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W杯開催国の強豪、フランスに完敗。2ヶ月後の本大会に向け、なでしこジャパンが直面した優勝候補の洗礼

松原渓スポーツジャーナリスト
日本は6月のW杯開催国のフランスに1-3で敗れた(写真右は熊谷紗希)(写真:ロイター/アフロ)

【W杯前哨戦は完敗】

 W杯を6月に控えて最後の欧州遠征に臨んでいるなでしこジャパンは4日、オセール(フランス)のスタッド・アッベ・デシャンでフランス女子代表と対戦。1-3で敗れた。

 フランス(FIFAランク4位)は6月のW杯開催国で優勝候補の呼び声高く、同じく優勝を狙う日本にとっては、厳しい現実を突きつけられた形だ。

 日本では滅多にない夜9時という深い時間帯のキックオフ。大量に水がまかれたスリッピーなピッチ、日本のゴールキックの際の観客の大ブーイングなど、様々な洗礼がなでしこを待ち受けていた。だが、それらを差し引いても力の差は明らかだった。

 開始早々の4分に右サイドからクロスを上げられると、中央でFWヴァレリー・ゴーバンに頭で叩き込まれる。GK山下杏也加が鋭い反応で弾いたが、ゴールラインを割ったと判定された。

 フランスに限らず、欧米の強豪国は、日本が相手の間合いに慣れる前に一気に仕掛けてくる傾向がある。試合の入り方は、本大会までに改めて確認しておきたいポイントだ。

 一方、24分の日本の同点ゴールは、複数が関わった見事な崩しから生まれている。

 中央でMF杉田妃和の横パスをFW小林里歌子がスルー。走り込んだMF中島依美のシュートを相手GKが弾き、詰めていた小林が決めた。最終ラインから左サイドを経由したビルドアップ、フィニッシュまでの形も含めて、理想的なコンビネーションだった。

 だが、これでさらにスイッチが入ったフランスの猛攻に晒された日本は、自陣に釘付けにされた。両サイドから放り込まれるクロスに対して、中央では173cmのDF熊谷紗希と171cmのDF南萌華の2人を中心に耐えていたが、前半33分に左コーナーキックの折り返しをゴール正面からMFルソメに決められ、勝ち越しを許した。

 1点ビハインドで迎えた後半も、一瞬たりとも気の抜けない激しい攻撃が続く。高倉麻子監督は61分、DF清水梨紗とDF横山久美に代えてDF宮川麻都とFW菅澤優衣香を投入。MF長谷川唯と小林のポジションを入れ替え、終盤には中島に代えてFW宮澤ひなた、長谷川に代えてFW植木理子と、攻撃的な選手を次々に送り出して攻撃に変化をつけようとしたが、流れを変えることはできなかった。

 終盤の82分には中盤でボールを奪われてカウンターを受ける格好になり、右サイドのMFカスカリーノにドリブルで持ち込まれて強烈なシュートを許す。山下が弾き出したものの、正面に転がったこぼれ球をMFディアニに押し込まれて1-3。フランスの勢いは最後まで衰えず、日本は反撃の糸口を見出すことができなかった。

「個の力はどの国よりも強い」

 フランス戦に向けた準備段階では、そんな印象を口にする選手も何人かいた。

 国内リーグとは明らかに異なるパワーやスピード、リーチなどへの対応に苦労することは目に見えていたが、フランスの選手は足下のスキルや体の使い方も巧みで、個々の総合力はやはり群を抜いていた。

 個の力が強い海外のチームは組織力に欠ける場合が多く、そこが攻めるポイントとなる。だが、フランスはコンビネーションプレーでも強力なパターンを持っていた。

 過去にフランスとの対戦経験があり、自身もフランスリーグ1部のモンペリエでプレーした経験を持つDF鮫島彩は、冷静な口調で振り返っている。

「相手との間合いがつかめませんでした。国内リーグの強度とは全く違うので、相手にボールを持たれてしまうのは仕方ない部分もありますが、最後はゴールを割られないようにしたいです」(鮫島)

 開口一番、「何もできませんでした」と悔しそうに語ったのは、長谷川だ。豊富な運動量とテクニックで日本の攻撃を牽引する存在だが、その本領を発揮するためには、ボールに触る回数が少なすぎた。守備に追われる中、攻撃の歯車をかみ合わせることで流れを引き戻そうと手を尽くし、後半は得意のトップ下にポジションを変えた。だが、最後まで歯車は狂ったままだった。

「ほとんどボールを触っていない印象です。囮になっていた部分もありますが、自分のところでもっといろいろなことができたと思うし、動きも含めて修正すべきところがたくさんあります」(長谷川)

 日本がW杯で上位を狙うために、フランスとの対戦を避けては通れない。試合の入り方を徹底し、相手の得意な攻撃パターンに対して守備の狙いどころを細かく共有し、粘り強くゴールへの糸口を見出していくーーそういったことを突き詰めていけば、勝つチャンスはあるはずだ。本番まで残された時間は少ないが、チームの修正力の見せどころだ。

【光った個の力】

 試合は完敗だったが、勢いに火がついたフランスの攻撃を3点で抑えたことは、むしろポジティブに捉えることができる。山下のファインセーブや、体を張った熊谷の守備がなければ、さらに失点を重ねていてもおかしくなかった。また、攻撃面でミスは多かったものの、3月のアメリカ遠征に比べると、軸となるメンバーが絞り込まれてきたことで、ボールの動かし方に不安定さがなくなった。

 現地でのトレーニングはゲーム形式のメニューが多く、タッチ数を制限した中で、小気味良いワンタッチパスが何本も繋がってフィニッシュまで持ち込む形も見られる。9日のドイツ戦では相手との間合いを早い段階で掴み、魅力的な攻撃を見せることができるか。

 個々に目を向けると、自陣ゴール前では熊谷の1対1の強さが際立った。ファウルにならないギリギリのコンタクトプレーで、一瞬の隙を見逃さずにボールを奪い切る。女子チャンピオンズリーグ3連覇中のリヨンで7シーズン目を迎えた熊谷は、日々、同じように強度の高いデュエルを重ねてきた。その頼もしさを改めて感じた。

フランス戦で安定した守備を見せた南萌華(写真中央/筆者撮影)
フランス戦で安定した守備を見せた南萌華(写真中央/筆者撮影)

 また、熊谷とセンターバックを組んだ南の安定感も光った。3月のブラジル戦、イングランド戦に続き代表3試合目とフル代表での経験は浅いが、試合ごとにチームにフィットし、強豪相手にも1対1の強さやフィードなどの持ち味を発揮している。

「前線に速い選手がいたので、一発で飛び込まずに、うまくスピードを吸収しながら対応しようと意識しました。それは前半からできていた手応えがあります。攻撃がうまくいかなかった時に、ボランチなどを使ってどう変化をつけていくかが、これからの課題です」(南)

 20歳とは思えない、落ち着いた風格がある。年代別では昨年8月のU-20女子W杯でキャプテンとしてトロフィーを掲げており、リーグ戦でも浦和レッズレディースの中心選手の一人だ。同じ20歳で、デビューから一気に森保ジャパンの中心選手になったDF冨安健洋のように、南も一気にレギュラーに定着する可能性がある。

同点弾を決めた小林里歌子(筆者撮影)
同点弾を決めた小林里歌子(筆者撮影)

 攻撃面では小林の存在が際立っていた。アメリカ遠征のブラジル戦に続き、代表4試合目で2ゴールと国際試合で強豪相手に決定力を発揮しているが、この試合ではその活躍を裏付けるプレーがいくつもあった。常に首を振って周囲の状況を確認し、相手に捕まりにくいポジションに立つのがうまく、守備の貢献度も高い。前半の同点弾は、食らいついてくる相手2人をスルーパスで置き去りにするアイデアが光った。

 後半、左サイドにポジションを移してからは、サイドアタッカーとしての魅力も発揮している。全体的にバックパスが多く攻め手がない中、フェイントやワンタッチパスで味方とうまく連係しながら前を向き、ドリブルで相手を剥がす場面もあった。試合後は、

「フランスのスピードや力強さ、パススピードは、イングランドやアメリカよりも上だと感じました」

 と、実感を語ったが、90分間の中でしっかりと相手を分析し、課題と収穫を口にした。

「相手のディフェンスの前が空くことはわかっていたのですが、前半はそのスペースをうまく使えませんでした。スポットで受けてもっとボールを動かせれば、日本のペースになったと思います。相手との間合いは前半の早い段階でつかめていました。トラップが大きくなって奪われるシーンがあったので、そこはまだまだですね」(小林)

 今年に入ってフル代表に初選出され、W杯メンバー入りに向けて結果を出し続ける重要性を口にしていた小林だが、ここまでは有言実行の活躍を見せている。昨年、長いリハビリから復帰し、国内リーグでも存在感を増している21歳に引き続き、注目したい。

 

 なでしこジャパンは試合翌日の5日にドイツに移動。9日のドイツ女子代表戦に備えて、6日は午前の1部練習で汗を流した。選手たちの表情は明るく、チームの雰囲気は良さそうだ。

 ドイツは2月の親善試合でフランスに1-0で勝利している。厳しい試合になりそうだが、W杯に向けてチームが向上する材料を得るためにも、積極的なチャレンジに期待している。

 ドイツ戦は日本時間9日(火)の23時からNHK BS1 にて生中継される。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のWEリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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