートフォンの汎用部品を使ったため5万円という安価で発売された機体です。しかし、屋外で飛ばす場合、軽量なため事故が多発し、国会でも200グラム未満のドローンも規制対象にすべきという議論の原因にもなり、2020年12月の国土交通省の100グラム未満という方針表明にもつながったわけです」
日本製ドローンの可能性は
──ドローンを飛ばす際の安全対策はどのようなものがありますか。
渡邉「まず、保険に加入しておくことが必要です。また、飛行許可を得て本来なら禁止されている地帯を業務で飛行させる際、バンパー、プロペラガードなどを付けて安全性を高め、電波が途切れた際、離陸した場所に自律的に戻ってくる機能をつけたりします」
──こんなに法規制があると気軽にドローンを飛ばすことは難しいですね。
渡邉「今後、業務以外では100グラム未満のホビードローンを体育館などの屋内で飛ばすしかなくなると思います。業務で飛ばしたい場合、例えばお祭りなどのイベントではその都度、国土交通省に申請して承認を得ておかなければなりません。そのため、全国には約800のドローン・スクールがあるとされ、実技テストを経てスクール独自のライセンスを出しています。こうしたドローン・スクールは自動車教習所が設立したものも多く、今後のライセンス制度をみすえて国土交通省も公認講習所を作ろうとしているようです。そうなるとドローンのライセンスは国家資格になり、ドローンを物流など社会的に利活用する道筋がみえてくると思いますが、ドローンを安全に飛ばすためにはドローンのための管制システムの整備も必要になってくるでしょう。現在、各社がUTM(UAV Traffic Management)という無人航空機管制の事業を始めています」
──米国がファーウェイへの制裁と同じく中国のドローン企業、DJIにも規制を強めるのではないかと言われています。
渡邉「世界の民生用ドローンの約7割がDJI製と言われています。この企業は中国人のフランク・ワン・タオという人物が設立したのですが、当初はフライトコントローラーだけを作っていたようです。それが2013年にファントムというドローンを約1000ドルで発売して話題になりました。このように中国製のドローンはとにかく値段の安さが特徴です。18万円で作られている中国製と同じ性能のドローンを日本製で作ろうとすると数百万円ほどになってしまうでしょう。米国はすでに中国製を含めた外国製ドローンに制限をかけています。安全保障上の規制強化がDJIをはじめとする中国製ドローンに向かう可能性は高いと思います」
──日本製ドローンの可能性はどうなのでしょうか。
渡邉「日本製のドローンは、中国製に比べて量産効果が劣っていて値段が高くなりがちです。日本製、中国などの海外製を含めてドローン自体の技術的な課題もまだ多く、例えば東京の上空をドローンが荷物を運ぶケースでも飛行時間は数十分、ペイロード(可搬重量)も数キログラム程度では実用化は難しいでしょう。ただ、農薬散布に使われている軽トラに積むくらいの大型ドローンの場合、ペイロードは10キログラムですから、こうした機体を使えば実用化の可能性はあるかもしれません」
──今後、日本でドローンはどうなっていくと思いますか。
渡邉「将来的にドローンを利活用するためには、ドローンが社会的に認知されることが必要です。国土交通省は、航空機と同様、機体の安全、操縦者を含めた人的な安全、運用の安全の三原則を堅持できなければ、おそらく大幅な規制緩和はしないと思います。まず積極的な実証実験ありきですが、こうした安全性を確保し、遠隔送電といった技術的なイノベーションでアドバンテージがとれれば、国産ドローンにも可能性があると思います」
重要なマニュアル操縦の技術
──安全性に関しての技術的な課題はどんなところにあるのでしょうか。
渡邉「現在の技術では、センサーや電波が失われても安全に飛行させ、直陸させることはマニュアル操縦でなければできません。ドローンはGPSや地面へのセンシングで位置を決めていますから、地面がゆらぐ例えば小川のせせらぎの上では自律的に飛べないのです。また、現在の電波法ではドローンに4Gも5Gも搭載できません。仮に4Gや5GのSIMカードが搭載できるようになったとしても、そのバックアップが必要となり、そのバックアップとして衛星電話を搭載するというアイディアもありますが、衛星電話を義務化すると機体が重くなってしまい、飛行時間が短くなってしまうでしょう。マニュアルで安全に飛ばせるくらいの操縦技術を持ったパイロットをたくさん育成し、技術的なイノベーションと同時に法規制の緩和が重要になってくると思います」
──実際に飛ばしてみて難しいところはどこでしょうか。
渡邉「最近は下向きのセンサーが発達して安定した飛行ができるようになってきていますが、地形によってGPS衛星の数が少なくなるとドローンの安定性が失われます。例えば、高層ビルが多いと空が狭くなって衛星の数が少なくなります。ですから、GPSを見失った場合、瞬時にマニュアルモードに切り替えないと危険ですから、マニュアル操縦の技術を高めておくことが重要です。私の場合、GPSを見失いそうな場所はGPSに頼らず、常にマニュアルモードで飛ばすようにしています」
──ところで、富士山ドローンベースは地域の活性化にも役立っているそうですね。
渡邉「我々のドローン空撮スタジオは富士五湖の一つ、精進湖のそばにあります。精進湖観光協会さんの事業として精進湖や山中湖、富士吉田市でのドローン空撮の体験サービスとスクールカリキュラムを提供し、地域の活性化に役立ててもらおうと考えています」
──最後にドローンできれいな風景を撮影するコツを教えて下さい。
渡邉「ドローンが飛んでいってしまうと挙動がわかりにくくなりますから、常に何秒か先のドローンの挙動を予想することが大事です。また、地上からは上空の状態がわかりませんが、立体的な空間把握も含め、地上からドローンが今、上空からどんな景色を眺めているか想像しながら操縦することも必要です。地上から予測するのとは全く別の絶景が突如として現れてくることもあります。時間の経過を連続的に動かすところがドローンとゲームとの違いです。あたかも鳥が飛んでいるような、固定翼機が滑らかに滑空していくような撮影を心がけてください」
渡邉秋男(わたなべ・あきお)
クレセントエルデザイン代表取締役/ドローングラファー。システム開発およびウェブ制作の会社を経営。2012年にドローンにはじめて出会い、2014年から本格的なドローン空撮サービス事業開始。ドローングラファーとして全国500カ所以上の撮影、8000フライトの経験を持ち、映像作品はフランス国営テレビやNHKをはじめ世界から評価を得ている。2015年、世界初、富士山登頂4Kドローン撮影に成功。2016年、Drone Movie Contest 2016グランプリ・審査員特別賞2作品同時受賞。TV、映画、プロモーションフィルム、CMなどへの映像提供をはじめ、自身での映像作品制作にも意欲的に取り組む。またそのかたわら、ドローン・スクールでの実技講師としても活動。山梨広告協会の2020年度、山梨広告協会賞を受賞。